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『時代遅れスキル『ゴーレム制作』専門の男爵家四男が、転生者の知識でそこそこ頑張るはずが、なぜか王弟に目をつけられてしまう話』  作者: 葉月奈津・男
第二部、『帰路』

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第65話 『出立』

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「そんなわけで、用意しました!」

 王都の外。

 貧民街で、クアルトはくるりと回って両腕を伸ばしてみせる。


 こちらです!

 クアルト――『僕』――は会心の笑みを浮かべている。

 車のお披露目をするようなアクションだ。


 指し示されたのは事実、『車』だった。

 馬車と歩兵、そして騎士たち。

 貴族の移動に必要な体裁が整っている。


 どこか金属光沢のある『赤銅色』の美しい車体が、日の光の下で映えている。

 曳いているのは『灰色』の立派な馬が二頭ずつだ。


 その周囲には、似た色の馬に跨った、全身鎧の騎士たちが10人いる。

 荷物用か人員用か、二頭立ての馬車も10台。

 なぜか、家畜が10頭。


「は?」

 レーデルフィーヌがぽかんとした。


 高位貴族ですら所有している者は多くないだろうとなるぐらい立派な馬車と騎士だったからだ。だが――


「も、もしかして…?」

 いや、それしかないですよね?

 そろーっと、視線がクアルトへ向けられた。


「ゴーレム、では?」

「正解!」

 クアルトが嬉しそうに拍手した瞬間、レーデルフィーヌの思考が一瞬止まった。


「え―っと……」

 こめかみに手を当ててうつむいてしまう。


 顔が引きつっていた。

 けれど、もう慣れてきている自分がいるのが、さらに怖い。


「……あの……クアルト様。これは……その……“全部”ですか?」

「うん! 全部!」

 即答。

 レーデルフィーヌは、静かにこめかみを揉み始めた。。


 ……全部……全部ゴーレム……。

 馬も……騎士も……家畜まで……。


 視界の端で、ジンクゴーレムの騎士が“カキン”と金属音を立てて敬礼している。


 馬車の車体は『カッパーゴーレム』。

 馬車を曳いている馬は、『マーブルゴーレム』と『ライムストーンゴーレム』。

 騎士は『ロックゴーレム』の馬と、『ジンクゴーレム』の兵士。

 馬車の御者は『ストーンゴーレム』。

 馬車の後ろに並んでいる家畜――ピッカウ――は『パスチャーゴーレム』。

 すべてが、ゴーレムだ。


 子爵家が迎えに来るまでに作っておいて、王都に向かわせておいたものだ。

 もちろん、ゴーレムだけで王都へは入れないのでイーアンもいる。

 鉱山の街から、クアルトの後についてきていたのだ。

 パーヴェル子爵家の者たちには気づかれない程度の距離を置いて。


 不慮のトラブルで足止めを食らっていたが、ようやく到着したところだ。

 だからだろうか、群衆に囲まれて、イーアンは何やら疲れ切った顔で馬車に凭れていた。


「やっとたどり着いたな。こんな目立つもんのお守りやらせんなよ」

 ボソッと呟かれるが、クアルトとアンナたちはサラッと聞き流した。

 唯一、レーデルフィーヌだけが理解できるよっとコクコク頷いている。


 馬車の列は、朝の光を受けて静かに輝いていた。

 馬車を曳く馬は、白い大理石のような滑らかな光沢を放つ。

 表面には淡い模様が走り、まるで彫刻品がそのまま走り出したかのようだ。


 その前で地面を踏みしめる馬は、反芻が灰色の金属光沢を帯び、もう半分は赤銅色に輝く筋肉質の体をしている。

 石の蹄が地面を叩くたび、金属のような澄んだ音が響いた。

 どちらも生き物のようにしなやかだが、動きには『揺れ』がない。

 完璧に制御された機械のような静かさがあった。


 その周囲を囲む騎士たちは、鈍い銀色の鎧に身を包み、似た色の馬に跨っている。

 十人全員が寸分違わぬ姿勢で並び、兜の奥の空洞がこちらを向いているのが、逆に『生きていない』ことを強調していた。

 御者席には、無表情なストーンゴーレムが静かに座っていた。


 さらにその後ろには、草色の丸い生き物――パスチャーゴーレムのピッカウが

 大人しく並んでいる。

 草原の風を思わせる柔らかな緑が、石の列の中で妙に目を引く。


 そこへ、さらにカーキ色のマントに身を包んだ兵士が赤い大盾を背負って合流する。

 昨夜のうちに呼び寄せていた『ブリックゴーレム』たちだ。

 クアルトの体のあちこちには『フォレストガラスゴーレム』のトカゲも潜り込んでいる。


 全体として、高位貴族の行列と見紛うほどの威容。

 だが、よく見れば――

 どれもこれも『生き物ではない』。

 その隠しきれない異様さが、逆に圧倒的な迫力を生んでいた。


「これで帰れるよね!」

 最低限必要な馬車と護衛は確保できたのだ。


 クアルトが胸を張ると、レーデルフィーヌは口をぱくぱくさせたまま固まっていた。


「……クアルト様。 あの、これは……その……本当に……?」


「うん。全部ゴーレム」


「全部……?」


「全部」


 アーネストが、静かに天を仰いだ。

 イーアンが、地面にめり込むような重いため息を吐く。

 アンナだけが、平然と立っている。

 レーデルフィーヌは、震える指で馬車を指した。


「こ、これ……高位貴族の行列では……?」

「違うよー。僕のだよ―」


「え、クアルト様の・・・ですか?」

「そうだよぉ。買うとか借りるとかより作ったほうが安いし」


「安い……?」


 レーデルフィーヌの思考が止まる。


 アーネストは、淡々と補足した。


「……ゴーレムは維持費がかかりませんから。馬の餌代も、騎士の給金も不要です」


「そうそう。だから、長期的にはこっちのほうがコスパいいんだよね」


 七歳の口から出る言葉ではない。


 レーデルフィーヌは、ついに膝に手をついて項垂れた。


「……クアルト様。 あなたは本当に……本当に……天才ですか?」


「違います!! 七歳です!」


 即答だった。


 アーネストは、わずかに肩を震わせた。

 笑っているのか、呆れているのか、判別がつかない。


 クアルトは、にこりと笑った。


「まあまあ。とにかく、これで帰れるんだから良いでしょ?」


 レーデルフィーヌは深く深くため息をついた。


「……はい。帰れますけど……帰れるんでしょうけど……!」


「よし、じゃあ出発!」


 クアルトは軽やかに馬車へ向かう。


 その背中を見ながら、レーデルフィーヌは思った。


 ……王弟殿下が気に掛けるわけだ——



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