第80話 『古戦場』
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町から外れ、道なき道を進み、野営を繰り返してまでここへ来た理由。
それは――
かつて血みどろの戦いが繰り広げられた『古戦場』に、ゴーレムの進化素材が眠っている可能性が高いからだ。
折り鶴の視界はさらに近づく。
地面には、風化した武具の破片。
黒く焦げた土。
草が生えず、まるで大地そのものが傷ついたままのような場所。
アンナは小さく息を呑んだ。
「……本当に、大きな戦場だったんですね」
戦略級と言われる広範囲魔法の爪痕がはっきりと残る『大地』が見えていた。
馬車はゆっくりと速度を落とし、ウッドゴーレムは慎重に足場を選びながら進む。
退屈だった四日間とは違う。
空気が重く、風が冷たい。
まるで大地そのものが、ここで起きた出来事を忘れまいとしているかのようだ。
草を踏みしめる音が止まり、馬車がゆっくりと速度を落とす。
折り鶴の視界に映っていた“古戦場の縁”が、ついに目の前に広がった。
「戦場跡の端で、停車しよう」
クアルト――『オレ』がそう言うと、アンナは御者台で軽く頷いた。
「そうですね。……惨劇の中心では熟睡できません」
その声音には、冗談めかした軽さと、ほんの少しの緊張が混じっていた。
まだ昼前だが、ここから先は慎重に動く必要がある。
少し早めの停車を決め、馬車を草地に寄せて止めた。
「パスチャー、展開開始」
クアルトの声に応じて、『パスチャーゴーレム』が草を編んで拠点を組み上げていく。
パスチャーゴーレムの作った拠点の横に、リビング兼ベッドルームの馬車を横付けする。
ジョイナリー構造で強化された馬車は、もはや『移動式の家』というより、移動式の城に近い。
ベッド。
テーブル。
収納。
調理スペース。
秘密の保管庫。
すべてが揃っている。
アンナが腕を組んで満足げに言った。
「……これ、もう旅の拠点じゃなくて、普通に住めますよね」
「住めるよ。でも、まだまだ改造できる」
クアルトは当然のように言う。
アンナは苦笑しながらも、どこか安心したように馬車の壁を撫でた。
風は冷たく、空気は重い。
だが、拠点はしっかりと整い、馬車は揺るぎない『城』としてそこにある。
『僕』はというと、パスチャーゴーレムの作業を見て大はしゃぎだ。
「すごい! お城だ! 今日のおうちはお城だよ!」
アンナはため息をつきながらも、その声に少しだけ笑みを浮かべた。
古戦場の中心には近づかない。
だが、その縁で迎える夜は、確実に『何か』の前触れだった。
草の匂いが薄れ、土の焦げたような匂いが混じり始める。
古戦場の縁に立ったクアルト――『オレ』は、静かに息を吸った。
ここからは『新しいゴーレム』の作成に入る。
『僕』はしばらく『見学ムーヴ』だ。
さて。
ここに何があるのか?
実は、もう目当ては決まっている。
『青銅』だ。
鉄製の武器は、長い年月を経ればただの赤茶けた塊になる。
雨に打たれ、風に晒され、錆びて朽ちて、形すら残らない。
だが――
青銅は違う。
緑青に覆われながらも、その下の金属はしっかりと残り続ける。
剣の鍔、鎧の装飾、留め具、鋲、バックル。
鉄が朽ちても、青銅だけは『遺物』として地中に眠り続ける。
古戦場は、まさにその宝庫だ。
クアルトは地面に膝をつき、折り鶴から送られてくる地形データを重ね合わせながら、土を軽く掘り返した。
カン、と乾いた金属音。
「……あった」
緑青に覆われた青銅片が、土の中から姿を現す。
数十年、数百年前の戦士が身につけていたかもしれない。
古い、しかし確かな『金属』。
アンナが覗き込み、目を丸くした。
「これ……まだ使えるんですか?」
「使えるよ。青銅は腐食しにくいからね。むしろ、緑青が保護膜になってる」
クアルトは青銅片を手のひらで転がしながら、静かに笑った。
「これを集めて――『ブロンズゴーレム』を作るんだ」
草を踏みしめる音と、土をかき分ける乾いた音が、古戦場の静寂に溶けていく。
ずっと『マーブルブリックゴーレム』の馬に騎乗して移動するだけだった『ブロスゴーレム』も、今日は本格的に動員された。
その巨体が地面を軽く撫でるだけで、緑青をまとった青銅片がぽろりと顔を出す。
古戦場の土は、まるで『記憶』を抱えたまま眠っていたかのように、ほんの数センチ掘るだけで、次々と遺物を吐き出していく。
鍔の欠片。
鎧の装飾板。
留め具。
鋲。
砕けたバックル。
どれも緑青に覆われているが、その下には確かな金属の輝きが残っている。
アンナが呆れたように言う。
「……本当に、こんなに簡単に見つかるんですね」
「鉄は全部朽ちてるからね。青銅だけが残るんだよ。古戦場は『ブロンズの畑』みたいなものさ」
クアルト――『オレ』は、集めた青銅片を手のひらで転がしながら、すでに頭の中で組み立てを始めていた。
そして、必要量が揃った瞬間。
「よし……いくよ」
ブロスゴーレムが素材を運び、クアルトがそれを組み合わせ、緑青を削り、形を整える。
クアルトは胸を張って宣言した。
「完成! 『ブロンズゴーレム』!」
形は人型だ。
そして、大きな円形の盾を持っている。
素材がたくさんあるからね。
青銅の身体が、陽光を受けて鈍く輝く。
緑青の模様がまるで戦場の歴史を刻んだように浮かび上がり、『重み』と『存在感』を放っていた。
そして――。




