第78話 『建築』
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夜。
二度目の野営。
アンナたちが動き回る中、クアルトも忙しかった。
なんと、『ウッドゴーレム』のレベルが10になったのだ。
実際は少し前になっていたが、そこで止めるわけにはいかなかったので、それ以降の経験値は涙を呑んで諦めた。
そのかわり、馬車は再び進化しようとしている。
「『ジョイナリーゴーレム』完成!」
声が野営地に響く。
アンナが驚いて振り返るが、クアルトはもう夢中で説明を始めていた。
荷台の馬車を一度バラバラにし、四体のウッドゴーレムを『組木構造』として再構築。
これまでは左右前輪・左右後輪・車体と、駆動部ごとに一体ずつゴーレムを割り当てる必要があった。
だが――
「ジョイナリーになったことで、一体のゴーレムで全部動かせるようになったんだよ!」
木材同士が噛み合い、力が分散せず、構造体として『ひとつの生命』になった。
生命と呼ぶのが大げさに聞こえるなら、『木材』を組み合わせていただけの状態から、一つのモノにする『建築』と呼び変えてもいい。
いろいろな機能を内包した『建物』に昇華させられる。
つまり。
「材料さえあれば、馬車を十台動かせるってことだね!」
クアルトは腕を組み、満足げに頷いた。
「素晴らしい!」
自賛というより、『技術の進歩そのもの』を褒めているような声音だった。
アンナは呆れ半分、感心半分でため息をつく。
「……また、とんでもないものを作りましたね」
クアルトはにやりと笑う。
「まだまだ快適になるよ」
確信と、さらなる進化への期待を込めて、クアルトは言い切った。
焚き火の明かりがゆらゆらと馬車の側面を照らし、クアルトはアンナを手招きした。
どこか誇らしげで、子どもが秘密基地を見せる時のような顔だ。
「アンナ、ちょっと中、見てみてよ」
「……また何か仕込んだんですか?」
「『また』って言い方はひどくない?」
そう言いながらも、クアルトは嬉しそうに扉を開けた。
アンナが一歩踏み入れると、そこはもう『ただの馬車』ではなかった。
「まず、これ」
クアルトは座席の背もたれを軽く押す。
カチリ、と組木の軸が噛み合い、座席が滑らかに倒れていく。
「リクライニングベッド。昼は座席、夜はベッド。組木の軸で角度を固定できるんだ」
アンナは思わず目を丸くした。
「……本当にベッドになるんですね。しかも、揺れに強そう」
「でしょ。ジョイナリーのおかげで強度が段違いなんだよ」
不満はある。
クッション性皆無の板なのは変わっていないのだ。
ベッドにもなると謳っておいて、これは『痛い』。
今後の改善に期待しよう。
クアルトは次に床を指差す。
「ここ、踏んでみて」
アンナが恐る恐る踏むと、床板の一部がスッと沈み、中央から板がせり上がってきた。
「ポップアップテーブル。必要な時だけ出てくる。使わない時は床と一体化して邪魔にならない」
「……どうやって思いつくんですか、こういうの」
「寝ながら考えるのさ!」
アンナはその言い方に少しだけ苦笑した。
「で、ここが床下収納」
クアルトが床板を持ち上げると、
中には仕切りのついた収納スペースが広がっていた。
「食料とか工具とか、散らかりやすいものは全部ここ。揺れても暴れないように仕切りを入れてある」
「……本当に家みたいですね」
「まだまだだよ。家にするには足りない」
クアルトは壁を軽く叩く。
「ここが扉付きの棚。調味料とか小物とか、全部ここに入れられる。扉は組木のロックで固定してるから、走行中でも開かない」
アンナは棚の扉をそっと開け、内部の細かい仕切りを見て感心したように息を漏らした。
棚を開けると、木の香りがふわりと広がった。
「……細かいところまで、よく考えましたね」
「うん。あと、折りたたみ椅子が三脚。壁に掛けてあるから、必要な時だけ取り出せる」
アンナは馬車の中をぐるりと見回した。
狭いはずの空間が、不思議と広く、整って見える。
「……クアルト様。これ、本当に『旅の途中で作った』んですよね?」
「そうだよ。見てたでしょ。まだ途中だけどね」
「途中でこれなら……完成したらどうなるんですか」
クアルトはにやりと笑った。
「それはね――あとのお楽しみ」
アンナはため息をつきながらも、その頬はわずかに緩んでいた。
「……本当に、あなたって人は」
馬車の中には、焚き火の光と、クアルトの『次の進化』への期待が満ちていた。
そして、実はアンナにも秘密で保管庫——金庫——も用意してあった。
『ゴールドゴーレム』、『シルバーゴーレム』、『マラカイトゴーレム』、『クリソコラゴーレム』。
貴金属と宝石のゴーレムを入れておくための場所だ。
ずっとポケットに入れていたが、地味に重い。
特に『ゴールド』が。
なので、馬車の中に隠し場所を作ったのだ。
床下収納のさらに奥、組木の隙間を利用した“隠し箱”だ。
金の『豆亀』と、銀の『ヤドカリ』。
孔雀石の『沢蟹』、珪孔雀石の『ヤモリ』。
小さなゴーレムたちが、小さな巣穴で身を休めている。
「ふう。これで肩こりともおさらばだ」
小さなゴーレムたちを、安住の場所へ移して息を吐いた。
金の塊を持ち歩くのは、七歳の体に負担が大きすぎる
そして、この馬車は二台作った。
イーアンたちにも一台だ。
四人乗りで、イーアンが御者席。
クアルトやアーネストはそれでよしとできるが、アンナとセティ。
とりわけセティがかなり不満を持ちつつあった。
「なんで私だけ後ろ向きなのよ!」と。。
なので、四人乗り馬車を二台作り、一台はクアルトとアンナ、アーネストの三人。
もう一台はセティとイーアンの二人が乗る。
ちなみに、イーアンたちの馬車は座席を迎え合わせではなく、前方向きに二列にしてある。
これでセティの不満は解消だ。
そして、前方には大きな開放部をつけた。
風が強いときには板戸で塞げるようにしてある。
かなり重くなるため、人力での上げ下げはきつい。
パワーウィンドウに、価値が出る。
「ぐっじょぶ!」
『僕』が親指を立てて褒めてくれた。




