第76話 『二台目』
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「……え、これ……全部、昨日のウッドゴーレムを……?」
クアルトは満面の笑みで頷いた。
「そう! 四体を『組木』で組み上げて、一つの馬車にしたんだよ!」
組木ゴーレム馬車の構造。
自力駆動する『前輪』。
木製の車輪だが、内部に『組木式の回転軸』が仕込まれている。
昨日よりも滑らかに回り、段差にも強い。
自力駆動する『後輪』。
前輪とは別構造で、荷重に強い『梁組み』が使われている。
木材とは思えないほど頑丈。
御者を模した自動人形付きの『台車』。
木製の人形が御者台に座り、手綱を持つポーズをしている。
もちろん飾りではなく、クアルトの指示で『操縦補助』を行う。
自動扉とパワー機窓付きの『箱』。
木製とは思えないほど精密な可動部。
寄木細工のように滑らかに開閉する。
アンナは呆れと感心が入り混じった表情で、馬車の周囲をぐるりと歩いた。
「……昨日の夜、倒れそうになってた人が作ったとは思えませんね」
「寝たからね! 三時間くらい!」
「それは『寝た』とは言いません」
アンナのツッコミは鋭いが、その声にはどこか誇らしさが混じっていた。
クアルトは馬車の側面を軽く叩く。
「でも見てよ。組木で組んだおかげで、強度は倍以上。しかも、四体のウッドゴーレムが『合体』してるから、動きも安定してるんだ」
木材同士が噛み合う音が、コトン、と心地よく響く。
アンナはため息をつきながらも、その音に耳を傾けていた。
「……本当に、あなたって人は。旅の途中で、どこまで進化するつもりなんですか」
クアルトはにやりと笑った。
「まだまだ。次は素材にする『木材』そのものの強化だよ。もっと細かく、もっと強くできる」
アンナは空を仰いだ。
「また寝ないんでしょうね……」と小さく呟く。
だが、その頬は少しだけ緩んでいた。
馬車が走り出した。
朝の光を受けて木肌がきらりと光り、四体のウッドゴーレムが『ひとつの馬車』として滑らかに動き出す。
前輪がコトコトと軽やかに回り、後輪はしっかりと地面をつかむように回転する。
自力駆動の恩恵で、曲がりくねった道でも揺れが少なく、走行していなすかのような安定感だった。
アンナは驚き混じりに言う。
「すごい……昨日よりずっと乗り心地がいいです」
「でしょ。組木で軸を強化したからね」
クアルトは胸を張りつつも、どこか不満げに窓の方をちらりと見た。
アンナが気づく。
「……何か気に入らないところでも?」
「いや……その……」
クアルトは板戸の『窓』を指差した。
「パワーウィンドウ・・・自動で開け閉めできる窓——意味ないんだよね。板戸だから。ずっと開けっぱなしだし」
アンナは思わず吹き出した。
「そりゃそうですよ。木の板を上下させても……風は入りますけど、窓とは言いませんよ。というか、窓の開け閉めぐらい、手ですればよいのではないですか?」
「いや、でもさ。『パワーウィンドウ付き』って言いたかったんだよ。なんかこう……文明感あるじゃん」
「文明感……ですか」
わかったような、わからないような…アンナは呆れたように笑いながらも、その横顔はどこか楽しそうだった。
だが、クアルトは腕を組んで唸る。
「せっかく作ったのに、使う場面がないんだよなぁ。板戸だと閉めたら暗いし、開けたら開けっぱなしだし」
「……じゃあ、次は『窓』を作ればいいんじゃないですか?」
「窓……」
クアルトの目が輝いた。
「寄木で『枠』を作って、薄板をはめて……いや、いっそ草ゴーレムで透明な膜を作れないかな……?」
アンナは慌てて手を振った。
「ちょ、ちょっと待ってください。また寝ないで作業する気でしょう」
「いやいや、今日は寝るよ。でも、窓は作りたいなぁ……」
馬車はそのまま、軽快に道を進んでいく。
組木ゴーレムの滑らかな走行音と、クアルトの次の発明への妄想が、旅の朝を少しだけ賑やかにしていた。
馬車の横を、もう一台の『木製の車』がコトコトと走っていく。
馬もいない。御者もいない。
ただ四つの車輪と、木組みの台座だけが、まるで意思を持つように地面を蹴っていた。
開いた窓から、セティが手を振っている。
上体を外に乗り出していて、イーアンが服をつかんで引いていた。
クアルトは顎をつまみ、じっとそれを見つめる。
『窓』についてはいったん保留だ。
まずは『木』に集中だ。
「ふむ。なにかないものか……」
昼に停車したとき、付近に転がっていた倒木と枯れ木を拾い集め、その場で組み上げた『試作二号』。
昨日の組木馬車の構造をさらに簡略化し、『車輪+台座だけ』の最小構成で自走するゴーレム車だ。
馬のいない木製の車が、コトコトと軽快に並走している。
アンナは半ば呆れ、半ば感心しながらそれを見つめた。
「……あれ、本当に馬なしで走ってるんですよね」
「うん。前輪と後輪をゴーレムが自分で回して進んでいるからね。馬はいらない。僕たちの横に並んで走るように指示しているんだ。ただ……」
クアルト――今の『僕』は、口を尖らせていた。
その表情は、明らかに不満げだ。
アンナは気づく。
「……何か気に入らないんですか?」
「いや、走るだけなら十分なんだけどさ……」
『僕』は言葉を濁しながら、並走する木製の車をじっと見つめる。
その視線の奥には、『オレ』さんが見ていた世界の記憶がちらついていた。
昨夜、寝落ちするまで木片をいじり続けた『オレ』さんの知識。
その断片を『僕』は引き継いでいる。
だからこそ、物足りない。
「……もっと機能的にしたいんだよね」
アンナは瞬きをした。
「きのう……てき?」
「うん。走るだけじゃなくて、曲がるし、止まるし、窓も開くし、荷物も積めるし、なんなら音楽だって流せるんだよ」
アンナはぽかんと口を開けた。
「……音楽が流れる馬車、ですか?」
「そう。面白そうでしょ?!」
アンナはしばらく沈黙した後、ゆっくりと視線を並走する木製の車へ向けた。
「……それを、作りたいんですか?」
クアルトは肩をすくめる。
「そうは言わないけど、『ゴーレム』で馬車を作るんなら、もっといろいろできそうな気がするし、したい!」
『オレ』の意識は半分眠りに沈みながらも、思考だけは妙に冴えていた。
体は『僕』に任せているから、脳のリソースをすべて『構想』に回せる。
静かな揺れの中、『オレ』は記憶の奥底から、かつて何度も眺めたキャンピングカーのカタログを引っ張り出していた。
先の人生では、結局一度も乗ることはなかった。
けれど、あの閉じこもった部屋の中で、唯一『外の世界』を想像できたのがキャンピングカーだった。
狭い空間にぎゅっと詰まった機能。
ベッドにもなる座席。
外側に引き出せる調理台。
小さな窓から見える知らない景色。
あれは、『動く秘密基地』のようで、『逃げ場』のようで、『自由』そのものだった。
『オレ』はその感覚を、今の世界の木片と草とゴーレムに重ねていた。
座席がベッドになる。
外側に調理台が引き出せる。
収納が壁に埋め込まれている。
天井から吊り下げベッドが降りてくる。
キャンピングカーの『当たり前』を、組木とゴーレムの世界で実現する




