第91話 『長兄の帰還』
パチパチパチ――
静まり返ったごみ処理場に拍手の音が響いた。
「見事だな」
「兄上!」
それは、長兄のプリムだった。
クアルト――『僕』――が、素早く反応して駆け出す。
プリムの後ろには、クアルトをパーヴェル子爵領まで護衛した騎士団が揃っている。
ペクンの元代官を捕縛、王都の警備隊に引き渡してのちも、現地に留まっていると聞いていたが——。
「戻ったのか」
父――男爵――が落ち着いて迎え入れるしぐさをして見せた。
「はい……ですが、すぐにまた戻ることになるかと――」
「——ほう……」
プリムの言葉に、男爵は眉をひそめた。
それは『問題が起きています』、と、そういうことだから。
「詳しい話は、後程報告します。それより――」
兄上が、クアルトを見る。
『僕』も『オレ』も、思わず息を呑んだ。
見たことのない顔をしていた。
『兄』の顔ではない。
『男爵家嫡男』の顔だ。
「クアルト、勝負しろ。模擬戦だ」
男爵家嫡男の瞳の奥。
戦意が燃えていた。
「え、えと、な、なんで?」
『僕』が焦っている。
「お前が男爵家の後継候補なのか、そうでないのかを確認するためさ」
表情筋一つ動かさず、真顔で告げられた。
本気ってことだ。
『ゴーレムマスター』なんて、ハズレの『適正』が出たクアルト。
上には、男爵家の家風に合う兄が三人いる。
もう、クアルトは男爵家の後継争いから抜けたはずだった。
それを――
「今、騎士団には『プリム』の名で集まったという義勇兵もいる。『お前』がお膳立てしたんだったよな?」
「うぐっ!」
思わずうめいたのは『オレ』だ。
そう、兵を集めさせたのは『クアルト』だ。
名義は『プリム』だが、実質的に動いたのはクアルト付きの使用人たち。
『義勇兵』の大半は『プリム』のためではなく、クアルトの使用人たちの『普段からの下準備』で動いている。
そして、その下準備にはクアルトも関わっていた。
騎士団だけにしておくべきだったと臍を噛む。
万が一、兵が足りないなんてことにならないようにと兵を上乗せしたのは間違いだった。
「面白そうじゃねぇか」
「ちょっとした祭りだな」
義勇兵の若者が顔を出してニヤリとする。
彼らが求めに応じたのは、村の祭りにいつでも全力で参加してきたクアルトへの、いわば『礼を返す』ためだ。
彼らにすれば、模擬戦はクアルトとの『久々の遊び』となる。
「面白そう、か」
「確かにな」
正規の騎士団たちも、笑みは見せないが興味津々だ。
たった今、垣間見た『クアルトの兵』の動き。
これと、自分たちはどれだけ戦えるのか。
武を持って立つ彼らの立場なら、試したくなるのは当然だった。
「えーと、父上?」
これは逃れられない動きだ。
そうと知りつつ、クアルトは最後の砦に目を向けた。
上目遣いに『子供』を前面に押し出してみる。
こんな幼気な子供に模擬戦なんて……と言いたいわけなのだが――
「やってみろ」
父親の――いや男爵――の決断は『推奨』だった。
ですよねー……
そうなるよな。
クアルト——『オレ』――は諦めた。
そして、『僕』はワクワクしている。
仕方ない——
「レーデルフィーヌは下がってて。アンナたちもだよ」
王弟からつけられた監視や使用人は巻き込めない。
ましてや、一般人のイーアンやセティは無関係だ。
「そう、ですね。私は場違いです」
レーデルフィーヌも認めた。
一礼して下がってくれる。
アンナとアーネストは軽く会釈して続いた。
セティは前に出ようとしていたが、イーアンが捕まえて、そのまま離れていった。
それとは逆に、プリムと騎士団は ごみ置き場の中心へと入ってくる。
爆発でできたクレーター内で円陣を組み始めた。
義勇兵たちも、その周辺でいくつかの塊を作っている。
「準備時間は? いらないのか?」
陣を構えておいて、兄上――いや、プリムが声をかけてきた。
余裕をかましてくれているのか。
安い挑発か。
どっちであれ、ノルことはない。
「いつでも、いいよ。それより、勝敗はどう決めるの?」
勝利条件の確認は必要だ。
「最後まで立っていたやつが勝者だ」
わかりやすいが……。
一番、エグイタイプだな。
「わかった―!」
『僕』がノリノリだ。
ここは、任せよう。
「えっと。こう……かな?」
並べたゴーレムたちを、後ろから見渡してみる。
なんでか、『オレ』さんは引っ込んだ。
『僕』に任せてくれるらしい。
なら、全力でやるだけ。
「うん。ちょっと、偉くなった感じ!」
盤ゲームの『キング』になった気分だ。
そして、たぶん、それは正しいはず。
前面には騎兵を配置。
馬車から外した馬に、できたての『革』と『布』も乗せてある。
先頭は『真鍮』。
騎兵の周囲には『骨』の軽歩兵。
『レンガ』と『タイル』の大盾歩兵。
彼らの後ろ、クアルトを守るように馬車が並ぶ。
『パーケット』が四台だ。
クアルトの周囲には『陶器人形』と、『段ボール』ドローンが控えている。
「よーし…いっくよー!」
声をかけ、騎兵を進めた。




