第89話 『仕分け4』
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「……できてしまった」
気づけば、倉庫の“ゴミ”が消えていた。
貝殻。
骨。
卵の殻。
角。
蹄。
そして、それらの加工品。
全部が、跡形もなく消えている。
代わりにそこに立っていたのは――
『真珠』と『象牙』のゴーレム。
淡く光を放つ真珠の身体。
白く滑らかな象牙の外殻。
どちらも、宝飾品として扱われるはずの素材だ。
【『イミテーション・パールゴーレム』を作成しました。】
【『イミテーション・アイボリーゴーレム』を作成しました。】
『イミテーション・パールゴーレム』。
文字通り『真珠色』のホヌ(海亀)が、頭上で輪を描いている。
大きさは人差し指の第一関節程度。
実に愛らしい。
『イミテーション・アイボリーゴーレム』。
象牙、だけにゾウガメだ。
これまた、そのまんまの『アイボリー色』。
前世で持っていた『マンモスの牙』根付を思い出す。
そして、予感は当たる。
「……やっぱりだ」
クアルトは震える指先でステータスを開いた。
真珠には『拡散』。
魔力を偏りなく広げ、流れを均一に整えるスキル。
象牙には『集中』。
魔力を一点に集め、効率よく束ねる作用。
どちらも、マスターであるクアルトの魔力操作を“補助”する。
——だけではない。
魔力の流れそのものを、素材側が自動で最適化してくれる。
「……これ、制作精度が跳ね上がるじゃないか」
魔力を均一に広げる“拡散”。
魔力を一点に束ねる“集中”。
相反するはずの二つが、クアルトの魔力操作と噛み合って“循環”を生む。
今後、ゴーレム制作時の質の向上する――どころではない。
魔力消費の効率、抽出の安定性、素材融合の成功率――
すべてが一段階上の領域に入る。
クアルトは息を呑んだ。
「……やばい。これは本当にやばい」
真珠と象牙。
宝飾素材のゴーレムが持つ“対のスキル”。
それは、魔力制御の基礎式そのものを変える力だった。
——『植物』——
残ったのは、果皮、種、ナッツの殻、花弁、藁……
植物の一部ばかりだ。
「何かになるのかな」
正直、あまり使えそうに思えない。
木材や布のように形を作れるわけでもなく、金属のように強度があるわけでもない。
ただの“植物のゴミ”。
そう思いながらも、クアルトーー『僕』——はひとまとめにして『素材鑑定』をかけた。
淡い光が走り、文字が浮かぶ。
「……『プラントパーツ』ってなんだろ?」
そんな素材名らしい。
よくわからない。
『オレ』さんが興味なくすわけだ。
でも――
【『プラントパーツゴーレム』を作成しました。】
「作れちゃった」
できたのは海亀。
丸い甲羅はナッツの殻と果皮の寄せ集め。
手足は藁と細い枝。
目の部分には黒い種をはめ込んだ。
「おお。ちゃんと動く」
重さを感じさせない動きで浮き上がり、クアルトの頭上に静かにとどまっている。
藁の手足がゆっくり揺れ、甲羅に使ったナッツ殻が淡く光を反射する。
目に埋め込んだ黒い種が、まるで呼吸するように微かに脈動していた。
体の大部分は、ナッツの殻がうろこ状にびっしりと貼り付いている。
乾いた木の殻が重なり合い、光を受けて褐色の鱗のように鈍く輝く。
背中の甲羅はさらに異質だった。
特に大きな殻だけを選んで組み合わせた幾何学模様。
自然のフラクタルのように規則的で、まるで森そのものが描いた魔法陣のように見える。
しっぽは細い藁を束ねたものが、ふわりと揺れた。
風に触れれば草の香りが漂う。
ヒレは果皮の薄片を何層にも重ねたもの。乾いた皮が羽のようにしなり、
動くたびに柔らかい音を立てる。
そして、体のあちこちに花びらが咲いていた。
甲羅の隙間、うろこの間、藁のしっぽの根元にまで、色とりどりの花弁がひらひらと揺れている。
極めつけは内部だ。
殻の隙間からわずかに見える影――
無数の種が、ぎっしりと詰まっている。
その種が、心臓のように脈動していた。
そして海亀は、ふわりと浮かび上がり、クアルトの頭上に静かにとどまった。
植物の破片で作ったはずのゴーレムが、まるで“森の精霊”のように。
で、スキルはと言えば『育てる』。
何を育てるのかは謎。
でもいい。
今はそれで十分。
倉庫も片付いたし。




