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『時代遅れスキル『ゴーレム制作』専門の男爵家四男が、転生者の知識でそこそこ頑張るはずが、なぜか王弟に目をつけられてしまう話』  作者: 葉月奈津・男
第二部、『帰路』

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第59話 『レーデルフィーヌ』 

2/2

 


 生まれた家は、王都でも指折りの名門。

 代々、騎士団に人材を送り続けてきた武門の家柄だ。


 けれど、家の古い価値観では娘は家を継げないし、騎士にもなれない。

 幼い頃から剣も学問も兄たちと同じように叩き込まれたのに。

 剣では五分、学問ならむしろ上だった。


 それなのに——


 正式な場に立つ資格だけは与えられなかった。

 だから私は、文官としての道を選んだ。


 ……いや、選ばされたと言うべきか。

 ともかく、武で身を立てることは許されなかった。


 早く良い伴侶を得るか、文官として自立するか。

 家門の当主から与えられた選択肢は、その二つ。

 それなら、選べるのは一つだけ、文官の道を進むしかない。


 望みもないまま、流された先。

 それは、王都警備隊の事務官だった。


 転機が、そこで訪れた。

 警備隊の隊長が、彼女の身のこなしに気が付いたのだ。

 武芸の心得がある、と。


 で、転属となった。

 表向きは『王族親衛隊』の書記官見習い。


 でも実際には、殿下の“影の護衛”として鍛えられてきた。

 男装も、変装も、密命も、全部そのための訓練。


 殿下は、私の家柄よりも、私自身を見てくれた。

 だからこそ、今回の任務も託されたのだろう。


「クアルト様の所在確認と保護」

 それだけのはずなのに……。


 まさか、王都中を探し回ることになるなんて。

 宿をしらみつぶしに探し、城門で出入りを確認し、それでも見つからなくて、胸が締めつけられるほど不安になって。

 ようやく見つけたと思ったら——


 七歳の子どもが、政治の構造を当然のように読み解いている。

 封鎖の理由、子爵家の立場、王都の動き……


 私よりも冷静で、私よりも正確で、まるで“大人”と話しているような錯覚さえ覚える。

 殿下が急いで保護を命じた理由が、ようやくわかった気がする。


 この子は、ただの子どもではない。

 守らなければならない理由が、確かにある。


 ……それにしても、どうして“ゴミ屋敷”なんて場所に。

 天啓? 本気で言っているのだろうか。


 本当に、振り回される。

 でも——見つけられてよかった。


 本当に、よかった。

 今後は――あ。



「あ、お分かりかと思いますが『保護と護衛』ですので、今後は行動を共にさせていただきます」



 宣言した。

 拒否は認めない!

 目に力を込める。


 抵抗は想定内。

 一戦交えてでも!


 なのに――?


「部屋は?」

 クアルトは、メイドに顔を向けた。


「案内します」

 メイドが、移動を促してきた。


「え?」


「お荷物をどうぞ」

 執事が、荷物を預かる仕草を見せる。


「え?」


 疑問の声を漏らしながらも、促されるまま立ち上がる。


「あとでねー」

 椅子に座ったまま、クアルトが手を振ってくれる。


「え?」


 なに?

 なに、この流れ?


 普通、護衛はしてもいいけど外に出ろ、じゃないの?

 排除されること前提の訓練しか知らないんですけど?


「こちらをお使いください」

 きれいに整った部屋に案内された。


「隣が私…アンナと申します――の部屋となりますので、何か不都合があれば遠慮なさらずお呼びください」

 そういうと、アンナと名乗ったメイドは一礼して去ろうとしている。


「ま、待って」

 慌てて呼び止める。


「なにか?」

「わ、私、部外者ですよね?」

 自分で言うのも変だが、そのはずだ。


「もう違います」

「もうって『いつ』ですか?!」

「そうですね。んー……クアルト様が『監視と護衛の話では?』と聞いたあたりですね」

「ほとんど初対面ですよね?!」

 ほとんど、二言か三言目のセリフだ。


「これでも、クアルト様にしては慎重に判断してますよ。普段なら、『探しましたよ』で判断終わってますから」

「終わるというのは?」

 どういう差が出るのかわからない。


「ダメならまともな返事はしませんね」

「は?」


「逆だろ。聞いている限りはまともだけど、内容が投げやりになる」

「え?」


 メイドと執事が答えてくれるが、意味を頭が受け入れられない。

 それでも、必死に考えて答えは出た。


「ほぼ一瞬で判断を下すと?」

 そういうことだろう。


「そんなところです。いろいろと戸惑うでしょうが、慣れてください」

「コツは深く考えないことだ。あ、俺の名はアーネスト。よろしくな」


 か、軽すぎる。

 なんなんだ、ここは?


 メイドと執事――アンナとアーネストーーが、主のところへ戻るのを見届けて、レーデルフィーヌは、案内された部屋の扉をそっと閉めた。


 深く息を吐く。

 ようやく一息つける……はずだった。


 外套を脱ぎ、男装用のシャツのボタンを外しながら、鏡に映る自分の顔を見つめる。

 涙の跡が、まだうっすら残っていた。


「……情けないわね、私」

 殿下の密命を帯びているのに、初対面の七歳相手に泣きそうになるなんて。


 いや、泣いていた。

 完全に。


 気を取り直すように、髪をまとめ直し、男装用の帽子を手に取る。

 護衛任務に入る以上、気持ちを切り替えなければ。


 部屋には自分ひとり。

 静かだ。


 ……静かすぎる。

 そのときだった。


 ――ガラッ、ガサッ。


「……?」

 庭の方から、何かが動く音がした。

 土を擦るような、石がぶつかるような、妙な音。


(侵入者? まさか、もう?)


 護衛としての反射が働く。

 着替え途中のシャツの裾を慌てて整え、腰のペーパーナイフに手を添える。

 音の正体を確かめるべく、そっと窓へ近づいた。

 カーテンをわずかに開け、外を覗く。


「……え?」

 視界に入った光景に、思考が止まった。


 庭に――レンガがいた。

 いや、レンガ“兵士”だ。


 四角い体に、無表情の顔。

 そのレンガ兵士が、箒を持って、庭を掃いている。


 淡々と。

 規則正しく。

 まるで、日常の家事のように。

 無表情のまま、ぎこちない腕の動きで箒を動かしている。


「……は?」

 声が漏れた。

 理解が追いつかない。


(え? え? なに? 魔物? いや、違う……掃除……してる?)


 混乱したまま、レーデルフィーヌは庭へ出た。

 足音を殺し、慎重に近づく。

 レンガ兵士は、こちらを一瞥することもなく、ただ黙々と落ち葉を集めている。


「…………」

 完全に固まった。

 護衛としての緊張も、名門の娘としての矜持も、すべて吹き飛んだ。

 ただひとつの疑問だけが、頭の中でぐるぐる回る。


(……なにこれ?)



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