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『時代遅れスキル『ゴーレム制作』専門の男爵家四男が、転生者の知識でそこそこ頑張るはずが、なぜか王弟に目をつけられてしまう話』  作者: 葉月奈津・男
第二部、『帰路』

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第93話 『ルアー』

2/2

 


 ◇クアルト◇


 チェスというゲームがある。


 最初から最後まで『頭脳戦』。

 そして――『心理戦』。

 手持ちの駒を犠牲に差し出しつつ、敵の『キング』を奪うことを目的とする。


 『計算』。

 より正確に言えば『引き算』のゲーム。


 自軍の駒を取らせつつ、それ以上に相手の駒を取る。

 それが勝負のカギ。


 『ゴーレムマスター』に、この『ゲーム』は相性がいい。

 人間の兵士は、失ったら取り戻せない。

 穴埋めするには時間と金がかかる。


 しかし、ゴーレムなら破壊はされても失われはしない。

 むしろ、作り直すたびに洗練され、強く、美しくなる。

 作り直しはそのまま『経験値』だ。

 いいことしかない。


「馬は、役目を果たしたよね」

 崩れていく左右両翼の馬を見て、『僕』は確認するように頷いた。


 男爵家を継ぐ気はなくても貴族の子。

 戦術眼を鍛えるべく、チェスは必修。

 『オレ』の前世知識も相まって、『クアルト』はチェスが得意だ。


「レザーとクロスを敵の左右に届けることには成功したんだもの」


 戦場の空気が、じわりと変わっていくのを『オレ』は感じていた。

 兄上の兵たちは、ただ数が多いだけではない。

 訓練で磨かれた動きが、まるで一つの生き物のように連動している。


 こちらが一手動けば、必ずどこかが反応する。

 まるで盤上で、相手の指先が駒に触れる気配を読むような感覚だ。


 だが、それは同時に“誘導できる”ということでもある。

 強い意志で動く兵ほど、狙った方向へと流れやすい。


 兄上の読みの深さを知っているからこそ、逆にその読みを利用できる。

 チェスは、相手の強さを逆手に取るゲームだ。


 惜しむらくは、作ったばかりで『武器』を持っていないこと。


 『布』製の武器は思いつかず、『革』は鞭ぐらいしかない。

 そのため、『素材』から武器を作るのは諦めた。


 だから、無手で殴りに行くしかない。

 そこがちょっと残念。


 だけど、それを言うならプリムの側も、騎士団得意の騎士と歩兵による連携が使えない状態にある。

 お互い、『万全』ではないという『公平』な戦場。

 文句も愚痴も、言えやしない。


 それでもー―


「殴りに行ければ、十分!」


 左右から、『革』と『布』が、突貫する。

 『引き算のゲーム』ならではの戦術だ。


 取られることは予想済み、むしろ前提。


 対処するために、騎士団がわずかに揺れた。


 ◇プリム◇


 『馬』は破壊した。

 足は止めたのだ。


 だが、『人』は止まらない。


「感情はない、か」

 恐怖も焦りもなく、『必要なこと』をする。

 理想的な『兵』というべきだろう。


 たった10体が接敵してくる。

 左は、義勇兵に任せた。

 右は無視できない。


「副長! 速やかに右を抑えろ!」

「はっ!」

 右腕とも頼む部下に、少数での対応を委ねる。


 本命は正面。

 金属の人馬が迫っている。


「正面、来るぞ! 3対1で確実につぶせ!」

 個対個で、競るのは不利。


 数で押す!

 それが騎士団!


「オオオオオ!」


   兵たちが動く。

 騎兵、しかも金属。

 『圧』は高いが、兵たちの『熱』も高い。


 足を止め、地に叩き落して、潰す。

 動きに淀みはない。


 訓練通りの動きだ。

 誇らしさが胸にたぎる。


 だか?


「そうきたか」


 プリムは静かに笑みを浮かべる。

 主力と見た金属騎兵が——戦いを避けていた。


 歩兵の隙間に突進しては、ただ動き回る。

 兵たちの感覚が広げられていく。


 避けなければ、文字通り潰されるだけ。

 避ければ間を開けてしまうのは当然。


 バラバラにされたところへ、大盾を構えた歩兵が入り込んでくる。

 大盾が掲げられ——壁が築かれた。


「しまった! 間を割られた!」

 してやられた!

 プリムの顔が歪む。

 兵の塊が、いくつかに分散されていく。


「だが――このまま終わりはしないぞ!」

 プリムは勝利を見据える。


「間に入られたのなら、それは挟撃の好機! ひっくりかえせ!」

 敵に挟まれる前に、間に入った敵を蹴散らせば、不利を有利にできる。


 分断されたままでは終わらない。

 兵たちは分断されたことを逆手に取り、逆に包囲。

 各個撃破をかけた。


 クアルトの『兵』は個性的で能力も高そうだ。

 しかし、数は少ない。

 数を力にする騎士団なら、対応できる。


 まず、『タイル』が割れた、続いてレンガも崩れる。

 その間に、金属の馬も押し潰していけている。


 ふと見渡せば、右の『革』も残り一体にまで減っていた。

 もちろん、無傷ではない。


 義勇兵が半減している。

 模擬戦だから、死んではいない。


 武器を頭や首、心臓に突きつけられる。

 引き倒されて背中を地面につけられる。

 そうなれば『死亡認定』で戦線を離脱するルールだ。


 そして、それは騎士団も同じ。

 徐々に減らされている。


「このままではまずいか。一旦退かせて態勢の整理を――」

 戦力が散り散りになりすぎた。


 プリムは、一時的な引き上げ——戦力再編のタイミングを計り始めた。



2/2

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