第55話 『宿』
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「ま、来てないものは仕方がない。当面の生活を何とかしないとね」
心の中の『僕』は「そうだ、そうだ」と腕を振り回している。
王都は七歳の子供には刺激が強すぎるかもしれない。
ホームシックになって泣かれるよりはいいけれど、元気すぎるのも困りものだ。
「お見舞いに行くついでに、『安宿』確認しようか。帰るめどがつくまでの宿が必要だし」少し考えて、『オレ』は提案してみた。
頭の中で『僕』が、『それだ』と言っているが・・・
「それなら、まず宿を決めてからです」
ビシッとアンナが言い放って、保留となった。
「……それに、村長夫人の体調が本当に“風邪”なら、無理に訪ねるのは負担になります」
アーネストが淡々と付け加えた。
それが決定打だ。
親方は師匠のところへ行ってしまった。
一応、「案内はいるか?」と聞かれたが丁寧に断った。
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「これは・・・見事な」
足を止め、『オレ』は絶句していた。
できる限り安い宿を――『オレ』。
「否定はしませんが、衛生面とプライバシーの保全は最低限の条件です」——アンナ。
「あまり、ごちゃごちゃしているのは・・・困りますね」——とアーネスト。
なかなか決まらず、彷徨っていたところだ。
宿を探して狭い路地に入り込んだ先に、『ソレ』があった。
『ゴミ屋敷』——それは、現代日本だけの問題ではなかったらしい。
見た瞬間にそうとわかる外見。
家具やら、どこかの解体端材らしいもの。
雑多なものが積み上げられている。
だけど——
それさえなければ、結構シャレてる一軒家だった。
「ここ、片付ける代わりに丸ごと貸してもらうとかできないかな?」
ふと、『オレ』が呟く。
「は?」
「正気ですか?!」
アンナとアーネストが『あり得ない』と目を剥いた。
しかし――
「だって、泊まれる宿ないじゃないか!」
プクっと膨れる。
『僕』が限界なのだ。
慣れない王都を歩き詰め。
アンナのお眼鏡に叶うホテルは高すぎて、一晩でも泊まればご飯が食べられなくなる。
アーネストが求める『安全性』はそこですらなかった。
このまま歩き続けても、多分、同じだ。
なんなら、このまま徒歩で帰るほうがましかもしれない。
そのぐらいの徒労感がある。
正直『オレ』だけなら、もう諦めて王都から出ている。
そして、どこかに野宿する場所を探している。
「そ、それは――」
「言いたいことはわかります」
揃って目をそらして、頷いている。
「幸い、臭いはしない。生ごみはないと思う」
ご近所も、虫や一部の動物に徘徊されるのは避けたかったのだ。
いわゆる粗大ごみと建築端材しか置かれていない。
「片づければ、何とかなるよ」
それだって、多分何とかなる。
あとは——
「借りられるかどうかだね」
クアルトは指を動かし、板看板を示した。
『管理地・王都警備隊』。
積み上げられた端材の陰に、埋もれるように立っている。
「……警備隊の管理地、ですか」
アーネストが眉を寄せる。
「持ち主がいないんでしょうね。差し押さえか、事件絡みか……」
アンナが小声で呟く。
そのとき、路地の奥から足音がした。
青い外套を着た王都警備隊の隊士が、巡回の途中らしく姿を見せる。
「あれ? 君たち……事情聴取に来た人たち?」
クアルトが軽く会釈する。
パーヴェル子爵領からの護送の隊にいた隊士だった。
「ここって、警備隊の管轄なんですね?」
「ん? ああ、ここね」
隊士は看板を見て苦笑した。
「ここ、空き家なんだよ。持ち主がいなくてな。片付ける余裕もなくて困ってる」
クアルトは一歩前に出た。
「片付ける代わりに、短期間だけ貸してもらえませんか?」
隊士は目を丸くしたが、すぐに肩をすくめた。
「……まあ、誰も使ってないし、短期なら問題ない。管理簿に名前だけ書いてくれればいい。男爵家の四男だってのは、わかっているから事務手続きもすんなりいけるだろう」
アンナとアーネストが顔を見合わせる。
「……掃除をすれば、住めないことはありません」
「建物自体はしっかりしています」
『僕』がぱぁっと顔を輝かせる。
クアルトがこぶしを握った。
『オレ』はゴミの山を見て静かに頷く。
粗大ごみは、素材になる。
「じゃあ、ここにしようか」
クアルトはそう言って、ようやく息をついた。
◇
というわけで、事務手続きはアーネストに任せて片付けに入る
「すごい! 宝探しみたい!」
ワクワクしてはしゃぐのは『僕』だ。
「危ないですっ!」
慌てて捕まえに動くアンナ。
「片付けたら絶対きれいになるよ!」
「わかりましたから、騒がない!」
足元には鉄くずやら釘、ガラス片が落ちている。
転びでもしたら、大惨事だ。
『オレ』はと言えば、内側に引っ込んで、素材の吟味に入る。
落ちている釘は真っ赤に錆びていて細い。
明らかな粗悪品だ。
多分、鍛冶屋から見ても抜くのが面倒になるようなものなのだろう。
再利用には適していないということだ。
だけど――
「ゴーレムには使える」




