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『時代遅れスキル『ゴーレム制作』専門の男爵家四男が、転生者の知識でそこそこ頑張るはずが、なぜか王弟に目をつけられてしまう話』  作者: 葉月奈津・男
第二部、『帰路』

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第77話 『幌』 

2/2

 


 昼。

 アンナが昼食の用意をしている。

 そんな中、クアルト——『オレ』——はゴーレムたちのところにいた。


 昼食の間にも、できることはある。

 昨夜頭に浮かんだ『キャンピングカー』だ。


 短い間でも、作れそうなものがあると思い付いた。

『オーニング』である。


 キャンピングカーの屋根にロール状に設置されていて、引っ張り出すことで日よけになり、支柱と組み合わせて、さらに壁布も使えばテントを追加できる。

 カーキャンピングの愛好家なら必然の装備だ。


 これなら再現できる。

 素材は、ボアウルのダンボール荷台に載せたフエルトロールと、『麻の端材』だ。


「本来は『麻』だけで作るものなんだけど……」

 フエルトを手に取って手触りを見る。

 前世で知るフエルトとは質感が違っていた。


「動物……魔獣?」

 最も多く使われている獣毛が特殊——前世知識では――らしい。

 これを使えば—— 


「作れる、ね」


 麻の端材を袋から取り出すと、乾いた草のような匂いがふわりと立ち上がった。

 短い繊維、ほつれた糸、粉のような麻ダスト。

 クアルトはそれらを指先でつまみ、軽く揉みほぐす。

「……繊維が短い。でも、絡みやすい」

 隣でフエルトのロールを裂くと、獣毛特有の柔らかい弾力が返ってくる。

 麻の“シャリ”と、フエルトの“ふわり”が混ざり合う音が心地よかった。


 クアルトが手をかざすと、麻とフエルトの繊維がふわりと浮き上がる。

 普通なら、フエルトは吸水性が高いから帆布にする相性は悪い。

 だが、こちらの素材の特性は『可能』と言っていた。

 麻同士を編みこむ隙間を塞ぎ、より厚く、より強くする性質が見て取れた。


「……『融合』」

 魔力が走ると、麻の硬い繊維がフエルトの柔らかい毛を抱き込むように絡み、

 まるで“織らずに織っていく”ように布の形を取り始めた。

 シャラ……シャララ……

 繊維が締まり、密度が上がり、

 薄い布が、徐々に“厚布”へと変わっていく。


「これだけでも十分だけど……」

 ダメ押しで、工房でもらった麻油を布に薄く塗る。


 すると、ほんのり甘い植物油の香りが立ち上がる。

 布の表面がしっとりと落ち着き、水を弾く“帆布らしい質感”が生まれた。


「これで、防水もばっちり」

 広げた布は、生成り色の厚布。

 指で押すとしなやかに沈み、すぐに元へ戻る。


 麻の強さとフエルトの柔らかさが、魔力でひとつに再構成されていた。

 手持無沙汰にしていたレーデルフィーヌが布の端をつまんで、目を丸くする。


「……これ、本当にあなたが作ったんですか?」


 クアルトは肩をすくめた。


「素材が良いからね。あとは、ちょっと魔力で手伝っただけ」

 その素材も、我田引水になるがクアルトが作ったものだ。

 相性が良くて当然だ。


 こうして、帆布が完成した。


 フエルトの薄茶と麻の青が混ざり合い、まるで“焼きたてのパンのような色”の帆布が広がっていった。




 【『キャンバスゴーレム』の制作に成功しました。】




 完成した『キャンバスゴーレム』はロール状にして、馬車に設置。

 折り紙の要領で折りたたんだ帆布が自動で立体的に展開。

 これによって、うちの馬車は停車中、後方に拡張寝室を作れる。



 ゴーレム化させない『帆布』は、『合成大理石』の荷台の屋根にもできる。

 いわゆる『幌馬車』を作るってことだ。

 これで荷物を濡らさずに済む。


 『幌馬車』。

 キャンピングカーに次ぐ憧れだ。


 西部アメリカの開拓時代を舞台にした映画で何度乗ったことか――

 夕日に照らされた幌馬車の列が、少年の心に焼き付いていた。

 子どもの頃、あれに乗って“フロンティア”を目指す主人公に憧れていたのだ。


 木製馬車の屋根も、これに替えれば軽量化できるだろう。

 ゴーレムとはいえ、重さは速さを阻害する。

 軽量化は大切だ。


 パタパタ、パタ。


 設置したばかりの『オーニング』が展開していく。

 帆布の縁だけをあえて厚くし、展開時にはその部分が“支柱”の役割を果たす。


 展開した帆布に覆われ、柔らかくなった日差しが辺りを照らす。

 涼やかな風が吹き抜けていった。


「昼食、できましたよー…ってあら?」

 トレイにシチューのようなものと、パンを載せて入ってきて辺りを見回している。


「いいですね。食事をするとき便利です」

 日よけ、風よけ、そして虫よけ。


「……これ、雨の日すごく助かりますね」

 アンナは帆布の影に手を伸ばし、柔らかい光を確かめるように言った。

 当然に雨除けにもなるのだ。


 キャンプで便利な機能は、野営でも便利なのだ。


「それならもテーブルと椅子も欲しいわね!」

 前も作ってたじゃない!


 セティがさらなる要求を突き付けてきた。

 もっともだ。


 夜に向けて、考えることができた。

 馬車に揺られながら、考えよう。



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