第52話 『第一部・エピローグ』
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「……行ったか」
足音が聞こえなくなったところで、王弟は息を吐いた。
少しだけ表情が緩む。
「約束をとりつけた手腕は見事でしたが、何をお考えなのですか?」
壁の花――彫像のように立っていた『だけ』のメイドが口を開いた。
使用人の言葉ではない。
メイドの『温度』でもない。
どこか、『教師』か『姉』の言葉、そして温度だった。
「“お披露目会”だ」
その言葉に、メイドは瞬きをした。
「……お披露目会ですか?」
「そう。彼も参加することになっていることは確認した」
メイドは軽く曲げた人差し指を顎にあてて頷いた。
年齢から見て、まさにその時期だと合点がいったのだ。
一年の終わり、数か月後に王都で行われる“子供たちの顔見せ”だ。
貴族たちの社交行事。
王弟は、声を落とした。
「今回のお披露目会には、末の王女も参加する」
「ああ……」
それか、とメイドは息を吐いた。
王弟の声は淡々としていたが、その奥にある緊張は隠しきれていなかった。
「『オートヒール』ですね」
「そうだ。そこにいるだけで、周囲のけがや病気を癒す存在だ」
「影響の大きいスキルです」
言葉が重々しい。
王弟が静かに頷く。
「軍事的価値は計り知れない。そして、不老不死を夢見る者にとっては、リスクを承知で手に入れたくなる存在だ」
王弟は、静かに続けた。
「その王女が、大人の護衛が入りにくい“子供が主役”の場に出る。お披露目会は、最も無防備になる機会だ」
王弟は、クアルトの目を思い返す。
「そこで誘拐を企む者がいるという噂がある。しかも、一つではない。複数だ」
「それで、『子供の護衛』をと?」
そうだ、と王弟はうなずいた。
そして――
「君の『知り合いたち』の援護も期待できるしな」
王弟が『王族』の笑みを浮かべてみせる。
瞳から『温度』が消えている。
「……お見事です」
目を閉じ、メイドは息を吐いた。
王弟は窓の外を見つめる。
「間に合うといいが……」
その声は、誰にも届かない。
(おじい様たちは、どこまで動くのか……)
メイドの視線が、どこか遠くを見つめていた。
(違うか……『王女』のために動いてくれるか、『あの少年』のため『だけ』に動くのか、ね)
多分、後者なのだろうし、『気づかれない程度に』なのだろうけれど。
クアルト……彼は、何をなすのか?
王家の役に立つのか、あるいは……?
(私が、おじいさまと対立する未来もあり得るか?)
ともかく、王弟が――王国が――動き始めた。




