第66話 『野盗』
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馬車の一団が北東へと向かっている。
貧民街から出る際、段ボールで荷台を作って、ピッカウに曳かせている。
荷台に乗せたのはフエルトのロールを詰めるだけ。
それと、『カードボードゴーレム』の兵士も一体ずつ乗せた。
この一団で、メリマルゴールド領への帰還の途についている。
下手に人に集まられても困るので、挨拶もなく旅立った。
予定としては、馬車なら十日で帰り着けるはずだ。
馬車は先頭の一台だけが『人』が乗る。
他は、荷物が満載だ。
『銅』に『亜鉛』、『大理石』。
持ち出せるだけ持ち出した素材たち。
今後も必要になるに違いない。
クアルト――『オレ』—-はそう感じていた。
王都へ呼び出された、その時から——
「王都が、もうあんなに小さいよ!」
『僕』がはしゃいでいる裏で、『オレ』は緊張していた。
(……来る。絶対に来る)
王都を出るときから、
『オレ』はずっと胸の奥がざわついていた。
この行列は、目立つ。
いや、目立たせている。
『僕』はただ楽しくてやっているが、
『オレ』には別の意図があった。
敵を炙り出すための餌。
油断を誘うための陽動。
そして、ゴーレムの実地テスト。
王弟と接触したことを疑っている者がいる。
代官捕縛の裏に、何かあると考えている者もいる。
貧民街での動きも見張られていたに違いない。
そういう連中は、必ず『探り』を入れてくる。
(……問題は、どのタイミングで来るかだ)
野盗のふりをした刺客か。
ただの偵察か。
あるいは、もっと面倒な連中か。
『オレ』は、馬車の揺れに合わせて視線を巡らせた。
馬車十台のうち、『人』が乗るのは一台だけ。
御者台にイーアンとレーデルフィーヌが座り、車内ではクアルトが進行方向を向いて座り、その向かいにアンナとアーネストが座っている。
前方の銅の馬車。
左右を固める亜鉛の騎士。
後方についてくるピッカウ。
そして、周囲の森。
(……来るなら、森の中だな)
『僕』は窓から顔を出して、
「わー! 馬がいっぱい!」と笑っている。
監視している者がいるなら、年相応な『子供』が見えているはずだ。
警戒するまでもないと引いてくれるか、それでも一応は当たりに来るか。
待ちの時間だ。
もっとも、相手が出てくるのをただ待つ必要はない。
『ペーパーゴーレム』が既に展開中だ。
いつもの『折り鶴』が、偵察ドローンとして前後左右とその中間、八方向で監視をしている。
前方の四つは先行して敵の待ち伏せを警戒しているし、後方は接近してくるものがないかと見張っているのだ。
折り鶴たちは、風に乗るようにふわりと舞いながら、
しかし“生き物ではありえない”規則正しい軌道で空を巡っていた。
一羽は高く。
一羽は低く。
一羽は森の影をかすめ、
一羽は街道の上空を滑るように進む。
紙でできた小さな体は、光を受けると白く反射し、遠目には空に溶け込んで見えはしない。
だが、その視界はクアルトの意識に繋がっている。
頭の中にマルチウィンドウがあり、並列で監視が可能だった。
(……異常なし。 でも、油断はできない)
『オレ』は折り鶴たちの視界を切り替えながら、
まるでモニタールームの警備員のように、周囲を把握していた。
◇
折り鶴の視界に、
街道脇の茂みが不自然に揺れるのが映った。
(……来たな)
『オレ』が視界を切り替えると、
そこには『野盗』らしき一団が潜んでいた。
ボロ布をまとい、泥を塗り、髪を乱し、いかにも『野趣あふれる』格好。
だが——
(剣が揃いすぎだ)
全員が、同じ鍛冶場で打たれたとしか思えない同型の剣を腰に下げていた。
刃の反り、鍔の形、鞘の装飾、金属の質感。
どれも『野盗』が持つには不自然すぎる。
アーネストも、馬車の外を見て静かに呟いた。
「……貴族の騎士団ですね。装備の統一感が隠しきれていません」
アンナも、震える声で続けた。
「服装は……野盗っぽいのに……剣だけ、妙に綺麗……」
吹き出すのを懸命にこらえている。
下手すぎるからだろう。
『オレ』は冷静に分析を続けた。
(なるほど。素性を隠したつもりなんだろうが……雑だな)
『僕』は窓から顔を出して、「わー! なんか人がいるー!」と手を振っている。
その無邪気さが、逆に敵の油断を誘う。
(……いいぞ。そのまま『子供』でいてくれ)
(りょうかーい)
おっと。
気づかれてたか。
妙にテンション高いとは思ってたけど…演技か。
さすが、『クアルト』だ。
折り鶴の視界が、敵の動きをさらに映し出す。
位置取りは訓練されている
合図の手振りが統一されている
足音を消す動きが“素人ではない”
だが、偽装の雑さで台無し
(……どうみても、騎士団だよな)
『オレ』は静かに息を吐いた。
(さて。 どう料理してやろうか)
『オレ』は、馬車の中で穏やかに微笑んでいた。
『僕』は、頃合いと見て引っ込んだ。
「これ、盗賊の振りする気ないよね?」
「遠目に見られた時のための偽装でしかないですね」
『オレ』の呟きに、アンナが淡々と答える。
当たり前のように。
――遠目に。
つまり、街道を行く旅人や商隊に『野盗が潜んでいる』と誤認させるためのカモフラージュ。
逆に言えば――
「皆殺しのつもりかな? それとも舐め切られてる?」
「後のほうでしょうね。皆殺しのつもりなら、陣形がおざなりです」
アンナの声は落ち着いていた。
その冷静さが、逆に状況の異様さを際立たせる。
つまり、騎士団だと見抜かれるとは思っていないってことだ。
子供とおもちゃの兵隊が行進しているとしか見られていない。
——好都合だ。




