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『時代遅れスキル『ゴーレム制作』専門の男爵家四男が、転生者の知識でそこそこ頑張るはずが、なぜか王弟に目をつけられてしまう話』  作者: 葉月奈津・男
第二部、『帰路』

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第55話 『宿』 

2/2

 


「ま、来てないものは仕方がない。当面の生活を何とかしないとね」


 心の中の『僕』は「そうだ、そうだ」と腕を振り回している。

 王都は七歳の子供には刺激が強すぎるかもしれない。

 ホームシックになって泣かれるよりはいいけれど、元気すぎるのも困りものだ。


「お見舞いに行くついでに、『安宿』確認しようか。帰るめどがつくまでの宿が必要だし」少し考えて、『オレ』は提案してみた。

 頭の中で『僕』が、『それだ』と言っているが・・・


「それなら、まず宿を決めてからです」

 ビシッとアンナが言い放って、保留となった。


「……それに、村長夫人の体調が本当に“風邪”なら、無理に訪ねるのは負担になります」

 アーネストが淡々と付け加えた。

 それが決定打だ。


 親方は師匠のところへ行ってしまった。

 一応、「案内はいるか?」と聞かれたが丁寧に断った。


 ・

 ・

 ・


「これは・・・見事な」

 足を止め、『オレ』は絶句していた。


 できる限り安い宿を――『オレ』。


「否定はしませんが、衛生面とプライバシーの保全は最低限の条件です」——アンナ。


「あまり、ごちゃごちゃしているのは・・・困りますね」——とアーネスト。


 なかなか決まらず、彷徨っていたところだ。

 宿を探して狭い路地に入り込んだ先に、『ソレ』があった。


『ゴミ屋敷』——それは、現代日本だけの問題ではなかったらしい。


 見た瞬間にそうとわかる外見。

 家具やら、どこかの解体端材らしいもの。

 雑多なものが積み上げられている。


 だけど——

 それさえなければ、結構シャレてる一軒家だった。


「ここ、片付ける代わりに丸ごと貸してもらうとかできないかな?」


 ふと、『オレ』が呟く。


「は?」

「正気ですか?!」

 アンナとアーネストが『あり得ない』と目を剥いた。


 しかし――


「だって、泊まれる宿ないじゃないか!」

 プクっと膨れる。


『僕』が限界なのだ。

 慣れない王都を歩き詰め。


 アンナのお眼鏡に叶うホテルは高すぎて、一晩でも泊まればご飯が食べられなくなる。

 アーネストが求める『安全性』はそこですらなかった。


 このまま歩き続けても、多分、同じだ。

 なんなら、このまま徒歩で帰るほうがましかもしれない。

 そのぐらいの徒労感がある。


 正直『オレ』だけなら、もう諦めて王都から出ている。

 そして、どこかに野宿する場所を探している。


「そ、それは――」

「言いたいことはわかります」

 揃って目をそらして、頷いている。


「幸い、臭いはしない。生ごみはないと思う」

 ご近所も、虫や一部の動物に徘徊されるのは避けたかったのだ。

 いわゆる粗大ごみと建築端材しか置かれていない。


「片づければ、何とかなるよ」

 それだって、多分何とかなる。


 あとは——


「借りられるかどうかだね」

 クアルトは指を動かし、板看板を示した。


『管理地・王都警備隊』。

 積み上げられた端材の陰に、埋もれるように立っている。


「……警備隊の管理地、ですか」

 アーネストが眉を寄せる。


「持ち主がいないんでしょうね。差し押さえか、事件絡みか……」

 アンナが小声で呟く。


 そのとき、路地の奥から足音がした。

 青い外套を着た王都警備隊の隊士が、巡回の途中らしく姿を見せる。


「あれ? 君たち……事情聴取に来た人たち?」

 クアルトが軽く会釈する。

 パーヴェル子爵領からの護送の隊にいた隊士だった。


「ここって、警備隊の管轄なんですね?」

「ん? ああ、ここね」

 隊士は看板を見て苦笑した。


「ここ、空き家なんだよ。持ち主がいなくてな。片付ける余裕もなくて困ってる」

 クアルトは一歩前に出た。


「片付ける代わりに、短期間だけ貸してもらえませんか?」

 隊士は目を丸くしたが、すぐに肩をすくめた。


「……まあ、誰も使ってないし、短期なら問題ない。管理簿に名前だけ書いてくれればいい。男爵家の四男だってのは、わかっているから事務手続きもすんなりいけるだろう」

 アンナとアーネストが顔を見合わせる。


「……掃除をすれば、住めないことはありません」

「建物自体はしっかりしています」

『僕』がぱぁっと顔を輝かせる。

 クアルトがこぶしを握った。


『オレ』はゴミの山を見て静かに頷く。

 粗大ごみは、素材になる。


「じゃあ、ここにしようか」

 クアルトはそう言って、ようやく息をついた。


 ◇


 というわけで、事務手続きはアーネストに任せて片付けに入る


「すごい! 宝探しみたい!」

 ワクワクしてはしゃぐのは『僕』だ。


「危ないですっ!」

 慌てて捕まえに動くアンナ。


「片付けたら絶対きれいになるよ!」

「わかりましたから、騒がない!」

 足元には鉄くずやら釘、ガラス片が落ちている。

 転びでもしたら、大惨事だ。


『オレ』はと言えば、内側に引っ込んで、素材の吟味に入る。

 落ちている釘は真っ赤に錆びていて細い。

 明らかな粗悪品だ。


 多分、鍛冶屋から見ても抜くのが面倒になるようなものなのだろう。

 再利用には適していないということだ。


 だけど――


「ゴーレムには使える」


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