第88話 『仕分け3』
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——『骨』——。
『ハイドロキシアパタイトゴーレム』。
骨素材は、アパタイト(リン酸カルシウム)として他のゴーレムの補強材に回せる。
残念ながら上限には達しなかったので、進化には至らなかった。
「……これ、ゴーレム、なの?」
副ギルド長が、アパタイトゴーレムをしげしげと見つめていた。
ゴーレムと言われて誰もが思い浮かべる、ごつい巨人。
それとは全然違う。
スマートで繊細。
イメージから外れ過ぎていたのだろう。
さまざまなゴーレムが次々と生まれ、レベルを上げながら動き始めていた。
「あー、えっと?」
作り続けていく中、『僕』が戸惑いの声を上げた。
数が増えすぎて、把握しきれなくなったらしい。
少し、整理してみようか。
『パーケットゴーレム』の馬車。
細かく組み込まれた『モザイク』。
力を左右に散らす『ヘリンボーン』(杉綾)。
力を一点に集中させる『シェブロン』(山形)。
ねじれに強いブロックパターン(市松)。
――の四台。
『ジョイナリー』の馬が10頭。
『ウッドゴーレム』の馬も10頭。
——がいる。
『ラミネートクロスゴーレム』×10。
クリーム色の巻き布性の人型。
これを、ウッドゴーレムと組み合わせれば、軽騎兵の完成だ。
『レザーゴーレム』×10。
革の色合いがそのままのしなやかさのある人型。
これは弓兵にでもすればいい。
大盾を構えたスパルタ兵的歩兵。
『ファイアブリックゴーレム』×10。
赤茶色の耐火煉瓦が、人型と大盾を形作っている。
『グレーズドゴーレム』×10。
ガラス質の光沢ある表面が美しい人型。
これもまた、大盾を構えている。
未だ、何一つ変化させていない既存の騎兵もいた。
『ブラスブロンズゴーレム』(騎士) ×10
黄金色と赤銅色が混ざり合ったような、どこか儀礼用の鎧を思わせる美しい輝き。
軽量で、動きが滑らか。
関節の可動域も広く、騎士というより『軽騎兵』のような印象。
『リクリスタライズ・マーブルゴーレム』(馬) ×10
白大理石の再結晶化による『生きた彫刻』のような馬。
『シンタードアイアンゴーレム』(騎士) ×10
焼結鉄の黒灰色に、青銅の筋が走る。
重厚で、まるで古代の巨兵が蘇ったかのような存在感。
重量はあるが、安定性が高く、盾役として完璧な構造。
『ブロンズゴーレム』(馬) ×10
緑青の模様が美しい、古代戦車の馬のような金属馬。
『ラミネートペーパーゴーレム』の段ボールドローン×10。
『ポーセリンゴーレム』。
陶器。透明感がある艶のある白い肌。
気品のある貴族女性の姿。
赤い夜会服姿が艶やかだ。
『スタビライズド・フォレストガラス』
きれいな緑色が八体。
茶色が二体。
10体の手のひらサイズのトカゲたち。
これが、現状となる。
「うん。大丈夫」
実際に目の前に並べてみて、クアトルは頷いた。
「続けるよ―」
◇
——『炭・灰』——
炭と灰はいずれ嫌でも使う。
金属ゴーレムを抱えている以上、合金制作に必須素材だからだ。
単一で使う道もなくはないが、今は保留だ。
当然、金属もそうなる。
この世界で“合金”と呼べるのは、せいぜい青銅と真鍮。
それ以外の金属を混ぜ合わせた素材が、街中に転がっているなんてことはまずない。
ただ、数は極めて少なく、質も高くない。
既存の兵たちをほんの少し大きく、より成功にすることしかできなかった。
だからこそ、炭と灰の価値は跳ね上がる。
金属加工の未来そのものだ。
――『貝殻・角』——
「あと……もしかしてだけど……」
『オレ』は興奮を抑えようと、喉を鳴らしてつばを飲み込んだ。
倉庫の奥に積まれた山。
貝殻。
角。
蹄。
どれも“ゴミ”として扱われてきた素材。
だが――。
「もしかして……できるのか?」
震えがくる。
背筋がぞわりと粟立つ。
貝殻から真珠層を取り出せるなら?
固めて形にすれば?
それは『パール』、真珠になる。
天然ではなく“人工真珠”だが、素材としては十分すぎる。
角と蹄に、骨由来のリン酸カルシウムを“融合”させれば――
『アイボリー』すなわち象牙だ。
象牙そのものではない。だが、性質は限りなく近い“人工アイボリー”だ。
どちらも、この世界では貴族しか持てない高級素材が、目の前の“ゴミの山”から作れてしまう。
天然と比べて効率が良くなるのか、スキルに影響はあるのか?
そこはいつか天然物と出くわしたら検証することになるだろう。
だが――
今は作れるってだけで十分だ。
「……マジかよ」
クアルトの手が震えた。
気づいてしまった自分に慄く。
素材の価値が、世界の常識が、一瞬でひっくり返る音がした。
「で、できる……」
クアルトは思わず声を漏らした。
ゴーレム制作の基礎スキル――
『素材鑑定』『抽出』『融合』。
その三つを組み合わせれば、本当に作れると分かってしまった。
もちろん、量は多くない。
大量生産なんて夢のまた夢だ。
だが――。
「行ける……これは行ける……!」
胸の奥が熱くなる。
宝飾品系の素材に分類されるなら、魔力消費量減少系のスキルが付く可能性がある。
それは、ゴーレム使いにとって“禁断の領域”だ。
維持コストが下がる。
保持数が増える。
戦力が跳ね上がる。
作らないという選択肢は、もう存在しなかった。




