第60話 『邂逅』
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「……予想外、というべきかしら?」
ふと立ち止まり、アンナが呟く。
レーデルフィーヌの部屋とクアルトのいる居間の中間だ。
「いや、予想はできたことさ。王弟は、俺たちのことをもう知っているはずだ。なら、『影』を差し向ける意味がない。むしろ、『表』の人間が必要だからな」
騎士…いや、貴族家の令嬢。
なにかあった時、正面で受け止められる人物だ。
「……とはいえ、クアルト様はまだ子供。男性では行き届かないこともある。だから、彼女——レーデルフィーヌ——ってことね」
「たぶんな。しかし……ふふっ、あの子、耐えられるかな? 真面目そうだけど」
「耐えられないなら、早目に消えてもらうのが一番よ」
逃げ出されるなら、早い方がいい。
真面目なだけの『お堅い』人間では、クアルト様の役には立たない。
「厳しいね―」
理解できる、とアーネストが笑みを浮かべた。
◇クアルト◇
「予想していたより、いい人が来てくれたみたいだな」
ソファに深く座り直し、『オレ』は伸びをした。
「誰かを押し付けてくるだろうとは思っていたけど、かなり『話せる』人が来てくれた」
護衛という名の監視が付くことは想定していた。
融通の利かないガチガチが来たら窮屈だな、と思っていたのだ。
それが——
真面目そうだけど、窮屈にはならなそうだ。
ありがたい。
「さて、と」
新顔のことはいいとして、『オレ』も立ち上がる。
ゴーレムの様子を見に行こうと思った、そのとき。
――ガサッ、ガラッ。
「ん?」
庭の方から、妙な音がした。
石が擦れるような、土を踏むような……いや、あれは。
(レンガ兵士か? でも、あの動きは……)
気になって、庭へ続く扉を開けた。
そして、見た。
「…………」
レーデルフィーヌが、庭の真ん中で固まっていた。
完全に、石像のように。
その視線の先では、レンガ兵士が淡々と落ち葉を掃いている。
箒を持って。
規則正しく。
まるで、それが当然の仕事であるかのように。
箒を動かすたびに、関節がカクカクと不自然に曲がる。
「……ああ、掃除してるのか」
兵士だしな。
オレは納得したが、レーデルフィーヌは違った。
「………………」
口が半開きだ。
目が泳いでいる。
理解が追いついていないのが、遠目にもわかる。
(あー……初見だと、まあ、そうなるよな)
ゆっくり近づき、声をかける。
「レーデルフィーヌ?」
ビクッ。
肩が跳ねた。
完全に警戒している。
「……ク、クアルト様……これは……その……」
震える指先が、レンガ兵士を指す。
「掃除だよ」
「……掃除……ですか?」
「うん。庭、汚れてたからね」
「…………」
レーデルフィーヌは、しばらく動かなかった。
庭に立つレンガ兵士と、オレとを交互に見て——
「……わたし、護衛任務……ですよね?」
「そう聞いたよ?」
「……ええと……その……」
「?」
「……“敵性存在”では……ないのですね?」
「ないよ?」
「…………」
レーデルフィーヌは、そっと額を押さえた。
(あ、これ……“理解が追いつかないときの大人の反応”だ)
久々に見た気がする。
というか、『僕』は初見で、見た覚えがあるのは転生者の『オレ』だけだな。
「まあ、慣れるよ」
『オレ』がそう言うと、レーデルフィーヌは“慣れたくないものに慣れろと言われた顔”をした。
◇
「僕の『適性』は『ゴーレム制作』でね。あれは、庭に置かれてたレンガで作った『ブリックゴーレム』だよ」
『慣れるよ』だけではさすがに無責任なので、説明した。
「ごーれむ……ああ、ゴーレム!」
理解が追いついた瞬間、レーデルフィーヌの顔がぱっと明るくなる。
さっきまでの硬さが嘘のようだ。
(なんか、少し若くなった?
普段はいろいろと苦労が滲み出てるのかもしれないな)
「えーと。『ブリックゴーレム』ですか? それは他にもあるのですか?」
他にも活動しているのがあるのか?
そう聞かれたので、『オレ』は首を振った。
「素材一つにつき10体までしか作れない決まりがあるんだ」
レンガ兵士は、ここにいるので全部になる。
「素材一つに付き10体……はっ!」
レーデルフィーヌは、そこで口を押えて後ずさった。
顔が青を通り越して白くなる。
「申し訳ありません! 秘匿情報に踏み込むような真似を……!」
各適性の詳細情報は極秘扱い。
聞き出そうとすることは重罪になる。
(あー……そういう方向で受け取るのか)
「気にしなくていいよ。この程度は秘密にしなくていい」
ちゃんと、弁えているぞ、というつもりで言ったのだが——
レーデルフィーヌは、さらに青くなった。
「……“この程度”……?」
(あ、これ逆効果だ)
“秘匿情報の基準がわからない恐怖”が、彼女の真面目さと合わさって倍増している。
「ほんとに大丈夫だよ。素材ごとに上限があるってだけで、危険な情報じゃないから」
「……は、はい……」
レーデルフィーヌは、まだ混乱している。
庭では、レンガ兵士が淡々と掃除を続けている。
(……慣れるまで時間かかりそうだな)




