表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『時代遅れスキル『ゴーレム制作』専門の男爵家四男が、転生者の知識でそこそこ頑張るはずが、なぜか王弟に目をつけられてしまう話』  作者: 葉月奈津・男
第二部、『帰路』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
67/125

第67話 『おもちゃの兵隊』

2/2

 


「全体停止。イーアン、レーデルフィーヌ。こっちに」

「お、おう」

「で、ですがっ…‥はい」

 御者席に座っていたイーアンとレーデルフィーヌを呼び寄せる。


 クアルトの声で、行列がぴたりと止まった。

 イーアンが急いでこちらへ来る。

 レーデルフィーヌは周囲に目を走らせながら、ゆっくりと。


「逃げるのか? 戦うのか?」

 一応という感じに、イーアンがナイフを取り出している。


 町中を歩くのでもなければ、武器の所持は当然なのが。この世界だ。

 一般人でも、10歳程度の子供でも、だ。


 過去が過去だし、多分イーアンも見た目以上に戦えるのだろうと思う。

 『新しい左手』もあるし。


 レーデルフィーヌに至っては言うまでもない。

 このためについてきたとばかりに剣の柄を握っている。


 だけど――


「戦いはしないよ。さっさと逃げる」

 はっきりと告げた。

 戦う意味がない。


 その間に、歩兵たちが整然と壁を作る。

 中でも素材と武装の両面から、まさに『防壁』の『ブリックゴーレム』が頼もしい。

 代わりに騎士型のジンクゴーレムは、後方へ下がらせる。


 ほぼ同時に、茂みから『野盗』が飛び出した。

 鋼の剣を構え、一直線に突っ込んでくる。


 ストーンゴーレムが最初に受け止めた。

 見るからに防御特化の『ブリックゴーレム』は躱された形だ。


 ガンッ!


 石の腕が衝撃に耐えられず、継ぎ目から粉を散らして砕けた。

 二撃目で肩が割れ、石片が地面に散る。


「石像かよ! 脆ぇな!」


 別のストーンゴーレムも足を払われ、倒れた衝撃で腰がひび割れ、粉を吹きながら崩れた。


 ロックゴーレムも同じだ。

 鋼の剣を受けた瞬間、表面が欠け、膝が砕けてその場に沈む。


 次に銅の馬が狙われた。


 剣が脚に当たると、

 銅の表面がえぐれ、火花が散る。


「金属馬かよ! でも柔けぇ!」


 二撃目で脚がぐしゃりとへこみ、

 三撃目で関節が潰れて横倒しになった。


 御者席のライムストーンゴーレムは、肩を斬られた瞬間に白い粉を吹き上げて砕け落ちた。


 胸を蹴られれば、板ガラスのように割れて破片がぱらぱらと落ちる。


 馬車の前方は、砕けた石、曲がった銅、折れた亜鉛が散乱し、まるで壊れた玩具の山のようだった。



「どうしますか?  勢いで私たちまで斬られると困りますが」


 アンナがのんびりとした声で言う。

 逃げるとして、『どうやって?』ということだ。

 あまりに緊迫感のない態度で、レーデルフィーヌが目を丸くしている。


『オレ』は即座に判断した。


「騎士団を投入。ただし半分は馬を降りてもらおう。空いた馬で逃げる」


 偽装野盗たちは完全に調子に乗っている。

 今なら、こちらを『子供と玩具の行列』としか見ていない。


 最初は避けた『ブリックゴーレム』にも斬りかかっていた。

 大盾は立派だが、これもレンガには違いない。

 鋼鉄の剣の前では成す術なく割られていく。


 ジンクの騎士五体が馬を降り、前へ進む。

 残された馬にクアルトたちが跨った。


 馬を走らせ、距離が開いたところで振り返ると、ジンクゴーレムたちが奮闘むなしく蹴散らされていた。


 鋼の剣を受けた瞬間、胸板がへこみ、兜が歪む。

 避けようと身をひねった腕は、逆に継ぎ目に負荷がかかり、金属疲労で折れた。


「鎧の案山子かよ!」


 敵の嘲笑が響く。

 ジンクゴーレムたちはそれでも前に出ていく。

 盾となり、剣を振るい、敵の注意を引きつけ続けた。


 だが、鋼の剣を相手にするにはあまりにも分が悪い。

 押し倒され、踏みつけられ、金属音を響かせて崩れて

 敵は笑い続けている。


 その光景を見届けてから、『オレ』は馬上で静かに笑った。


(……完璧に『弱い』と思われた。これでいい)


「くく、くくく」


『ロック』の冷たい馬体の上で、

『オレ』は込み上がる笑いをどうしても抑えきれなかった。


 実戦を経験したことで、前線に出したゴーレムたちは軒並み爆発的に経験値を積んでいる。


 全種類。

 最初の一体が押し負けた瞬間、手のひらサイズのゴーレムを再制作して隠しておいた。

 倒された仲間の経験値は、その小さなゴーレムに集約され続けている。

 敵が『弱い玩具』だと笑っている間にも、裏ではレベルアップが止まらない。


 ……ウハウハだ。

 こんな美味しい展開、滅多にない。


『オレ』は馬上で肩を震わせた。


 ◇


 クアルトたちが馬で逃走を始めた直後。

 偽装野盗団は、追撃のために隊列を整え直していた。


「逃がすな! あのガキを捕まえろ!」


 その瞬間——

 街道の向こうから、

 重装備の女剣士と

 ローブ姿の女魔導士が歩いてきた。


 二人は、まるで散歩の延長のような足取りで、

 偽装野盗の前に立ちふさがる。


「……盗賊? 邪魔なんだけど」

 女剣士が肩を回す。


「なんだテメェら! 邪魔すんな!」


 女魔導士はため息をついた。


「……威嚇だけで十分でしょう」


 指先を軽く振る。


 次の瞬間、

 青白い魔力の奔流が地面をえぐり、偽装野盗の足元で爆ぜた。


 ドンッ!


 土煙が上がり、野盗たちは尻もちをつく。


「ひっ……!」

「な、なんだよ今の……!」


 女剣士は剣を抜きもせず、

 ただ一歩前に出る。


「次は当たるかもよ」

 その一言で、偽装野盗たちは顔を青くした。


「……目的は果たせた。撤退だ!」

 蜘蛛の子を散らすように逃げていく。


 女魔導士は土煙を見送りながら、「人間は……弱いですね」とだけ呟いた。

 女剣士は首を振って嘆息する。


「で、人を呼びつけておいて、アイツはどこにいるんだ?」

「もっと先にいるのよ。急ぎましょう」

「たく、もう二度と会うことはないとか言ってたのに」

「…うれしいくせに」


 二人は、クアルトたちに関心を持つことなく、何事もなかったかのように旅路へ戻っていく。

 現場に血の匂いはなく、『壊させるために配置した』ような『モノ』が散乱しているだけだったから。


 こうして、目的の『人物』と彼女たちは合流するのだが……。

『用は済んだ』と、高齢キャンパーに言われて暴れることになる。


 ◇


「……ああ、用は済んだ。帰れ」

 高齢キャンパー――執事長にして影の長老――は、

 女剣士と女魔導士を手で追い払うように言った。


「はぁ!? あたしたち、命張るつもりで来たんだけど!?」

「まったく……呼びつけておいてそれですか」

 二人は同時に噛みついたが、老人は鼻で笑って杖をついた。


「クアルト様の裏の護衛は、わしらの仕事じゃ。お前らは“予備”じゃよ、予備」


「予備!?」

「予備って言ったわね!?」


「ひょっ、ひょっ、ひょ」

 襟元を掴まれ、ガクンガクン揺さぶられながら、

 クアルト色のキャンピングウェアの老人は笑い続けていた。



 ……その頃、当のクアルトは、

 自分の“裏の護衛”がこんな騒ぎになっているとは露ほども知らず、

 のんきに馬を走らせていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ