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『時代遅れスキル『ゴーレム制作』専門の男爵家四男が、転生者の知識でそこそこ頑張るはずが、なぜか王弟に目をつけられてしまう話』  作者: 葉月奈津・男
第二部、『帰路』

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第61話 『順化』 

2/2

 


 レーデルフィーヌは、まだ青ざめたまま庭を見回していた。

 レンガ兵士の掃除は理解した。


 理解した……つもりだった。

 だが、視線がふと横へ流れた瞬間——


「…………え?」

 庭の端に、巨大な“何か”が座っていた。


 いや、“何か”ではない。

 形は人型。

 積み上げられたレンガの塊が、体育座りの姿勢で固まっている。


 最初はただの物置だと思っていた。

 だが、よく見ると——


「……これ……人型……?」

 その瞬間、背筋が総毛立った。


(まさか……これも……?)


 ゆっくりと、慎重に、巨人の“顔”らしき部分を見上げる。

 無表情のレンガの面。

 だが、ただの置物にしては、あまりにも“意図的な造形”だ。


「……っ!」

 レーデルフィーヌは反射的に一歩下がり、腰のペーパーナイフに手を添えた。

 完全に“敵性存在”への対応姿勢だ。

 無意識に足が戦闘の構えを取っていた。


「レーデルフィーヌ?」

 背後から声がして、肩が跳ねる。

 振り返ると、クアルトが首を傾げて立っていた。


「どしたの?」

「こ、これは……その……っ」

 震える指先が、巨人を指す。


「……敵、では……?」

「敵じゃないよ。物置だよ」


「もの……おき……?」

「うん。中、空洞になってるから。便利だよ」


「…………」

 レーデルフィーヌの思考が、また止まった。


(物置……?

 いや、どう見ても……巨人……

 でも、空洞……?

 便利……?)


「……あの……動くのですか?」

「動かないよ。あれは“成型だけ”で止めたから」


「成型……?」

「命令を刻んでないから、ただの“形”だよ」


「…………」

 レーデルフィーヌは、そっと額を押さえた。


(……レンガ兵士が掃除をしていて……

 庭の端には巨人の物置があって……

 七歳の子どもが、それを当然のように説明していて……

 わたしは……この人を護衛するのが任務……?)


「……他にも、動くものが……?」

 レーデルフィーヌは、声を潜めるようにして尋ねた。

 さっきのレンガ兵士と巨人物置で、すでに限界が近いのかもしれない。


 だけど――


「あるよ」

 クアルト——『僕』——はあっさり頷いた。

 子供って時々残酷だよな。


 意識を共有し、フォレストゴーレムを呼び寄せる。

 家の外周で気配が動き、緑と茶色の小さな影が、ひょこっと顔を出した。

 半分以上は足元の土に残したまま、緑色の一体と、茶色の一体を掌に乗せて、レーデルフィーヌの目の前へそっと差し出す。


「これが『フォレストゴーレム』。色が違うけど、どっちもガラス素材だよ」

 掌の上で、二匹はちょこんと座り、小さな腕をぱたぱたと振っている。


「…………」

 レーデルフィーヌは、完全に固まった。

 目が、見開かれたまま動かない。

 呼吸すら忘れているようだ。


「……っ、ち、ちいさ……っ」

 ようやく漏れた声は、震えていた。


「かわいいでしょ?」

「か、かわ……っ?!」

 レーデルフィーヌの視線が、“理解不能”と“可愛い”の間で激しく揺れる。


「この子たちは偵察とか監視向きだね。小さいから」

「か、かんし……っ?!」

 レーデルフィーヌの膝が、わずかに震えた。


(あ、これ……“情報量が限界突破しそうな人の反応”だ)


 クアルトは、掌の上のゴーレムたちを軽く撫でてから、そっと地面へ戻してやった。

 フォレストゴーレムたちは、ちょこんとお辞儀をしてから、あちこちの小さな隙間にすうっと潜っていく。


 刻んだ命令が『自立行動・警戒』だからな。

 動きの自由度が高い。

 ステータスも知力と素早さが突出している。


 レーデルフィーヌは、その様子を呆然と見つめていた。


「置いてあったレンガ? え? ゴーレムって、そんなので作れるのですか?」

「素材さえあればね」


「素材・・・・・ですか?」

「うん。そう。どこかで、解体工事してないかな?」

 王都に入るとき、馬車の窓から工事現場らしいものを見ている。


 もしかしたら——


「あー、やってますね」

 レーデルフィーヌは、そういえばと声を上げる。


 国王の在位10年の式典に向け、来賓を招待している。

 それに伴い、王都の外周を整えようとの計画があるのだと。


「明日、朝から行ってみよう!」

 クアルト――『僕』が張り切っている。


 ◇


 翌朝。

 レーデルフィーヌは、男装で決めていた。

 きっちりとした執事服だ。


 男装の麗人――いいかも。

 クアルトの中で、『オレ』はちょっと萌えていた。


「護衛として、しっかりと務めさせていただきます」

 眦を決しての宣言。


 ただ——


 手にはたっぷりと蜂蜜が塗られたトーストがある。

 口の横に、蜂蜜がちょっぴりついていた。


 なんだか、昨日より少しだけ、『何か』が緩んでいるようだ。

 それは、悪いことじゃない。


 『身内』に入ってきてくれた。

 そういうことだ。



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