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『時代遅れスキル『ゴーレム制作』専門の男爵家四男が、転生者の知識でそこそこ頑張るはずが、なぜか王弟に目をつけられてしまう話』  作者: 葉月奈津・男
第二部、『帰路』

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第75話 『組木』

2/2

 


 一日進み、夕闇の訪れとともに、一行は水辺で停止した。

 ボアウルが低く鳴き、荷台を揺らして止まる。

 そのまま、クアルトの指示を受けた草ゴーレムたちが素早く動き、ボアウル用の小屋を立ち上げ始めた。


 途中で何度か枯草を見つけて『集約』のレベル上げをしていたため、草ゴーレムたちの動きは以前よりも滑らかで、壁の厚みも均一になっている。


 セティは草の壁に飛びつき、イーアンは「待ちなさい!」と声を裏返して追いかけた。

 元気すぎる姪と、子供の世話に不慣れな叔父。

 そんな関係が構築されつつあるようだ。


 アンナは鍋を取り出し、夕食の準備に取りかかる。

 使用人たちは薪を集め、火床を整え始めた。

 旅の一日の終わりに向けて、それぞれが自然に役割をこなしていく。


 そんな中、クアルトは馬車の横でしゃがみ込み、馬車を形作っていた『ウッドゴーレム』を

 一つひとつ丁寧にバラバラにしていた。


「……よし、ここまで分解すれば十分か」

 木片が地面に並べられ、まるで『木製パズルのパーツ』のように整然と並ぶ。


 ある意味、それも間違いではない。

 馬車の部分ごとの塊で、一つのゴーレムだ。

 パーツをばらしてもゴーレムにダメージはない。

 パズルのピースがバラバラになっても『絵』は壊れるが、『パズル』は壊れないのと同じ理屈だ。


『走行』で経験値を積んでいたから、レベルを上げるのだ。

 ウッドゴーレムのパーツは、ただの木材ではなく、『走った経験』を宿した素材になっている。

 走行中にも、レベル上げはしていたのだ。

 クアルトはその一つを手に取り、指で軽く弾いた。


 コン、と乾いた音が返る。


「……やっぱり、前より締まってるな。木材も経験で変わるって面白いよね」


 クアルトは小さく笑い、次の瞬間には真剣な目で木片を見つめていた。


「さて。『組木』の練習をするか」


 その言葉に、バラバラのウッドゴーレムたちが、動き出す。

 まるで期待しているかのように。

 微かに揺れている。


 アンナは腕を組み、じっと睨んでいた。


「少しは寝てください」


「……あ、うん。ごめん」


 夢中になって木片を弄っていたら、いつの間にか周囲は真っ暗になり、焚き火の赤だけが揺れている。


「明日、馬車の中で寝るよ」


「もう、今日ですけどね」


 つり上がった目が、完全に『怒ってます』の形だ。

 クアルトは苦笑しながら木片を置いた。


「ごめん。だけど、走行中は弄れないからね。今のうちにやっておきたいんだ」


 アンナはため息をつき、焚き火の光に照らされて眉を寄せた。


「……分かりますけど。でも、倒れたら元も子もありませんよ」


 クアルトは肩をすくめる。


「停止中じゃないとできないこともあるんだよ。組木の調整とか、細かい噛み合わせとか。走ってる最中にやったら、絶対に指飛ぶし」


 アンナはしばらく黙っていたが、やがて、少しだけ表情を緩めた。


「……せめて、あと少しだけにしてください。 本当に倒れますよ」


「うん。分かった。あと……三つだけ」


「三つもやる気なんですね」


 呆れた声。

 でも、その奥に『心配』が混じっているのが分かる。


 クアルトは木片を手に取りながら、

 焚き火の明かりに照らされたアンナの横顔をちらりと見た。


「ありがとう。心配してくれて」


 アンナはそっぽを向いた。


「……別に。倒れられたら困るだけです」


 その声は、焚き火よりも柔らかかった。


 水辺に薄い朝霧が立ちこめ、世界がまだ静かに息をしているようだった。

 鳥の声が一つ、また一つと増えていく中で、焚き火の残り火がぱちりと弾ける。


 クアルトは、背中に冷たい気配を感じて目を覚ました。


 ……毛布がかかっている。


 昨夜、木片を弄りながらそのまま寝落ちした記憶がうっすら蘇る。

 そして、毛布の端がきちんと折り返されているのを見て、誰がやったかは考えるまでもなかった。


「……アンナか」


 声に出すと、少しだけ気恥ずかしい。


 周囲を見渡すと、アンナはすでに起きていて、鍋に水を張り、朝食の準備を始めていた。

 こちらに気づくと、ほんの少しだけ眉を上げる。


「おはようございます。倒れずに済んだようで、何よりです」


 言葉は刺さるが、声は柔らかい。

 クアルトは苦笑しながら身を起こした。


「ごめん。昨日は……ちょっと夢中になりすぎた」

「『ちょっと』ではありません。あれ以上続けていたら、本当に倒れてましたよ」

 アンナはそう言いながらも、鍋の蓋を開ける手つきはどこか安心したようだった。


 クアルトは散らばった木片を見下ろす。

 昨夜、組木の噛み合わせを試していた部分が、朝の光の中でやけに整って見えた。


「でも、収穫はあったよ。組木の『芯』が見えてきた」


 アンナは振り返り、少しだけ目を細めた。


「……なら、今日も続きがあるんですね」


「もちろん。馬車のフレームも作り直したいし、卵ゴーレムの合体ももっと精度を上げたい」


 アンナはため息をつきながらも、口元にうっすら笑みを浮かべた。


「朝ごはんを食べてからにしてくださいね。

 倒れられたら困りますから」


 クアルトは頷き、木片を一つ手に取った。

 朝日が木肌を照らし、

 その表面に走る繊維が、まるで『組まれる未来』を待っているように見えた。


 今日もまた、新しい技術が生まれる予感がした。


 クアルトは深呼吸し、木片をそっと置いた。

 そして、ぱっと顔を明るくして振り返る。


「ってわけで! こんなんできましたー!」


 オーバーアクションで指し示された先には、

 昨日の馬車よりも一回り大きく、そして『明らかに複雑』な構造物が鎮座していた。


 アンナは思わず目を瞬かせる。



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