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『時代遅れスキル『ゴーレム制作』専門の男爵家四男が、転生者の知識でそこそこ頑張るはずが、なぜか王弟に目をつけられてしまう話』  作者: 葉月奈津・男
第二部、『帰路』

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第86話 『仕分け——木』

1/2

 


 ついに、ラトアナの暴走が止まった。


 ゴミ置き場には、水分を吸って腐敗し始めた生ごみしか残っていない。

 作業員たちは、種や貝、小物の破片、乾いた皮や殻を丁寧に天日で乾かし、麻袋に詰めて積み上げていく。


「……これ以上は、もう増えないよな……?」

 作業員のひとりが、汗を拭いながら空を仰いだその時だった。


「はっ! 閃いたにゃ!」

 突然の声に、作業員全員の肩が跳ね上がる。


「ラ、ラトアナさん……? ま、まさか、また何か……?」

 ラトアナは腐敗した生ごみの山を指さし、胸を張って宣言した。


「これも燃やしたにゃら“灰”だにゃ! つまり、ゴミはもうないのにゃ!」

 作業員たちは固まった。


「……え、あの……生ごみを……燃やして……灰に……?」

「そうにゃ! 灰は“素材”にゃ! だから、これはもうゴミじゃないにゃ!」


 作業員A

「…………」


 作業員B

「…………」


 作業員C

「…………(終わった……)」


 ラトアナは満足げに尻尾を揺らしながら、腐敗した生ごみの山を見つめていた。


「これで本当に、ゴミは全部“素材”になったにゃ。クアルト様も喜ぶにゃ!」

 そんな保証はないが、彼女の中では決定事項だ。

 作業員たちは、誰も何も言えずに天を仰いだ。


(……クアルト様……どうか……どうか寛大であってください……)


 倉庫の前には、今日も麻袋が積み上がっていた。


 紙、布、金属、陶器、ガラス、木材。

 骨、貝殻、卵殻、種、果皮、ナッツ殻、藁、灰、炭、角、蹄、花弁、小物の破片――。


 もはや“素材の山”と呼ぶほかない。

 副ギルド長は、その光景を見上げて深く息をついた。


「……クアルト様が、これを見てどう思われるか……」

 期待と不安が入り混じった声だった。


 副ギルド長に状況を聞き、現場に男爵自身までもが出向いてきた。

 その男爵は男爵で、帳簿を前に頭を抱えている。


 もともと『紙』と『布』だけだったとは聞いた。

 しかし、分け始められた途中を見て『もしかして』と副ギルド長に一任していたのだが――ここまでになるとは予想外だ。


「賃金を立て替えるのはかまわないが……これが本当に“使える”のなら、領地の財政は大きく変わるだろうな。だが、どう使うのか……まったく見当がつかん」

 誰も“何に使うのか”を知らない。

 ただ、クアルトが帰ってくるのを待つしかなかった。


 その時――。


「――戻りました」

 門番の声が、領都に響いた。


 副ギルド長が顔を上げる。

 男爵が椅子から立ち上がる。

 作業員たちがざわめく。

 ラトアナは、尻尾をぴんと立てた。


「クアルト様、帰ってきたにゃ!」

 門の向こうから、白いゴーレムを従えたクアルトが姿を現した。

 旅の埃をまといながらも、どこか落ち着いた表情で馬車から降りてくる。


 だが――


 彼の視線が倉庫の前の“素材の山”に向いた瞬間。

 その表情が、ぴたりと止まった。


「………………え?」



「クアルト様! ご依頼の“紙と布の分別”は、完璧に完了しております! ついでに、他の素材も“分別”しておきました!」

 副ギルド長が駆け寄り、胸を張る。


「全部“素材”にしたにゃ! もうゴミは一つもないにゃ!」

 ラトアナも誇らしげに言う。


 クアルトは、倉庫の山を見上げた。


 紙。

 布。

 金属。

 陶器。

 ガラス。

 木材。

 骨。

 貝殻。

 卵殻。

 種。

 果皮。

 ナッツ殻。

 藁。

 灰。

 炭。

 角。

 蹄。

 花弁。

 小物の破片。

 そして、まだ増え続けている麻袋の山。


「………………」

 クアルトは、ゆっくりと目を閉じた。


(……やりすぎだろ……)


 だが、同時に胸の奥で

 “とんでもない可能性”が静かに芽を出していた。


「とりあえず、簡単なところから」

 クアルトは倉庫の隅に積まれた木片の山へ歩み寄った。


 大小さまざま、形もまちまち。

 だが、どれも乾燥して軽く、魔力の通りが良さそうだ。


 五日間の移動で、ウッドゴーレムもジョイナリーゴーレムもレベルが上がっている。

 どちらも、すぐにでも次の段階に移れる“待機状態”だ。


「木材が組木になり……次は『寄木』、だな」

 クアルトは木片を指先で弾き、後方に止めた馬車に視線を向ける。


「ジョイナリー、車体を“寄木構造”で組み直す。パーケット仕様にするぞ」

「へ?」

 ラトアナが、間抜けな声を上げた。


 馬車が、馬なしで動き始めたのだ。

 車輪が回り、方向を変えて進み、木片の山へと歩み出す。


 カチ、カチ、カチ。

 細かな木片が吸い寄せられるように組み合わされ、幾何学模様の寄木板が次々と形になっていく。

 それらが枠組みに嵌め込まれ、やがて一台の馬車の車体となった。


『寄木』ならではのモザイク模様が組み込まれていく。

 ゴミということで、小さな木片も多いが、モザイクにするならむしろ好都合。

 薪にするには小さすぎて使い勝手が悪い、そんな木片が消えていく。




【『パーケットゴーレム』の制作に成功しました。】




「――パーケット馬車『モザイク』(小片結合)、完成」

 衝撃吸収・耐久力向上。

 しっかりとした馬車になる。


 力を左右に散らす『ヘリンボーン』(杉綾)。

 力を一点に集中させる『シェブロン』(山形)。

 ねじれに強いブロックパターン(市松)。


 全部で四台を並べてみる。

 寄木の継ぎ目が、光を受けて金糸のように輝いた。


 それぞれ、違う模様。

 違う表情。

 芸術レベルに洗練されている。


 アルトは小さく息を吐いた。


 大き目の廃材は、組木——『ジョイナリー』にして10頭。

 2頭立ての馬車が四台にできる。

 馬が余るが、そんなことは四頭立てにするなり、レーデルフィーヌを騎乗させるなり、どうとでもなる。


 重要なのは、『使い切る』ことなのだから。

 ウッドゴーレムは……全部馬だ。

 荷馬にも騎馬にもできる。


「まずは輸送力の確保から、だな」


 ともかく、かさばっていた木材は片付いた。

 倉庫の床が見えるようになっただけで、作業員たちが涙ぐむ姿に引きそうになる。


 目を背けて、次だ。



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