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『時代遅れスキル『ゴーレム制作』専門の男爵家四男が、転生者の知識でそこそこ頑張るはずが、なぜか王弟に目をつけられてしまう話』  作者: 葉月奈津・男
第二部、『帰路』

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第71話 『麻の街』 

2/2

 


 森を抜けると、遠くに街の灯りが見え始める。

 小さな光が点々と並び、まるで星が地上に降りてきたようだ。

 風が冷たくなり、夜の匂いが濃くなる。


 クアルトは馬車の横を歩きながら、静かに息を吐いた。


「……今夜は、ちゃんと休めそうだね」

 真鍮の騎士が無言で頷き、石の馬が淡く光を返す。


 木の馬車が軋み、ウッドホースが歩調を合わせ、ピッカウが草の足跡を残す。

 素材も形も違うゴーレムたちが、ひとつの隊列として夜道を進む。


 ◆


 街の門が近づくにつれ、妙なざわつきが耳に届いた。

 門番が二人、松明を掲げてこちらを凝視している。


 その後ろには、住民らしき人影が数人。

 旅人が何かをまくし立てているのが見えた。


「……あれだ! ほら、言っただろ! 白い馬と金の騎士だって!」

 門番の一人が息を呑む。


「……本当に来たのかよ……」

 もう一人は腰の剣に手をかけたまま固まっている。


 敵意というより、ただの“理解不能”による硬直だ。

 白い大理石の馬が月光を反射し、真鍮の騎士が静かに歩を進める。


 その後ろに、象牙色の石馬車、焦げ茶の木馬車、草の獣。

 門番は思わず道を開けた。


 だが、その目はキチンと馬車に掲げた旗――

 メリマルゴール男爵家の家紋を確認していた。


「……通って、いいの?」

『オレ』が声をかけると、門番は慌てて頭を下げた。


「ど、どうぞ! どうぞお通りください!」


 ◆


 新しい馬車隊は、今夜の宿をとる街へ向かっていく。

 宿に到着したクアルトたちは、空いていた大人数用の部屋を借りてすぐに休んだ。


 アンナなどはまだまだ元気だが、クアルトの手前遠慮した結果だ。

 クアルトがいなければ、夜の街に繰り出しても不思議ではないのだけど。


 セティはいつ以来かもわからない爆睡を堪能した。

 以前は鉱山内の『隠れ里』。

 王都に来てからは母の看護。

 熟睡とは程遠かったのだ。


 イーアンとアーネストは、二人でどこかへ消えていた。

 どこかで、一杯ひっかけたのは間違いないだろう。

 レーデルフィーヌは、アンナと交代で見張りをしていた。

 そんな必要はないだろうと思いながら、そこは『騎士』の習性に準じている。     ◇


 ◇


 朝、日が昇り始めると同時に、町はこの町ならではの音と匂いに包まれた。


 トントン、カタン……トン、カタタッ。

 町中の織機が一斉に動き出す。

 その音は、まるで朝の合奏だった。


 遠くの工房からは、糸を梳くブラシが擦れるサササッという音も混じり、

 この町の朝は『麻の音』で満ちていく。


 風に乗って漂ってくるのは、乾いた草の香りと、ほんのりとした土の匂い。

 麻を干したときに立つ、あの独特の『青くて乾いた匂い』だ。


 朝露で少し湿った麻の茎の香り。

 乾燥小屋から流れてくる温かい草の匂い。

 麻油を使う工房から漂う、微かに甘い植物油の香り。


 それらが混ざり合い、この町だけの『麻の朝の匂い』を作り出している。

 鼻に抜ける香りは爽やかで、どこか懐かしいような、落ち着くような感覚を残した。


 宿の前で、ウッドホースたちが木の身体を軋ませながら立ち上がり、マーブルホースの内部では青白い光がゆっくりと脈動する。

 真鍮の騎士は無言で空を見上げ、ピッカウは草の身体を揺らしながら、漂ってくる麻の匂いを『ふんわり』吸い込んでいるように見えた。


 アンナは窓から顔を出し、町の音に耳を傾けながら小さく笑う。


「……この町、朝からにぎやかですね」

 クアルトは軽く頷いた。


「麻の町だからね。朝が来たら、織機が動き出すのが合図なんだよ」

 町全体が、麻の音と匂いで目を覚ます。

 そんな朝の中、クアルトたちの新しい一日が始まる。


「他にルートはいくつかあるのに、あえて少し遠回りな道を選ばれたのはそれが理由ですか?」

 アンナが問うと、クアルトは軽く頷いた。


「そうだよ。『パスチャーゴーレム』は牧草だ。生きた馬を連れているわけでもない身としては、ただ歩かせているだけじゃ、素材としての価値が薄い」

 淡々とした口調なのに、その奥に“技術者の期待”が滲む。


「この町は麻織物が盛んだからね。麻の繊維は強い。草よりも、木よりも、ずっとね。もし牧草と麻を融合できれば……『草原繊維』みたいな、別のゴーレム素材に進化するかもしれない」

 アンナは目を瞬かせた。


「……つまり、ピッカウを進化させるつもりなんですね」

「うん。牧草は弱いけど、混ぜれば化ける。壊されても、歩かせても、ただの草のままじゃもったいない。せっかく麻の町に来たんだ。廃材でも手に入れば、試してみたいと思ってね」

 アンナは小さく笑った。


「なるほど……だから遠回りでも、この町を経由したんですね」

 クアルトは肩をすくめる。


「素材のためなら、多少の寄り道は安いものだよ」

『オレ』の声には、抑えきれない期待が滲んでいた。

『僕』もワクワクして頷きまくっている。


 自分とゴーレムのレベルが上がれば、できることが増える。

 可能性がありそうなことは何でもする覚悟だった。


 その後ろで、のそのそ歩くピッカウが、まるで自分の名前が出たのを理解したかのように、草の身体をふるりと揺らした。

 アンナはその様子を見て、「進化、楽しみですね」と小声でつぶやく。


「セティは「草のゴーレム?」と呟き、

 まるで新しいお菓子の名前を聞いた子供のように首を傾げた。セティは首を傾げている。


「いろいろあったほうが楽しいよ」

 クアルトは、ほんの少しだけ口元を緩めた。



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