第77話 『幌』
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昼。
アンナが昼食の用意をしている。
そんな中、クアルト——『オレ』——はゴーレムたちのところにいた。
昼食の間にも、できることはある。
昨夜頭に浮かんだ『キャンピングカー』だ。
短い間でも、作れそうなものがあると思い付いた。
『オーニング』である。
キャンピングカーの屋根にロール状に設置されていて、引っ張り出すことで日よけになり、支柱と組み合わせて、さらに壁布も使えばテントを追加できる。
カーキャンピングの愛好家なら必然の装備だ。
これなら再現できる。
素材は、ボアウルのダンボール荷台に載せたフエルトロールと、『麻の端材』だ。
「本来は『麻』だけで作るものなんだけど……」
フエルトを手に取って手触りを見る。
前世で知るフエルトとは質感が違っていた。
「動物……魔獣?」
最も多く使われている獣毛が特殊——前世知識では――らしい。
これを使えば——
「作れる、ね」
麻の端材を袋から取り出すと、乾いた草のような匂いがふわりと立ち上がった。
短い繊維、ほつれた糸、粉のような麻ダスト。
クアルトはそれらを指先でつまみ、軽く揉みほぐす。
「……繊維が短い。でも、絡みやすい」
隣でフエルトのロールを裂くと、獣毛特有の柔らかい弾力が返ってくる。
麻の“シャリ”と、フエルトの“ふわり”が混ざり合う音が心地よかった。
クアルトが手をかざすと、麻とフエルトの繊維がふわりと浮き上がる。
普通なら、フエルトは吸水性が高いから帆布にする相性は悪い。
だが、こちらの素材の特性は『可能』と言っていた。
麻同士を編みこむ隙間を塞ぎ、より厚く、より強くする性質が見て取れた。
「……『融合』」
魔力が走ると、麻の硬い繊維がフエルトの柔らかい毛を抱き込むように絡み、
まるで“織らずに織っていく”ように布の形を取り始めた。
シャラ……シャララ……
繊維が締まり、密度が上がり、
薄い布が、徐々に“厚布”へと変わっていく。
「これだけでも十分だけど……」
ダメ押しで、工房でもらった麻油を布に薄く塗る。
すると、ほんのり甘い植物油の香りが立ち上がる。
布の表面がしっとりと落ち着き、水を弾く“帆布らしい質感”が生まれた。
「これで、防水もばっちり」
広げた布は、生成り色の厚布。
指で押すとしなやかに沈み、すぐに元へ戻る。
麻の強さとフエルトの柔らかさが、魔力でひとつに再構成されていた。
手持無沙汰にしていたレーデルフィーヌが布の端をつまんで、目を丸くする。
「……これ、本当にあなたが作ったんですか?」
クアルトは肩をすくめた。
「素材が良いからね。あとは、ちょっと魔力で手伝っただけ」
その素材も、我田引水になるがクアルトが作ったものだ。
相性が良くて当然だ。
こうして、帆布が完成した。
フエルトの薄茶と麻の青が混ざり合い、まるで“焼きたてのパンのような色”の帆布が広がっていった。
【『キャンバスゴーレム』の制作に成功しました。】
完成した『キャンバスゴーレム』はロール状にして、馬車に設置。
折り紙の要領で折りたたんだ帆布が自動で立体的に展開。
これによって、うちの馬車は停車中、後方に拡張寝室を作れる。
ゴーレム化させない『帆布』は、『合成大理石』の荷台の屋根にもできる。
いわゆる『幌馬車』を作るってことだ。
これで荷物を濡らさずに済む。
『幌馬車』。
キャンピングカーに次ぐ憧れだ。
西部アメリカの開拓時代を舞台にした映画で何度乗ったことか――
夕日に照らされた幌馬車の列が、少年の心に焼き付いていた。
子どもの頃、あれに乗って“フロンティア”を目指す主人公に憧れていたのだ。
木製馬車の屋根も、これに替えれば軽量化できるだろう。
ゴーレムとはいえ、重さは速さを阻害する。
軽量化は大切だ。
パタパタ、パタ。
設置したばかりの『オーニング』が展開していく。
帆布の縁だけをあえて厚くし、展開時にはその部分が“支柱”の役割を果たす。
展開した帆布に覆われ、柔らかくなった日差しが辺りを照らす。
涼やかな風が吹き抜けていった。
「昼食、できましたよー…ってあら?」
トレイにシチューのようなものと、パンを載せて入ってきて辺りを見回している。
「いいですね。食事をするとき便利です」
日よけ、風よけ、そして虫よけ。
「……これ、雨の日すごく助かりますね」
アンナは帆布の影に手を伸ばし、柔らかい光を確かめるように言った。
当然に雨除けにもなるのだ。
キャンプで便利な機能は、野営でも便利なのだ。
「それならもテーブルと椅子も欲しいわね!」
前も作ってたじゃない!
セティがさらなる要求を突き付けてきた。
もっともだ。
夜に向けて、考えることができた。
馬車に揺られながら、考えよう。




