第74話 『組む』
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ボアウルの背に、積める限りの『麻の端材が詰まった袋』を積み上げ、馬車と騎士の一団はゆっくりと出発した。
袋の山は、ボアウルの背中でどっしりと安定している。
草原繊維の筋肉が内部で締まり、揺れを吸収しているのだ。
クアルトは歩きながら、次にやるべき作業を頭の中で整理していた。
「枯草の多い場所を見つけたら……そこで『量産』だな」
枯草があれば、その場で『ドライグラスゴーレム』を作れる。
そして、麻の端材を混ぜて『メドウファイバー(草原繊維)ゴーレム』へ進化させる。
さらに——
スキル『集約』で密度を高め、レベルを底上げする。
これを繰り返せば、草原繊維ゴーレムたちはどんどん強く、賢く、器用になっていく。
アンナが横で笑った。
「……つまり、旅をしながら『ゴーレムの職人集団』を育てるわけですね」
クアルトは肩をすくめた。
「素材があるなら、やらない理由はないよ。レベルが上がれば、もっと綺麗な家も作れるし、できることが増やせる」
ボアウルが低く鳴き、背中の麻袋を揺らしながら歩みを進める。
その姿は、まるで『次の建築現場へ向かう大工の親方』のようだった。
クアルトは空を見上げ、小さく息を吐いた。
「……お披露目会までに、できるだけ強くなる。素材も、ゴーレムも、僕自身も」
◇
草原の道を、ボアウルとゴーレムたちを連れた一行が進んでいく。
ストーンとロックがなくなった分、魔力が余っていた。
素材を見つけたら、どんどん作っていい。
この旅路は、ただの移動ではなく——
『ゴーレム技術の鍛錬と拡張の旅』。
これは、そのようなものになる。
『ウッドゴーレム』の馬車に揺られながら、クアルトは膝の上で小さく作った『試作ウッドゴーレム』をいじくりまわしていた。
木片を組み合わせて作った、掌サイズの小さな人形。
だが、その内部構造はまだ粗い。
ただ形を整えて、はめ込んでいるだけの『木の塊』だ。
「これ、もう少しちゃんと組みたいんだよなぁ」
クアルトは小さくつぶやき、木片の接合部を指で押してみる。
寄せ集めた木を、無理矢理に一つの塊として『ゴーレム』にしている。
色合いの違いが、はっきりと見えた。
ギシ……とわずかに軋む。
「ほら、こういうところ。ただ押し込んでるだけだから、振動を与えると簡単にズレそうになる」
馬車の床が、コトン、と軽く揺れた。
その揺れに合わせて、手の中の小さなウッドゴーレムもカタカタと震える。
実を言えば、この馬車自体が三体のゴーレムで構成されている。
人が乗る『箱』部分。
『前輪』、『右と左』。
『後輪』、『右と左』。
馬型の『石』ゴーレムが曳いているが、馬車そのものも自力で動いているのだ。
『木の車輪が自走する』という奇妙な光景は、旅の一団にとってすっかり日常になっていた。
クアルトは馬車の床を軽く叩く。
「この子たちも、もっと強くできる。木は組み方ひとつで、強度が何倍にもなる・・・はずなんだ」
彼の頭の中には、すでに『組木』の構造が浮かび始めていた。
「昔、よく作ったなぁ」
折り紙だけで時間をつぶしていたわけではない。
木製の立体パズルやクラフト物もよく組み立てていた。
五重塔なんて、あえて木の節が多い板を選んで、「どうやって強度を出すか」を考えながら組んだことすらある。
節を避けて組むのではなく、節を『構造の一部』として活かすという遊び方だ。
節の位置を『梁の支点』にする。
弱い部分を『組み継ぎ』で補強する。
柱と桁を『噛み合わせ』で固定する。
心柱を通して揺れを逃がす。
あの頃はただの遊びだったが、今思えば、あれこそ『組木の基礎』だった。
クアルトは手の中の小さなウッドゴーレムを見つめる。
「……そうだよな。木は『組む』ことで強くなるんだ」
ただ形を整えてはめ込んでいるだけの今のウッドゴーレムは、言ってしまえば『木の人形』にすぎない。
だが、組木を使えば——
木材同士が噛み合い、力が分散し、揺れにも強くなる。
五重塔のように。
「木は、ただの板だと弱い。でも“指を組む”みたいに噛み合わせると、急に強くなる」
素材そのままではなく、それを生かす『技術』。
「次は……『組木ゴーレム』だな」
クアルトの指先が、まるで昔の木製パズルを組んでいた頃のように軽やかに動き始めた。
馬車の揺れに合わせて、木片がカタカタと鳴る。
その音は、新しいゴーレム技術の幕開けを告げるようだった。
「か、可愛いですね。卵……ですか?」
アンナが身を乗り出して覗き込む。
クアルトは苦笑しながら、手の中の卵型ゴーレムを軽く回した。
「ハンプティ・タンプティ……いや、うん。卵だね」
上半分のゴーレムが、ちょこんと手を振る。
下半分のゴーレムは短い足で、ペタペタと床を叩いて抗議しているようだった。
単体ではどちらも『半分の存在』だ。
だが、クアルトが両方を持ち上げ、カチリ、と噛み合わせると——
卵型の胴体がひとつにまとまり、手足が自然な位置に収まった。
「こうやって組むと、ちゃんと『形』になるんだよ」
アンナは目を丸くする。
「上と下が……別々なんですね」
「うん。組木の練習。木材を『組む』っていうのは、ただの板を『構造』に変えるってことなんだ」
クアルトは卵ゴーレムを軽く押してみる。
単体のときはぐらついていたのに、組み合わせた途端、驚くほど安定して立つ。
「ほら、力が逃げない。噛み合わせることで、強度が何倍にもなる」
アンナは感心したように頷いた。
「……可愛いだけじゃなくて、すごいんですね」
「可愛いのはおまけ。本命は『組木ゴーレム』の試作だよ」
卵型ゴーレムは、まるで誇らしげに胸を張ったように見えた。




