第8話 『朝練』
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意外だと思われるかもしれないが、貴族の朝は早い。
陽が上るころにはもう、動き出す。
家によって差はあるのかもしれないが、我がメリマルゴール男爵家ではそうだ。
なぜかと言えば・・・。
「ふっ、やぁっ、たー」
「おらぁっ、どりゃぁ、そいやぁぁぁぁぁ」
「ふっ、はっ、やっ」
「振りが甘い、腰を入れろ、膝が固い」
剣の稽古があるからだ。
兄弟たちが木剣を振る横で、メリマルゴール男爵家騎士団副団長が稽古をつけている。
少し先では、父と騎士団長も剣を交えていた。
初代から『剣』で鳴らした一族であるため、剣の腕を磨くことは必須なのだ。
『適性』から見てもそれははっきりしている。
『剣統士』。
『剣闘士』ではなく『剣統士』だ。
剣で戦うのではなく、剣を統べるという意味である。
あらゆる剣を使いこなし、戦場を駆けることを約束されている『適性』だ。
初代はこの『適性』で、当時の王家に多大な貢献をなして叙爵されている。
以来、剣のみに生きてきたのがメリマルゴール男爵家である。
「あ。クアルト様。おいでになられたのですね」
父上や兄たちの訓練を眺めていると、ようやく待ち人が現れた。
練兵場に一番乗りしたというのに居なくて、とうとうこの時間まで待ちぼうけさせられていたのだ。
指導教官の『エリオット・グランツ』。
最年少の隊長だ。
栗毛でアイスブルーの瞳。
我が家のメイドの七割がファンになっていると噂される、若手のホープである。
「そりゃ来るよ。なにしてたの?」
いつも朝一で来ていたのに。
「いえ・・・えーと」
なぜか視線をさ迷わせた。
まさか・・・。
「恋人と夜遊びとか?」
思わずジトっとした視線を向けてしまった。
「いえっ、いいえっ。そんな相手がいるなら、苦労しませんよっ」
違うらしい。
「なら、なに?」
「『適性』が『剣統士』どころか剣とは関係ないものだったって聞いたんで、もう来ないものかと」
「あー、そういうことか」
わからなくはないな。
確かに『剣統士』になるものと思われていたからこその朝練だ。
『剣』と直接関係ない『適性』であれば、やる意味は薄くなる。
だけど。
「どんな『適性』でも、剣が使えて困ることはないと思うよ?」
「っ?!」
「違う?」
「いえ、まったくもってその通りです」
魔法使いも冒険に出れば近接戦の必要な時はある。
商人だとしたって、盗賊に襲われるかもしれないのだから自分で剣が使えて困ることはない。
どんな職業であっても、剣を扱えて困ることなどないのだ。
「なら、始めますか」
すっ、と木剣を構えて対峙してくる。
剣筋の鍛錬ということで、クアルトの訓練は木剣同士の立ち合いとなっていた。
どのみち体ができあがっていない成長期の7歳児。
下手な筋力トレーニングは逆効果なので、剣筋に目と体を慣らす訓練が主体となっている。
だけど・・・。
「今日はちょっとだけ、訓練の内容変えさせてもらってもいい?」
「ん? 変える?」
「うん。僕からも攻撃をしていいかな?」
いつもは受けるだけだ。
目と身体を動きに慣らす訓練だから、型が崩れる攻撃は禁止されていた。
「んー・・・まぁいいだろう。言いたいことはいくつかあるけど、一度その攻撃とやらを見てから判断するよ」
「ありがとうっ!」
下げた頭の影で、思わず人の悪い笑みが浮かんだ。
実験に付き合ってもらうぞ。
「始めるよ」
「はい」
同時に構え、エリオットが様子見の上段斬りを放ってくるのを、いつも通りに受ける。
守りに徹する普段通りの動きだ。
「?」
何か変えてくると思っているエリオットは不思議そうな顔をした。
「っ?!」
その顔が、瞬時に驚愕へ変わる。
顔すれすれに何かが飛んだのだ。
『鶴』だ。
そう。
攻撃というのはゴーレムを使ってのものだ。
自身も動きながらのゴーレム操作の検証がしたかったのだ。
「な、なんだ、今の?!」
焦ったように飛んだモノの後を目で追っている。
「ッ!」
隙あり、そう言って攻撃しようかと思ったのに、すぐに視線を戻し横薙ぎの一撃を放って来た。
牽制されて、攻撃に転じる動きは制された。
「あっぶな」
なんてことを言っているが、手は休めていない。
いつも通りの打ち込みが来る。
「今の、クアルト様の? もしかして、『適性』による『能力』かい?」
「そうだよ。当てるつもりで飛ばしたのに、かすりもしなかったね」
頬を切るくらいはできるかと思っていたのだけど。
完全回避されてしまうとは。
「いやいやいや。そこは殺す気で打たないとダメ。それなら、かするぐらいはしたかもよ?」
「殺す気って」
七つの子供になに無理言ってんの!
「今ので終わりかい?」
ニヤリと笑っての安い挑発。
ムカッと来た。
なら、遠慮しませんよっと。
どうせ非力な七歳児。
殺す気での攻撃がもろに当たってもよくて打撲だ。
目への直撃だけはないように気を付けて——。
「おおっ?!」
エリオットの目が一瞬だけ大きく見開かれた。
その表情を見るだけで、胸が少しだけスカッとした。
『ツバメ』も飛ばす。
仰け反ったところで『亀』も投入。
空中に意識を誘導して、膝の裏に『ウサギ』と『リス』を突貫。
「膝カックン」させて、胸元に『馬』を特攻。
尻もちをついたのをいいことに『金魚』と『ジンベェザメ』も加えた総攻撃をかけた。
・・・残念ながら全部手のひらサイズの『紙』。
速度はともかく、重さに違いはない。
「どぉあぁぁぁぁッ!」
様子見なしのガチな速攻。
メリマルゴール男爵家騎士団最年少の隊長も、驚いてくれたらしい。
面白いように叩かれてくれている。
一撃入れるなら好機。
だが、攻勢には加わらずウィンドウを開いた。
「さて、どうなるかな」
期待と好奇心が胸の奥で跳ねた。
一撃当てるだけでも経験値はたまるのか?
倒さなければだめなのか?
その確認のためだ。




