第81話 『酸化鉄』
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青銅を集めていて気が付いた。
この場所には、『赤錆――酸化鉄』も多くある。
古戦場を歩くと、足元に赤茶色の粉が舞い、土を掘ると赤い層が出てくる。
アンナが足元の赤茶色の粉を指先ですくい上げ、眉を寄せた。
「……これ、鉄錆ですね?」
クアルト――『オレ』は静かに頷く。
「うん。鉄は朽ちても、錆は残る。ここは『鉄の墓場』でもあるんだよ」
風が吹くたび、赤錆がふわりと舞い上がる。
鉄製武器が何百年もかけて崩れ、土と混ざり、それでも『鉄だった痕跡』だけはしぶとく残り続けている。
アンナは周囲を見回しながら呟いた。
「……こんなに広い範囲に、全部?」
「全部だよ。鉄は形を失っても、酸化鉄として地面に残る。ここは、鉄が眠っている場所なんだ」
でも――
『オレ』なら、墓場から引きずり出せる。
錆びて粉になっていても、純度が低くても、『鉄であること』に変わりはない。
クアルトは赤錆を指先でつまみ、さらりと落としながら言った。
「……確か、こういうのを『ラスティアイアン』って言うんだったかな?」
アンナが首をかしげる。
「ラスティアイアン……錆びた鉄、ですか?」
「そう。鉄の『死骸』みたいなものだけど、再生できる。焼き固めれば、鉄に戻せるんだ」
アンナの目がわずかに輝く。
「じゃあ……これも素材になるんですね?」
「なるよ。ブロンズの次の、金属系の入口になる」
古戦場の土を踏みしめるたび、足元で赤錆がざらりと音を立てた。
ブロンズゴーレムを作ったばかりのクアルトは、すでに次の進化――『鉄』という新たな技術ツリーを見据えていた。
クアルトが最後の錆粉を押し固め、核となる『焼結鉄の芯』をそっとはめ込んだ瞬間――
地面に散らばっていた赤錆が、ひとつの形へと収束した。
乾いた音が、カン、と響く。
クアルトは立ち上がり、手についた赤茶色の粉を払った。
「はい。完成。『ラスティアイアンゴーレム』だ」
これまた人型である。
身長は160センチにした。
その姿は、鉄とは言い難い。
だが、土とも違う。
赤錆の層が幾重にも焼き固められ、ところどころ黒錆が筋のように走り、まるで『鉄の亡霊』が形を得たような存在だった。
アンナが目を細めて見つめる。
「……本当に動くんですか? これ」
「動くよ。鉄の純度は低いけど、『鉄だった』のは確かなんだから」
ラスティアイアンゴーレムは、ぎしり、と音を立てて首を動かした。
草を踏みしめる音と、土をかき分けるざくざくという音が、古戦場の静寂を満たしていく。
「よし。みんな、どんどん素材を掘ってねー!」
『僕』の明るい声が響き、ゴーレムたちが一斉に動き出した。
『オレ』は引っ込んで、クアルトとゴーレムの指揮権を完全に『僕』へ委ねる。
ブロスゴーレムは大きな腕で地面を撫でるように掘り返す。
『リクリスタライズ・マーブルゴーレム』は草と土を分別しながら整地。
ブロンズゴーレムは軽快に素材を運ぶ。
ラスティアイアンゴーレムは赤錆の層を丁寧にすくい上げた。
古戦場の地表は、まるで『宝の層』のように次々と姿を変えていく。
『僕』は腕を振り上げて叫んだ。
「そっちの土、もうちょっと深く! あ、ブロスくんはそのまま横に広げて! ラスティくんは赤いところ優先ね!」
アンナが苦笑しながら見守る。
「……本当に、指揮官みたい」
素材を根こそぎ掘り返すため――
それはもちろん目的のひとつだ。
だが同時に、ゴーレムたちに『働かせる』ことで経験値を稼がせるという、効率重視の狙いもある。
掘る。運ぶ。仕分ける。
それぞれの動作が、確実に経験値へと変換されていく。
『僕』は満面の笑みで振り返った。
「ねぇねぇ! いっぱい掘れてるよ! これ、全部ゴーレムのごはんになるんだよね!」
「ごはん……まぁ、間違ってはいないでしょうけど」
アンナが吹き出し、『オレ』も思わず笑った。
この表現は子供にしかできない。
古戦場の静けさの中、ゴーレムたちの働く音だけが、新しい進化の予兆のように響き続けていた。
草を掘り返す音だけが、夜の古戦場に淡々と響いていた。
ゴーレムたちは休まない。
疲れない。
眠らない。
腹も減らない。
「目」があるわけではないから、暗闇も関係ない。
光源がなくても、構造的に『作業』という行為を続けられる。
だから――
ただひたすら働き続ける。
ブロスゴーレムは大きな腕で地面を削る。
ラスティアイアンゴーレムは赤錆の層を丁寧にすくい上げ。
ウッドゴーレムは素材を運び。
『リクリスタライズ・マーブルゴーレム』は掘り返した土を整地していく。
アンナが焚き火の前で腕を組み、その光景を見ながらぽつりと呟いた。
「……なんか、すごいですね。働き者というか……働き続ける者というか」
クアルト――『オレ』は頷く。
「ゴーレムは『止まる理由』がないからね。命令がある限り、ずっと動き続ける」
夜の古戦場に、人間の生活音と、ゴーレムたちの無機質な作業音が混ざり合う。
人は休む。
ゴーレムは休まない。
六日目の昼過ぎ。
古戦場の空気は乾き、風が吹くたびに赤錆の粉が舞い上がる。
その中で――三種の金属ゴーレムが、同時に『節目』へ到達した。
ブラスゴーレム Lv10
ブロンズゴーレム Lv10
ラスティアイアンゴーレム Lv10
クアルト――『オレ』は、素材の山を前に腕を組んだ。
「……ここまで来たら、次の段階を考えるべきだよな」
そして、ひとつの可能性が脳裏に浮かぶ。
『融合』による合金制作。
すでに『真鍮(Brass)』で成功している。
ならば、もっと複雑な合金も作れるはずだ。
銅系金属同士の融合。
真鍮の加工性と、青銅の耐久性が合わさる。
軽い。
錆びにくい。
打撃に強い。
色味が美しい(黄金+赤銅の複合)。
軽金属ルートの進化素材として最適。
青銅 × ラスティアイアン → シンタードアイアン(焼結鉄)
ラスティアイアンは鉄の『死骸』だが、焼き固めれば鉄として復活する。
そこに青銅を混ぜることで――
鉄の強度。
青銅の耐食性。
錆びにくい鉄系素材。
重量はあるが安定性が高い。
重金属ルートの入口として完璧。
アルト――『オレ』は、手のひらの上で青銅片と真鍮片、そして焼結した鉄の欠片を転がしながら、静かに呟いた。
「……金属製ゴーレムの進化が行える」
三つの金属が揃った瞬間、頭の中で何かが噛み合った




