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『時代遅れスキル『ゴーレム制作』専門の男爵家四男が、転生者の知識でそこそこ頑張るはずが、なぜか王弟に目をつけられてしまう話』  作者: 葉月奈津・男
第二部、『帰路』

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第80話 『古戦場』

1/2

  


 町から外れ、道なき道を進み、野営を繰り返してまでここへ来た理由。


 それは――


 かつて血みどろの戦いが繰り広げられた『古戦場』に、ゴーレムの進化素材が眠っている可能性が高いからだ。


 折り鶴の視界はさらに近づく。

 地面には、風化した武具の破片。

 黒く焦げた土。

 草が生えず、まるで大地そのものが傷ついたままのような場所。


 アンナは小さく息を呑んだ。


「……本当に、大きな戦場だったんですね」

 戦略級と言われる広範囲魔法の爪痕がはっきりと残る『大地』が見えていた。


 馬車はゆっくりと速度を落とし、ウッドゴーレムは慎重に足場を選びながら進む。


 退屈だった四日間とは違う。

 空気が重く、風が冷たい。

 まるで大地そのものが、ここで起きた出来事を忘れまいとしているかのようだ。


 草を踏みしめる音が止まり、馬車がゆっくりと速度を落とす。

 折り鶴の視界に映っていた“古戦場の縁”が、ついに目の前に広がった。


「戦場跡の端で、停車しよう」

 クアルト――『オレ』がそう言うと、アンナは御者台で軽く頷いた。


「そうですね。……惨劇の中心では熟睡できません」


 その声音には、冗談めかした軽さと、ほんの少しの緊張が混じっていた。

 まだ昼前だが、ここから先は慎重に動く必要がある。

 少し早めの停車を決め、馬車を草地に寄せて止めた。


「パスチャー、展開開始」


 クアルトの声に応じて、『パスチャーゴーレム』が草を編んで拠点を組み上げていく。

 パスチャーゴーレムの作った拠点の横に、リビング兼ベッドルームの馬車を横付けする。

 ジョイナリー構造で強化された馬車は、もはや『移動式の家』というより、移動式の城に近い。


 ベッド。


 テーブル。


 収納。


 調理スペース。


 秘密の保管庫。


 すべてが揃っている。

 アンナが腕を組んで満足げに言った。


「……これ、もう旅の拠点じゃなくて、普通に住めますよね」


「住めるよ。でも、まだまだ改造できる」


 クアルトは当然のように言う。


 アンナは苦笑しながらも、どこか安心したように馬車の壁を撫でた。


 風は冷たく、空気は重い。

 だが、拠点はしっかりと整い、馬車は揺るぎない『城』としてそこにある。


『僕』はというと、パスチャーゴーレムの作業を見て大はしゃぎだ。


「すごい! お城だ! 今日のおうちはお城だよ!」


 アンナはため息をつきながらも、その声に少しだけ笑みを浮かべた。


 古戦場の中心には近づかない。

 だが、その縁で迎える夜は、確実に『何か』の前触れだった。


 草の匂いが薄れ、土の焦げたような匂いが混じり始める。

 古戦場の縁に立ったクアルト――『オレ』は、静かに息を吸った。

 ここからは『新しいゴーレム』の作成に入る。

『僕』はしばらく『見学ムーヴ』だ。


 さて。

 ここに何があるのか?


 実は、もう目当ては決まっている。


青銅ブロンズ』だ。


 鉄製の武器は、長い年月を経ればただの赤茶けた塊になる。

 雨に打たれ、風に晒され、錆びて朽ちて、形すら残らない。


 だが――


 青銅は違う。

 緑青ろくしょうに覆われながらも、その下の金属はしっかりと残り続ける。


 剣の鍔、鎧の装飾、留め具、鋲、バックル。

 鉄が朽ちても、青銅だけは『遺物』として地中に眠り続ける。


 古戦場は、まさにその宝庫だ。

 クアルトは地面に膝をつき、折り鶴から送られてくる地形データを重ね合わせながら、土を軽く掘り返した。


 カン、と乾いた金属音。


「……あった」


 緑青に覆われた青銅片が、土の中から姿を現す。

 数十年、数百年前の戦士が身につけていたかもしれない。

 古い、しかし確かな『金属』。


 アンナが覗き込み、目を丸くした。


「これ……まだ使えるんですか?」


「使えるよ。青銅は腐食しにくいからね。むしろ、緑青が保護膜になってる」

 クアルトは青銅片を手のひらで転がしながら、静かに笑った。


「これを集めて――『ブロンズゴーレム』を作るんだ」


 草を踏みしめる音と、土をかき分ける乾いた音が、古戦場の静寂に溶けていく。


 ずっと『マーブルブリックゴーレム』の馬に騎乗して移動するだけだった『ブロスゴーレム』も、今日は本格的に動員された。


 その巨体が地面を軽く撫でるだけで、緑青をまとった青銅片がぽろりと顔を出す。


 古戦場の土は、まるで『記憶』を抱えたまま眠っていたかのように、ほんの数センチ掘るだけで、次々と遺物を吐き出していく。


 鍔の欠片。


 鎧の装飾板。


 留め具。


 鋲。


 砕けたバックル。


 どれも緑青に覆われているが、その下には確かな金属の輝きが残っている。


 アンナが呆れたように言う。


「……本当に、こんなに簡単に見つかるんですね」


「鉄は全部朽ちてるからね。青銅だけが残るんだよ。古戦場は『ブロンズの畑』みたいなものさ」

 クアルト――『オレ』は、集めた青銅片を手のひらで転がしながら、すでに頭の中で組み立てを始めていた。


 そして、必要量が揃った瞬間。


「よし……いくよ」

 ブロスゴーレムが素材を運び、クアルトがそれを組み合わせ、緑青を削り、形を整える。

 クアルトは胸を張って宣言した。


「完成! 『ブロンズゴーレム』!」


 形は人型だ。

 そして、大きな円形の盾を持っている。

 素材がたくさんあるからね。


 青銅の身体が、陽光を受けて鈍く輝く。

 緑青の模様がまるで戦場の歴史を刻んだように浮かび上がり、『重み』と『存在感』を放っていた。


 そして――。


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