表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『時代遅れスキル『ゴーレム制作』専門の男爵家四男が、転生者の知識でそこそこ頑張るはずが、なぜか王弟に目をつけられてしまう話』  作者: 葉月奈津・男
第二部、『帰路』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
66/130

第66話 『野盗』

1/2

 


 馬車の一団が北東へと向かっている。

 貧民街から出る際、段ボールで荷台を作って、ピッカウに曳かせている。


 荷台に乗せたのはフエルトのロールを詰めるだけ。

 それと、『カードボードゴーレム』の兵士も一体ずつ乗せた。


 この一団で、メリマルゴールド領への帰還の途についている。

 下手に人に集まられても困るので、挨拶もなく旅立った。

 予定としては、馬車なら十日で帰り着けるはずだ。


 馬車は先頭の一台だけが『人』が乗る。

 他は、荷物が満載だ。


『銅』に『亜鉛』、『大理石』。

 持ち出せるだけ持ち出した素材たち。

 今後も必要になるに違いない。


 クアルト――『オレ』—-はそう感じていた。

 王都へ呼び出された、その時から——


「王都が、もうあんなに小さいよ!」

『僕』がはしゃいでいる裏で、『オレ』は緊張していた。


(……来る。絶対に来る)


 王都を出るときから、

『オレ』はずっと胸の奥がざわついていた。


 この行列は、目立つ。

 いや、目立たせている。


『僕』はただ楽しくてやっているが、

『オレ』には別の意図があった。


 敵を炙り出すための餌。

 油断を誘うための陽動。

 そして、ゴーレムの実地テスト。


 王弟と接触したことを疑っている者がいる。

 代官捕縛の裏に、何かあると考えている者もいる。

 貧民街での動きも見張られていたに違いない。

 そういう連中は、必ず『探り』を入れてくる。


(……問題は、どのタイミングで来るかだ)


 野盗のふりをした刺客か。

 ただの偵察か。

 あるいは、もっと面倒な連中か。


『オレ』は、馬車の揺れに合わせて視線を巡らせた。


 馬車十台のうち、『人』が乗るのは一台だけ。

 御者台にイーアンとレーデルフィーヌが座り、車内ではクアルトが進行方向を向いて座り、その向かいにアンナとアーネストが座っている。


 前方の銅の馬車。

 左右を固める亜鉛の騎士。

 後方についてくるピッカウ。

 そして、周囲の森。


(……来るなら、森の中だな)


『僕』は窓から顔を出して、

「わー! 馬がいっぱい!」と笑っている。

 監視している者がいるなら、年相応な『子供』が見えているはずだ。


 警戒するまでもないと引いてくれるか、それでも一応は当たりに来るか。

 待ちの時間だ。


 もっとも、相手が出てくるのをただ待つ必要はない。

『ペーパーゴーレム』が既に展開中だ。


 いつもの『折り鶴』が、偵察ドローンとして前後左右とその中間、八方向で監視をしている。

 前方の四つは先行して敵の待ち伏せを警戒しているし、後方は接近してくるものがないかと見張っているのだ。


 折り鶴たちは、風に乗るようにふわりと舞いながら、

 しかし“生き物ではありえない”規則正しい軌道で空を巡っていた。


 一羽は高く。

 一羽は低く。

 一羽は森の影をかすめ、

 一羽は街道の上空を滑るように進む。


 紙でできた小さな体は、光を受けると白く反射し、遠目には空に溶け込んで見えはしない。

 だが、その視界はクアルトの意識に繋がっている。

 頭の中にマルチウィンドウがあり、並列で監視が可能だった。


(……異常なし。 でも、油断はできない)


『オレ』は折り鶴たちの視界を切り替えながら、

 まるでモニタールームの警備員のように、周囲を把握していた。


 ◇


 折り鶴の視界に、

 街道脇の茂みが不自然に揺れるのが映った。


(……来たな)


『オレ』が視界を切り替えると、

 そこには『野盗』らしき一団が潜んでいた。


 ボロ布をまとい、泥を塗り、髪を乱し、いかにも『野趣あふれる』格好。


 だが——


(剣が揃いすぎだ)


 全員が、同じ鍛冶場で打たれたとしか思えない同型の剣を腰に下げていた。


 刃の反り、鍔の形、鞘の装飾、金属の質感。


 どれも『野盗』が持つには不自然すぎる。


 アーネストも、馬車の外を見て静かに呟いた。


「……貴族の騎士団ですね。装備の統一感が隠しきれていません」


 アンナも、震える声で続けた。


「服装は……野盗っぽいのに……剣だけ、妙に綺麗……」

 吹き出すのを懸命にこらえている。

 下手すぎるからだろう。


『オレ』は冷静に分析を続けた。


(なるほど。素性を隠したつもりなんだろうが……雑だな)


『僕』は窓から顔を出して、「わー! なんか人がいるー!」と手を振っている。

 その無邪気さが、逆に敵の油断を誘う。


(……いいぞ。そのまま『子供』でいてくれ)

(りょうかーい)


 おっと。

 気づかれてたか。


 妙にテンション高いとは思ってたけど…演技か。

 さすが、『クアルト』だ。


 折り鶴の視界が、敵の動きをさらに映し出す。


 位置取りは訓練されている


 合図の手振りが統一されている


 足音を消す動きが“素人ではない”


 だが、偽装の雑さで台無し


(……どうみても、騎士団だよな)


『オレ』は静かに息を吐いた。


(さて。 どう料理してやろうか)


『オレ』は、馬車の中で穏やかに微笑んでいた。

『僕』は、頃合いと見て引っ込んだ。


「これ、盗賊の振りする気ないよね?」


「遠目に見られた時のための偽装でしかないですね」

『オレ』の呟きに、アンナが淡々と答える。

 当たり前のように。


 ――遠目に。

 つまり、街道を行く旅人や商隊に『野盗が潜んでいる』と誤認させるためのカモフラージュ。


 逆に言えば――


「皆殺しのつもりかな? それとも舐め切られてる?」


「後のほうでしょうね。皆殺しのつもりなら、陣形がおざなりです」


 アンナの声は落ち着いていた。

 その冷静さが、逆に状況の異様さを際立たせる。

 つまり、騎士団だと見抜かれるとは思っていないってことだ。


 子供とおもちゃの兵隊が行進しているとしか見られていない。

 ——好都合だ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ