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『時代遅れスキル『ゴーレム制作』専門の男爵家四男が、転生者の知識でそこそこ頑張るはずが、なぜか王弟に目をつけられてしまう話』  作者: 葉月奈津・男
第二部、『帰路』

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第60話 『邂逅』 

1/2

 


「……予想外、というべきかしら?」

 ふと立ち止まり、アンナが呟く。

 レーデルフィーヌの部屋とクアルトのいる居間の中間だ。


「いや、予想はできたことさ。王弟は、俺たちのことをもう知っているはずだ。なら、『影』を差し向ける意味がない。むしろ、『表』の人間が必要だからな」

 騎士…いや、貴族家の令嬢。

 なにかあった時、正面で受け止められる人物だ。


「……とはいえ、クアルト様はまだ子供。男性では行き届かないこともある。だから、彼女——レーデルフィーヌ——ってことね」

「たぶんな。しかし……ふふっ、あの子、耐えられるかな? 真面目そうだけど」


「耐えられないなら、早目に消えてもらうのが一番よ」

 逃げ出されるなら、早い方がいい。

 真面目なだけの『お堅い』人間では、クアルト様の役には立たない。


「厳しいね―」

 理解できる、とアーネストが笑みを浮かべた。


 ◇クアルト◇


「予想していたより、いい人が来てくれたみたいだな」

 ソファに深く座り直し、『オレ』は伸びをした。


「誰かを押し付けてくるだろうとは思っていたけど、かなり『話せる』人が来てくれた」

 護衛という名の監視が付くことは想定していた。

 融通の利かないガチガチが来たら窮屈だな、と思っていたのだ。


 それが——


 真面目そうだけど、窮屈にはならなそうだ。

 ありがたい。


「さて、と」

 新顔のことはいいとして、『オレ』も立ち上がる。


 ゴーレムの様子を見に行こうと思った、そのとき。


 ――ガサッ、ガラッ。


「ん?」

 庭の方から、妙な音がした。

 石が擦れるような、土を踏むような……いや、あれは。


(レンガ兵士か? でも、あの動きは……)

 気になって、庭へ続く扉を開けた。

 そして、見た。


「…………」

 レーデルフィーヌが、庭の真ん中で固まっていた。


 完全に、石像のように。

 その視線の先では、レンガ兵士が淡々と落ち葉を掃いている。


 箒を持って。

 規則正しく。

 まるで、それが当然の仕事であるかのように。

 箒を動かすたびに、関節がカクカクと不自然に曲がる。


「……ああ、掃除してるのか」

 兵士だしな。

 オレは納得したが、レーデルフィーヌは違った。


「………………」



 口が半開きだ。

 目が泳いでいる。

 理解が追いついていないのが、遠目にもわかる。


(あー……初見だと、まあ、そうなるよな)


 ゆっくり近づき、声をかける。


「レーデルフィーヌ?」


 ビクッ。


 肩が跳ねた。

 完全に警戒している。


「……ク、クアルト様……これは……その……」

 震える指先が、レンガ兵士を指す。


「掃除だよ」

「……掃除……ですか?」

「うん。庭、汚れてたからね」

「…………」

 レーデルフィーヌは、しばらく動かなかった。

 庭に立つレンガ兵士と、オレとを交互に見て——


「……わたし、護衛任務……ですよね?」

「そう聞いたよ?」


「……ええと……その……」

「?」


「……“敵性存在”では……ないのですね?」

「ないよ?」


「…………」

 レーデルフィーヌは、そっと額を押さえた。


(あ、これ……“理解が追いつかないときの大人の反応”だ)


 久々に見た気がする。

 というか、『僕』は初見で、見た覚えがあるのは転生者の『オレ』だけだな。


「まあ、慣れるよ」

『オレ』がそう言うと、レーデルフィーヌは“慣れたくないものに慣れろと言われた顔”をした。


 ◇


「僕の『適性』は『ゴーレム制作』でね。あれは、庭に置かれてたレンガで作った『ブリックゴーレム』だよ」

『慣れるよ』だけではさすがに無責任なので、説明した。


「ごーれむ……ああ、ゴーレム!」

 理解が追いついた瞬間、レーデルフィーヌの顔がぱっと明るくなる。

 さっきまでの硬さが嘘のようだ。


(なんか、少し若くなった?

 普段はいろいろと苦労が滲み出てるのかもしれないな)


「えーと。『ブリックゴーレム』ですか? それは他にもあるのですか?」

 他にも活動しているのがあるのか?

 そう聞かれたので、『オレ』は首を振った。


「素材一つにつき10体までしか作れない決まりがあるんだ」

 レンガ兵士は、ここにいるので全部になる。


「素材一つに付き10体……はっ!」

 レーデルフィーヌは、そこで口を押えて後ずさった。

 顔が青を通り越して白くなる。


「申し訳ありません! 秘匿情報に踏み込むような真似を……!」

 各適性の詳細情報は極秘扱い。

 聞き出そうとすることは重罪になる。


(あー……そういう方向で受け取るのか)


「気にしなくていいよ。この程度は秘密にしなくていい」

 ちゃんと、弁えているぞ、というつもりで言ったのだが——

 レーデルフィーヌは、さらに青くなった。


「……“この程度”……?」


(あ、これ逆効果だ)


 “秘匿情報の基準がわからない恐怖”が、彼女の真面目さと合わさって倍増している。


「ほんとに大丈夫だよ。素材ごとに上限があるってだけで、危険な情報じゃないから」

「……は、はい……」

 レーデルフィーヌは、まだ混乱している。

 庭では、レンガ兵士が淡々と掃除を続けている。


(……慣れるまで時間かかりそうだな)



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