第70話 『再編成』
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先頭を進むのは、真っ白な『大理石レンガ』の馬に騎乗する『真鍮の騎士』だ。
その馬は、天然石の白さとは違う。
表面は均一に磨かれたような光沢を帯び、継ぎ目の一つひとつが月光を細かく反射して、まるで“白い灯火”が走っているように見える。
真鍮の騎士の装甲は、ただ金色に輝いているわけではない。
銅の赤みと亜鉛の白さが内部でゆっくりと混ざり合い、“呼吸する金属”のように淡い光を脈動させていた。
大理石の白と真鍮の金が並ぶと、隊列の先頭だけで一枚の絵になる。
その後ろを進むのは、象牙色の体に紫灰色の結晶筋が走る『リクリスタライズ・マーブルゴーレム』だ。
人工大理石の体は、天然石のような“偶然の模様”を持たない代わりに、結晶筋が“石の血管”のように脈動し、内部の魔力光が液体のように流れている。
月光を受けるたび、胸部の奥で青白い光が波打ち、まるで“夜を照らす灯火”が石の中に閉じ込められているようだった。
曳いている馬車は『合成大理石』。
屋根はつけず、白い荷台が静かに軋む。
ゴーレムの進化で目減りした素材を積み直してあるが、白い石の箱は、荷物を積んでいるだけなのにどこか神殿の祭具のような雰囲気すらあった。
その後ろには、倒木から新たに生み出した『ウッドゴーレム』の馬車が続く。
深い焦げ茶の木肌は夜の闇に溶け込み、車輪が回るたび、木の繊維が擦れ合う柔らかい音が森に低く響いた。
木馬の関節は、無数の木繊維が縄のように撚り合わされており、曲げるたびに“きしり”と温かい音を立てる。
実はこの車体、一体のゴーレムではない。
車体と四つの車輪、それぞれが独立したゴーレムだ。
車体ゴーレムが車軸との間で揺れを調整し、サブミッションの役割を果たす。
車輪は路面に合わせて回転速度を変え、わずかな縦揺れで凹凸を吸収する。
独立稼働の利点を最大限に生かした構造だ。
これを四頭の『木馬』が曳いている。
車輪の回転だけでは不足する推進力を補う形で、木馬が前へと力強く歩を進める。
そして最後尾には、出番のなかったパスチャーゴーレムのピッカウ。
放置されていた段ボールの荷台とフエルトの山ともども一団に復帰し、草の体を揺らしながら、のそのそと隊列に従って歩く。
石・金属・木と続いた後に草の柔らかい音が混ざると、隊列全体の“素材の違い”がより際立った。
レンガと真鍮の騎兵が10。
大理石の荷馬車が10。
木製の馬車が1。
牧草と段ボールの荷馬車が10。
こうして、一団は再編された。
ストーンとロックは、お役御免だ。
作ってもいいが、見た目の数が多いだけで効果は薄い。
町に入るときの偽装用に、御者台に灰色の『石』ゴーレムを置くくらいだろう。
木製馬車に乗るのはクアルトとセティ、そしてアンナとアーネスト。
御者席にはイーアンとレーデルフィーヌが座っている。
座っているだけだ。
交代制にする案もあったが、本人たちの強い希望でこの形に落ち着いた。
自分の乗っているモノがどこに進んでいるかわからないのがストレスになるらしい。
『家系スキル』の弊害だろう。
坑道では周囲の状況を網羅できる彼が、外の広い世界に出ている。
狭所恐怖症の逆で、広すぎる世界が不安なのかもしれない。
レーデルフィーヌも似たようなものだ。
護衛という役割上、周囲が気になるのは当然。
つい先刻、実際に襲撃があった後でもある。
車内にじっとしてはいられない。
なので、この形で定まった。
ちなみに、馬車のコントロールはクアルトがしている。
『折り鶴』で進路を確認し、確認済みのルートをなぞるようにゴーレムを進ませている。
『座っているだけ』というのはそういうことだ。
ある意味、一番働いているのはクアルトだったりする。
もちろん、イーアンとレーデルフィーヌのために御者席にも日よけをつけた。
車内にいるのと大差ないくらいには快適なはずだ。
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「……ねぇ、馬車ってこんな静かだった?」
しばらく走ったところで、セティが首を傾げた。
「見た目は馬車でも、中身は『ゴーレム』だからね」
『オレ』は静かに答えた。
疲れてしまったのか、『僕』は寝てしまっている。
「なにが違うの?」
「あー……」
どう説明すればいい?
「普通の馬車は馬に曳かせて動かす。これだと、道に凹凸があると車体が跳ねる」
「ふむふむ?」
「だけど、ゴーレムはそれ自体が動く――四つある車輪がそれぞれ個別に動いてるから、跳ねないように調整が効くんだ」
自立駆動の良さを説明したつもりだが……合っているか?
ちょっと不安になる。
「ふーん」
気のない返事が来た。
説明を聞いても理解できなかったが、そこからさらに聞くほどの興味もない。
そんなところだろう。
「すごいってことね」
セティは、よくわかっていないくせに胸を張って頷いた。
「うん。それ!」
説明から解放されるなら、とりあえず何でもいい。
そこがわかっていれば問題ない。
◇旅人◇
森の陰から、道を歩いていた旅人がぽかんと口を開けた。
最初に見えたのは、月光を反射する白い馬。
次に、金色の騎士。
その後ろに、石の馬車、木の馬車、草の獣。
「……なんだ、あれ……?」
旅人は思わず足を止めた。
馬の蹄の音もしない。
車輪の軋みもほとんどない。
ただ、白と金と象牙色の光が、静かに森を進んでいく。
「……夢でも見てるのか?」
誰に聞かせるでもなく呟き、旅人は道の端に避けた。
そのまま、しばらく呆然と見送ったが——
「……いや、あれは……町に知らせたほうがいいな」
背筋に冷たいものが走り、旅人は踵を返した。
足早に、町へ引き返していく。




