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『時代遅れスキル『ゴーレム制作』専門の男爵家四男が、転生者の知識でそこそこ頑張るはずが、なぜか王弟に目をつけられてしまう話』  作者: 葉月奈津・男
第二部、『帰路』

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第78話 『建築』 

1/2

 


 夜。

 二度目の野営。

 アンナたちが動き回る中、クアルトも忙しかった。



 なんと、『ウッドゴーレム』のレベルが10になったのだ。

 実際は少し前になっていたが、そこで止めるわけにはいかなかったので、それ以降の経験値は涙を呑んで諦めた。

 そのかわり、馬車は再び進化しようとしている。


「『ジョイナリーゴーレム』完成!」


 声が野営地に響く。

 アンナが驚いて振り返るが、クアルトはもう夢中で説明を始めていた。


 荷台の馬車を一度バラバラにし、四体のウッドゴーレムを『組木構造』として再構築。

 これまでは左右前輪・左右後輪・車体と、駆動部ごとに一体ずつゴーレムを割り当てる必要があった。


 だが――


「ジョイナリーになったことで、一体のゴーレムで全部動かせるようになったんだよ!」


 木材同士が噛み合い、力が分散せず、構造体として『ひとつの生命』になった。

 生命と呼ぶのが大げさに聞こえるなら、『木材』を組み合わせていただけの状態から、一つのモノにする『建築』と呼び変えてもいい。


 いろいろな機能を内包した『建物』に昇華させられる。

 つまり。


「材料さえあれば、馬車を十台動かせるってことだね!」


 クアルトは腕を組み、満足げに頷いた。


「素晴らしい!」


 自賛というより、『技術の進歩そのもの』を褒めているような声音だった。


 アンナは呆れ半分、感心半分でため息をつく。


「……また、とんでもないものを作りましたね」


 クアルトはにやりと笑う。


「まだまだ快適になるよ」

 確信と、さらなる進化への期待を込めて、クアルトは言い切った。


 焚き火の明かりがゆらゆらと馬車の側面を照らし、クアルトはアンナを手招きした。

 どこか誇らしげで、子どもが秘密基地を見せる時のような顔だ。


「アンナ、ちょっと中、見てみてよ」


「……また何か仕込んだんですか?」


「『また』って言い方はひどくない?」


 そう言いながらも、クアルトは嬉しそうに扉を開けた。

 アンナが一歩踏み入れると、そこはもう『ただの馬車』ではなかった。


「まず、これ」


 クアルトは座席の背もたれを軽く押す。

 カチリ、と組木の軸が噛み合い、座席が滑らかに倒れていく。


「リクライニングベッド。昼は座席、夜はベッド。組木の軸で角度を固定できるんだ」


 アンナは思わず目を丸くした。


「……本当にベッドになるんですね。しかも、揺れに強そう」

「でしょ。ジョイナリーのおかげで強度が段違いなんだよ」


 不満はある。

 クッション性皆無の板なのは変わっていないのだ。

 ベッドにもなると謳っておいて、これは『痛い』。

 今後の改善に期待しよう。



 クアルトは次に床を指差す。


「ここ、踏んでみて」


 アンナが恐る恐る踏むと、床板の一部がスッと沈み、中央から板がせり上がってきた。


「ポップアップテーブル。必要な時だけ出てくる。使わない時は床と一体化して邪魔にならない」

「……どうやって思いつくんですか、こういうの」


「寝ながら考えるのさ!」


 アンナはその言い方に少しだけ苦笑した。


「で、ここが床下収納」


 クアルトが床板を持ち上げると、

 中には仕切りのついた収納スペースが広がっていた。


「食料とか工具とか、散らかりやすいものは全部ここ。揺れても暴れないように仕切りを入れてある」


「……本当に家みたいですね」


「まだまだだよ。家にするには足りない」


 クアルトは壁を軽く叩く。


「ここが扉付きの棚。調味料とか小物とか、全部ここに入れられる。扉は組木のロックで固定してるから、走行中でも開かない」


 アンナは棚の扉をそっと開け、内部の細かい仕切りを見て感心したように息を漏らした。

 棚を開けると、木の香りがふわりと広がった。


「……細かいところまで、よく考えましたね」


「うん。あと、折りたたみ椅子が三脚。壁に掛けてあるから、必要な時だけ取り出せる」


 アンナは馬車の中をぐるりと見回した。


 狭いはずの空間が、不思議と広く、整って見える。


「……クアルト様。これ、本当に『旅の途中で作った』んですよね?」


「そうだよ。見てたでしょ。まだ途中だけどね」


「途中でこれなら……完成したらどうなるんですか」


 クアルトはにやりと笑った。


「それはね――あとのお楽しみ」


 アンナはため息をつきながらも、その頬はわずかに緩んでいた。


「……本当に、あなたって人は」


 馬車の中には、焚き火の光と、クアルトの『次の進化』への期待が満ちていた。


 そして、実はアンナにも秘密で保管庫——金庫——も用意してあった。

『ゴールドゴーレム』、『シルバーゴーレム』、『マラカイトゴーレム』、『クリソコラゴーレム』。

 貴金属と宝石のゴーレムを入れておくための場所だ。


 ずっとポケットに入れていたが、地味に重い。

 特に『ゴールド』が。


 なので、馬車の中に隠し場所を作ったのだ。

 床下収納のさらに奥、組木の隙間を利用した“隠し箱”だ。


 金の『豆亀』と、銀の『ヤドカリ』。

 孔雀石の『沢蟹』、珪孔雀石の『ヤモリ』。

 小さなゴーレムたちが、小さな巣穴で身を休めている。


「ふう。これで肩こりともおさらばだ」

 小さなゴーレムたちを、安住の場所へ移して息を吐いた。

 金の塊を持ち歩くのは、七歳の体に負担が大きすぎる


 そして、この馬車は二台作った。

 イーアンたちにも一台だ。


 四人乗りで、イーアンが御者席。

 クアルトやアーネストはそれでよしとできるが、アンナとセティ。

 とりわけセティがかなり不満を持ちつつあった。

「なんで私だけ後ろ向きなのよ!」と。。


 なので、四人乗り馬車を二台作り、一台はクアルトとアンナ、アーネストの三人。

 もう一台はセティとイーアンの二人が乗る。


 ちなみに、イーアンたちの馬車は座席を迎え合わせではなく、前方向きに二列にしてある。

 これでセティの不満は解消だ。

 そして、前方には大きな開放部をつけた。

 風が強いときには板戸で塞げるようにしてある。


 かなり重くなるため、人力での上げ下げはきつい。

 パワーウィンドウに、価値が出る。


「ぐっじょぶ!」

『僕』が親指を立てて褒めてくれた。


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