第93話 『ルアー』
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◇クアルト◇
チェスというゲームがある。
最初から最後まで『頭脳戦』。
そして――『心理戦』。
手持ちの駒を犠牲に差し出しつつ、敵の『キング』を奪うことを目的とする。
『計算』。
より正確に言えば『引き算』のゲーム。
自軍の駒を取らせつつ、それ以上に相手の駒を取る。
それが勝負のカギ。
『ゴーレムマスター』に、この『ゲーム』は相性がいい。
人間の兵士は、失ったら取り戻せない。
穴埋めするには時間と金がかかる。
しかし、ゴーレムなら破壊はされても失われはしない。
むしろ、作り直すたびに洗練され、強く、美しくなる。
作り直しはそのまま『経験値』だ。
いいことしかない。
「馬は、役目を果たしたよね」
崩れていく左右両翼の馬を見て、『僕』は確認するように頷いた。
男爵家を継ぐ気はなくても貴族の子。
戦術眼を鍛えるべく、チェスは必修。
『オレ』の前世知識も相まって、『クアルト』はチェスが得意だ。
「レザーとクロスを敵の左右に届けることには成功したんだもの」
戦場の空気が、じわりと変わっていくのを『オレ』は感じていた。
兄上の兵たちは、ただ数が多いだけではない。
訓練で磨かれた動きが、まるで一つの生き物のように連動している。
こちらが一手動けば、必ずどこかが反応する。
まるで盤上で、相手の指先が駒に触れる気配を読むような感覚だ。
だが、それは同時に“誘導できる”ということでもある。
強い意志で動く兵ほど、狙った方向へと流れやすい。
兄上の読みの深さを知っているからこそ、逆にその読みを利用できる。
チェスは、相手の強さを逆手に取るゲームだ。
惜しむらくは、作ったばかりで『武器』を持っていないこと。
『布』製の武器は思いつかず、『革』は鞭ぐらいしかない。
そのため、『素材』から武器を作るのは諦めた。
だから、無手で殴りに行くしかない。
そこがちょっと残念。
だけど、それを言うならプリムの側も、騎士団得意の騎士と歩兵による連携が使えない状態にある。
お互い、『万全』ではないという『公平』な戦場。
文句も愚痴も、言えやしない。
それでもー―
「殴りに行ければ、十分!」
左右から、『革』と『布』が、突貫する。
『引き算のゲーム』ならではの戦術だ。
取られることは予想済み、むしろ前提。
対処するために、騎士団がわずかに揺れた。
◇プリム◇
『馬』は破壊した。
足は止めたのだ。
だが、『人』は止まらない。
「感情はない、か」
恐怖も焦りもなく、『必要なこと』をする。
理想的な『兵』というべきだろう。
たった10体が接敵してくる。
左は、義勇兵に任せた。
右は無視できない。
「副長! 速やかに右を抑えろ!」
「はっ!」
右腕とも頼む部下に、少数での対応を委ねる。
本命は正面。
金属の人馬が迫っている。
「正面、来るぞ! 3対1で確実につぶせ!」
個対個で、競るのは不利。
数で押す!
それが騎士団!
「オオオオオ!」
兵たちが動く。
騎兵、しかも金属。
『圧』は高いが、兵たちの『熱』も高い。
足を止め、地に叩き落して、潰す。
動きに淀みはない。
訓練通りの動きだ。
誇らしさが胸にたぎる。
だか?
「そうきたか」
プリムは静かに笑みを浮かべる。
主力と見た金属騎兵が——戦いを避けていた。
歩兵の隙間に突進しては、ただ動き回る。
兵たちの感覚が広げられていく。
避けなければ、文字通り潰されるだけ。
避ければ間を開けてしまうのは当然。
バラバラにされたところへ、大盾を構えた歩兵が入り込んでくる。
大盾が掲げられ——壁が築かれた。
「しまった! 間を割られた!」
してやられた!
プリムの顔が歪む。
兵の塊が、いくつかに分散されていく。
「だが――このまま終わりはしないぞ!」
プリムは勝利を見据える。
「間に入られたのなら、それは挟撃の好機! ひっくりかえせ!」
敵に挟まれる前に、間に入った敵を蹴散らせば、不利を有利にできる。
分断されたままでは終わらない。
兵たちは分断されたことを逆手に取り、逆に包囲。
各個撃破をかけた。
クアルトの『兵』は個性的で能力も高そうだ。
しかし、数は少ない。
数を力にする騎士団なら、対応できる。
まず、『タイル』が割れた、続いてレンガも崩れる。
その間に、金属の馬も押し潰していけている。
ふと見渡せば、右の『革』も残り一体にまで減っていた。
もちろん、無傷ではない。
義勇兵が半減している。
模擬戦だから、死んではいない。
武器を頭や首、心臓に突きつけられる。
引き倒されて背中を地面につけられる。
そうなれば『死亡認定』で戦線を離脱するルールだ。
そして、それは騎士団も同じ。
徐々に減らされている。
「このままではまずいか。一旦退かせて態勢の整理を――」
戦力が散り散りになりすぎた。
プリムは、一時的な引き上げ——戦力再編のタイミングを計り始めた。
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