第69話 『新スキル』
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「むしろ砕かれたほうが、再制作するときには強くなるんだよね」
思わず独り言が漏れた。
天然石よりも、人工的に焼き固めて作る石材のほうが、密度も強度も自在に調整できる。
壊されれば壊されるほど、次に作るときの『材料』としては優秀になる。
(経験値も素材も、全部こっちの利益だ)
逃走前に仕込んでおいた手のひらサイズの小型ゴーレムを取り出す。
表面の魔紋が淡く脈動し、蓄積された経験値が内部で静かに渦を巻いている。
「……よし。ちゃんと保持してる」
小さな身体の中に、倒れた仲間たちの戦闘経験が集約されている。
何度となくレベルアップした上で、だ。
壊されたゴーレムたちの残骸を見渡しながら、『オレ』は静かに息を吐いた。
「……素材は十分。あとは、こっちの問題だね」
手のひらサイズの小型ゴーレムが、内部で経験値を脈動させている。
その光が、以前よりも濃く、重い。
これを、どう生かすか――
(レベルが上がったのは、こいつだけじゃない)
『オレ』の指先に意識を集中させる。
以前なら、鉱山の壁から素材を『抽出』するだけで精一杯だった。
だが今は——
「……『融合』」
クアルト自身のレベルが上がったことで得られた『新スキル』だ。
銅片と亜鉛片が、まるで呼吸を合わせるように震え、淡い金色の光を帯び始める。
金属同士が溶け合い、境界が消え、合金を作っていく。
銅と亜鉛が、『真鍮』へと変わっていく。
(できる。ちゃんと『混ざって』くれる)
『オレ』は静かに頷いた。
素材が一体化した瞬間、魔力の流れが滑らかになり、内部構造が自然に組み上がっていく。
「じゃあ、形を……」
真鍮の塊が伸び、縮み、人型の輪郭を描き始める。
身長は一六〇センチほど。
小柄だが、関節はしなやかで、銅の粘りと亜鉛の軽さが絶妙に混ざり合っている。
胸部の魔核が淡く脈動し、新しい生命が宿る。
【『ブラスゴーレム』の制作に成功しました。】
『汝騎士団形成』。
騎士団という概念を刻み込む。
クアルトの命令で、それぞれの役割を果たす存在とする。
「……ブラスゴーレム、完成」
金色の光沢を帯びたゴーレムが、静かに膝をついて頭を垂れた。
亜鉛の脆さを、銅の粘りが支える。
双方の特性により、劣化への抵抗値が上がる。
結果として耐久度が高まっている。
「金属は、今後どんどん強くできる」
確信した。
炉に入れての融解を経ることなく『合金』が作れるのだ。
できることの幅は格段に広がる。
「は? ……なにこれ、こわ……いや、すご……」
「?!」
頭上で声がして驚かされた。
何のことはない。
セティがすぐ後ろまで来ていたのだ。
身長差があるせいで頭上に感じただけだ。
「あんた、こんな風に『アレ』作ってたんだ?」
「そうだよ?」
どうやって作っていたと思っていたのだろうか?
部品から作って組み立てとか?
もしそうなら、この一団作るのに何か月かかるか……。
「めちゃくちゃね」
「そうかもね」
作った個体は『弱い』から絶対に『チート』とはならない。
だけど、便利なのは確かだし、進化を続けていけば——
あるいは?
「次行くから、離れてて」
「ぶ―!」
同じように『石』もランクを上げる。
素材は揃っている。
あとは、結晶を組み直すだけだ。
指先に魔力を集める。
素材同士を『融合』させ、組み直す。
金属では溶かして混ぜるだけだった。
しかし、『石』系列はそれだけでは終わらない。
新しい結晶構造を作り出す必要がある。
「『再結晶化』」
その一言とともに、砕けた石片たちが淡く光り、粒子レベルでほどけていく。
石灰岩の柔らかさ、大理石の緻密さ、ロックの粘り、ストーンの素直な構造、そこらの石の不純物までもが、魔力の流れに沿って再配置される。
粒子が混ざり、結晶が伸び、境界が消え、新しい『人工マーブル』が生まれていく。
天然よりも密度が高く、魔力の通りが滑らかで、衝撃にも強い。
【『リクリスタライズ・マーブルゴーレム』の構築に成功しました。】
『合成大理石』。
天然ではありえなかった、均一な組成構造の大理石だ。
しっかりと構造が組み直され、滑らかだ。
光沢も高い。
惜しむべきは、天然ならではの『誰の意図も含まない模様』がなくなることだろうか。
均一の模様で良しとするか、こだわってあえて不揃いな模様をつけるか。
そういう話になる。
同じ要領で、レンガにも大理石を混ぜる。
これにより、軽量化して強度も増した『マーブルブリックゴーレム』へと進化できた。
白くきれいな表面。
中身が多孔質になって熱への抵抗値が上がる。
組成が均一化して強度も増したわけだ。
「……さて。これで“隊列”を組み直せる」
『オレ』は静かに笑った。
『僕』は、できあがったゴーレムの周りをぐるぐる回って、
ときどき「おお……」と感嘆の声を漏らしている。
まぁ、いいだろう。
動き回られても、『オレ』の作業に影響は出ない。




