第85話 『仕分け』
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◇その頃のメリマルの町◇
「こんなになるのね」
書類仕事から逃げる口実にもなるからと倉庫に足を運んだ副ギルド長は、
積み上がった素材の山を見上げて首を振った。
紙の山。
布の山。
そして、彼女が勝手に追加した金属片やガラス片の山まで、整然と積まれている。
「その分、処理しないといけないゴミがずいぶん減ったそうですよ」
ラトアナが、焼却と埋め立ての量が激減していると報告する。
「そうでしょうね」
副ギルド長は軽く返しながらも、
視線は素材の山から離れなかった。
(……これは、ただの“副産物”じゃない)
紙と布だけではない。
金属も、ガラスも、革も、木材も。
“素材”として見れば、どれも価値がある。
クアルトが求めたのは紙と布だけ。
だが――
(この仕組みは、もっと広げられる)
副ギルド長の胸に、静かな確信が芽生えた。
「ラトアナ。分別の範囲を、もう少し広げてみましょうか」
「……広げる、とは?」
「紙と布、金属やガラスも“素材”として扱える。他にも『素材』にできるものがないかを考えてみて。どうせなら、徹底的にやってしまった方がいい」
ラトアナは一瞬だけ目を細めた。
クアルトの意図を超えた行動だと理解しているからだ。
だが、副ギルド長は続ける。
「クアルト様が何を作るつもりなのかは分かりませんが……
素材が多いに越したことはないでしょう?」
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「簡単に言ってくれるものだにゃ」
副ギルド長が厭々帰るのを見送って、ラトアナは『三毛猫』柄の頭を傾けた。
すでに『紙』、『布』、『ガラス』、『陶器』、『金属』、『木』が分別されている。
『石』、『レンガ?』、『多分タイル』なんかもある。
これ以上いったい何を分けろというのか。
「もう、あるのは生ごみぐらいしかないのにゃ」
誰もいないので、語尾に「にゃ」が戻っていることにも気づかず、腕組みして生ごみの山を睨む。
「……『骨』と『貝殻』かにゃ?」
ピッカウの骨と、何かの貝の殻が目に入り、思わず呟く。
確かにこれは“別物”だ。分けろと言われれば分けられる。
「なにに使えるかはシランにゃ。やれと言われたからするだけにゃ」
自分に言い聞かせ、作業者に追加の仕事を伝えに歩き出す。
*
「骨と貝殻は分けたにゃ。でも、まだ“別の何か”がある気がするにゃ……」
ラトアナは再び生ごみの山をじっと見つめた。
「……これは“卵の殻”だにゃ。骨でも貝でもないし、白くて軽いにゃ」
何に使うかは考えない。
『分けろ』と言われたから分けるだけだ。
次に、桃の種を拾い上げる。
「これは……固いし丸いし、他とは違うにゃ」
腐らないし、扱いやすい。
柑橘の皮をつまんで、鼻をひくつかせる。
「にゃっ、いい匂い。これはこれで分けられるにゃ」
乾燥していて腐敗もしていない。
乾いていれば、それはもう“素材”だ。
気づけば、卵殻、果物の種、柑橘の皮、ナッツの殻が
それぞれ小さな山になっていた。
「……また素材が増えたにゃ。クアルト様、文句言わないかにゃ……」
ラトアナには何に使うのか全く想像できない。
逆に、「こんなものを取っておいてどうしろと?」。
そう言われる未来なら容易に予想できた。
「まぁいいにゃ。文句言われるのは『上』の奴らにゃ。言われたことしてるだけのみゃぁの知ったこっちゃないのにゃ」
そう言いながらも、ラトアナは小さな山々をちらりと振り返った。
どれもこれも、“ただのゴミ”とは思えないほど整って見えた。
ラトアナは生ごみの山を前に、猫らしい集中力で一点をじっと見つめていた。
「……にゃ?」
何かを見つけたらしい。
前足――いや、手を突っ込み、ずるりと引き抜く。
「これは……“角”だにゃ。骨とは違うし、光ってるにゃ。別にゃ」
後ろで見ていた作業者が慌てて駆け寄る。
「えっ、それは……ただのゴミじゃ……」
ラトアナは聞いていない。
いや、聞く気がない。
次の瞬間、今度は蹄を拾い上げた。
「こっちは“蹄”だにゃ。骨より硬いし、形が違うにゃ。“角と蹄”でひと山作るにゃ」
「ひ、ひと山……!? いや、あの、それは……本当に素材なんですか……?」
作業者の声は震えていた。
ラトアナは尻尾を揺らしながら、まるで当然のように言い放つ。
「素材かどうかはクアルト様が決めるにゃ。みゃぁは“分けろ”と言われたから分けるだけにゃ」
作業者は天を仰いだ。
(……これ以上分類が増えたら、表が巻物になる……)
しかしラトアナは止まらない。
「にゃっ、これは“灰”だにゃ。粉っぽいし、別にゃ」
「こっちは“炭”にゃ。黒いにゃ」
「これは……花びら? 色が綺麗だから分けるにゃ」
作業者
「ま、待ってくださいラトアナさん……! もう分類表が十枚超えてるんですが……!」
ラトアナ
「大丈夫にゃ。書くのはそっちにゃ。みゃぁは拾うだけにゃ」
作業者は静かに膝をついた。
ラトアナはごみの山を漁っている途中、ふわりと軽いものをつまみ上げた。
「これは“藁”だにゃ。軽いし、細いし、他とは違うにゃ」
後ろの作業者が青ざめる。
「ま、また増えるんですか……!?“藁”って分類、必要ですか……?」
ラトアナは聞いていない。
次に、何か硬いものを拾い上げた。
「にゃ? これは……“ボタンの欠片”だにゃ。角でも蹄でもないけど、硬いにゃ。別にゃ」
「ま、待ってくださーい!」
膝をついていた作業者が慌てて立ち上がる。
惚けていてはどんどん増えていくし、置いて行かれる。




