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『時代遅れスキル『ゴーレム制作』専門の男爵家四男が、転生者の知識でそこそこ頑張るはずが、なぜか王弟に目をつけられてしまう話』  作者: 葉月奈津・男
第二部、『帰路』

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第73話 『草原繊維』 

2/2

 


「……これだ。これを使うんだ」


 体つきがしっかりして、一間より大きくなったピッカウ――いや、これはもうボアウルだ——が、どっしりとした身体を揺らしながら近づいてくる。


 その背中は広く、安定していて、まるで『載せろ』と言わんばかりの存在感があった。

 クアルトは深呼吸し、草原繊維ゴーレムたちに指示を出す。


「集合編成。ボアウルの背中に『床』を作る。あの時の寝床を……もっと大きく、もっと丈夫に。そして、『壁』と『屋根』もつける」


 草原繊維ゴーレムたちが一斉に動き出した。

 体表の繊維がさらりとほどけ、細い糸状になって風に揺れる。


 その光景は、まるで草原が逆巻くようだった。

 ほどけた繊維が互いに絡み、籠編みのように、縄編みのように、規則正しいリズムで編み上がっていく。


 シャッ、シャッ、シャッ。


 草の擦れる音が、まるで織機のように響く。


 アンナが息を呑む。


「……すごい。本当に『家』を作ってるみたい」


 クアルトは頷いた。


「草原繊維は、ただの素材じゃない。編める。形を作れる。だったら、ボアウルの背中に『家』を作るのは理にかなってる」

 ゴーレムたちの繊維が重なり、厚みを持ち、やがて『床”』の形を成し始める。


 柔らかいのに、踏めばしっかりと反発する。

 草の香りがふわりと漂い、麻の繊維が内部で筋肉のように締まっていく。


 ボアウルは微動だにせず、まるで誇らしげにその作業を受け止めていた。

 クアルトはその背中を見上げながら、ひとつの形を思い浮かべる。


「……猫つぐら、だな」

 あの、雪国の農家で冬に猫を入れておく、丸くて温かい草の家。


 丸く、温かく、包み込むような形。

 草と麻の繊維で編まれた、あの素朴で丈夫な寝床。


 中はほんのり暖かく、草と麻の香りが混ざって心地よい。

 床は柔らかいのに沈みすぎず、揺れを吸収する層が編み込まれている。


『メドウファイバーゴーレム』たちは、クアルトの意図を理解したかのように、

 ほどいた繊維をさらに細かく分け、籠編みの要領で丸い殻を編み始めた。


 シャッ、シャッ、シャッ。


 草の擦れる音が、まるで織機のように規則正しく響く。

 やがて、ボアウルの背中に“猫つぐら”が現れた。

 その静けさは、まるで森が息を止めたかのようだった。


 丸く、柔らかく、しかし内部はしっかりと補強されていて、移動中の揺れを吸収する構造になっている。


 アンナが目を輝かせる。


「……かわいい……! でも、すごく丈夫そうです」


 クアルトは満足げに頷いた。


「移動中はこれでいい。軽いし、風にも強いし、ボアウルの背中にぴったりだ」


 そして、クアルトは指を鳴らす。


「でも、停まるときは——集合編成アセンブルだ」


 その言葉に応じて、周囲にいたメドウファイバーゴーレムたちが一斉に動き出す。


 体表の繊維がさらりとほどけ、風に揺れる草のように広がり、互いの繊維を絡めていく。


 籠編み、縄編み、茅葺き——

 それぞれの技法が自然に混ざり合い、やがて『壁』となり、『屋根』となり、ひとつの『家』の形を作り始めた。


 草の壁は断熱性が高く、麻の繊維が骨組みとして内部を支える。

 屋根は茅葺きのように厚く、雨を弾く。


 アンナが息を呑む。


「……本当に、家になっていく……」


 クアルトは静かに言った。


「メドウファイバーは、ただの素材じゃない。編める。形を変えられる。だったら、旅の家くらい簡単に作れるさ」


 ボアウルは低く鳴き、その巨大な身体をゆっくりと横たえた。

 まるで『ここが今日の拠点だ』と告げるように。


 草原に、ゴーレムたちが編み上げた『家』が立ち上がる。

 旅の拠点、砦だ。


「……まぁ、ちょっと歪だけど」


 完成した家は、ところどころ曲がり、茅葺きの角度も微妙に揃っていなかった。

 草原繊維ゴーレムたちのレベルが低いせいだ。


 だが、クアルトはまったく気にしていない。

 むしろ、口元にうっすら笑みを浮かべていた。


「これは解決できる」


 さいわいにも、工場からもらった『麻の端材』が山ほどある。

 そして、『メドウファイバーゴーレム』には——『ドライグラスゴーレム』の時から持っていたスキル『集約』がある。


 ゴーレム同士を『集約』してレベルを上げていく能力。

 これによって、草や繊維を集めて圧縮し、質を高めるのだ。


 クアルトは袋をひとつ持ち上げ、草原繊維ゴーレムたちに向かって言った。


「よし、みんな。レベル上げだ。麻を取り込んで、もっと強く、もっと上手く編めるようになろう」


 ゴーレムたちは、まるで嬉しそうに体表をふるりと揺らした。


 ほどけた繊維が袋の中へ伸び、麻の端材を吸い上げていく。


 シャラ……シャララ……


 繊維が混ざり、密度が上がり、魔力が通りやすくなっていく。


 アンナが目を丸くする。


「……あ、色が変わってきてます」


 クアルトは頷いた。


「麻が混ざると繊維が締まる。強度も、編みの精度も上がる」


 草原繊維ゴーレムたちの身体が、淡い緑から、少し深みのある『草布色』へと変わっていく。


 まるで、『職人としての腕前が上がった』とでも言いたげに。


 そして、それは真実だ。

 レベルが上がった時に得られる追加ポイントを『知性』と『器用』に振っている。

 ものを考え、精密に動ける存在へと変わっていく。


 クアルトは満足げに息を吐いた。


「よし。これで次は……歪まない家が作れる」


 アンナは笑った。


「歪んでても可愛いですけどね」


「まぁね。でも、せっかくだから最高の家を作ろう」


 ボアウルが低く鳴き、その巨大な身体を揺らして応えた。


 まるで、『次の建築も任せろ』と言っているようだった。



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