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『時代遅れスキル『ゴーレム制作』専門の男爵家四男が、転生者の知識でそこそこ頑張るはずが、なぜか王弟に目をつけられてしまう話』  作者: 葉月奈津・男
第二部、『帰路』

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第92話 『チェス』

1/2

  


 始まりはごく普通にぶつかり合いとなった。


 ◇プリム◇


 プリム側の戦力は、歩兵ばかりだ。

 本来は騎兵もいるのだろうが、町に入ったところで下馬。

 馬は先に厩へ送っていたのだ。


 その意味では、プリムの側も万全ではない。



 一方で、クアルトの方は重装騎兵である『ブロスゴーレム』が突き進んでいく。


『レザーゴーレム』と『クロスゴーレム』を乗せた馬たちは、『なにも乗せていないかのように』軽やかに左右へと展開した。

 もしも、準備期間が数日でもあれば、弓騎兵として援護射撃の一つもしながらだっただろうが、ただ走らせているだけだ。


 ただ、左右に軽騎兵が展開し、中央を重装騎兵が突き進んでくる。

 その事実と、『圧』は本物だ。


 各方面とも10体ずつと少数だとしても。

 無視はできない。


「……そうか。『革』と『布』か」

 騎士団の中央で、プリムが呟きを落とす。


 クアルトの最初のゴーレムを、兄は鮮烈に覚えていた。

 それは『紙』だった。

 いろいろな『素材』でゴーレムを作る。

 それがクアルトの『適性』。


「魔法兵!」

「はっ!」

 プリムの呼びかけで数人の兵が進み出た。


 灰色のローブを身にまとい、顔が見えない。

 それぞれに『個性』が隠されている。


 誰が誰だかわからない。

 わからないことが、彼らには必要だからだ。


「敵右翼には『水と土』で馬を、敵左翼は『火』を騎士に迎撃!」

「承知!」

 プリムの指令に従い、ローブが揺れる。


 杖も、手の動きすら見せず。

 魔法が行使される。


『属性の隠匿』。

 魔法の属性を知られることは、対処法を考える余裕を敵に与えること。

 だから、誰の属性が『なに』なのかは隠される。


「騎士団は正面の金属鎧を押しつぶせ! 義勇兵は敵左翼『革』を撃退せよ!」

 左右への対処を魔法に委ね、プリムは正面を見据えた。


 視線の先にクアルトがいるはずだが、防壁の如く佇む馬車が視界を塞いでいる。

 ただの壁。

 そうでないことは、さっき見た。


 あの馬車は、馬なしで走れる。


 どうやら木製のそれは、重量のある車体。

 あんなものが、もし突っ込んできたら?


 そう考えたら、絶対に無視はできないし、してはいけない。


 だから、左右に兵は割けない。


 ◇クアルト◇


「あれ?」

 『僕』は首を傾げた。


 兵を左右に展開したのに、兄上は部隊を中央に寄せたまま動かない。


「なんでー?」

 心底不思議そうだが、『オレ』には読めた。


 兄上——騎士団――の布陣は“数”で押すことが基本だ。

 だからまず戦力差を確認してみる。


 プリム指揮下の騎士団の構成は魔法兵七人――素材の弱点を突くには十分。

 騎兵三十――本来なら脅威だが、今日は馬がいない。

 歩兵百五十――連携で押してくるだろう。

 そこに義勇兵がおよそ三十――ノリは軽いが、数は侮れない。


 対する『クアルト』側の戦力は『素材ごとに最大で10』。

 そもそも数が少ないのだ。


 『素材』の特性を読んで、魔法を当てれば抑えられる。

 魔法で抑えられそうにないのは『ブラスゴーレム』と『パーケットゴーレム』の馬車。

 その抑えのために、主戦力を中央から動かせずにいる。


 だけど――


 むぅ!


「レザーとクロスを舐めすぎてない?」

『僕』がむくれている。


 ズレているようで、本質は見えているらしい。

 さすが『クアルト』だ。


 最初に崩れたのは、クアルト側右翼。

 『ラミネートクロスゴーレム』、その乗馬だった。


 『馬』は今、すべてが『木材』だ。

 『素のまま』か『組木』かの区別があるとしても。


 そこに、氷の魔法が飛んだ。

 直撃しなくても、水気は染みこむ。

 そこへ、土の柱が、礫が、当たる。


 『木』は水を吸収する。

 馬脚が落ちていく。


 組木は当然だが、木が組み上がったもの。

 水分の吸収の仕方は、木によって差が出る。

 『ジョイナリー』は歪んでいく。


 左翼は、もっと単純だ。

 騎士——『ラミネートクロスゴーレム』——を狙った『火』の魔法が、馬に熱を与え続けている。


 馬体に、こぶのようなふくらみができ始めていた。

 熱膨張が始まっている。

 遠からず裂けるだろう。


「犠牲を出して進む……それが、チェスだよ」

 『僕』が低く呟く。


 『オレ』は頷いた。

 『駒』を捨てる覚悟のないものは、チェスで勝てない。


 『ゲーム』は、ここから始まる。



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