↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『時代遅れスキル『ゴーレム制作』専門の男爵家四男が、転生者の知識でそこそこ頑張るはずが、なぜか王弟に目をつけられてしまう話』  作者: 葉月奈津・男
第一部、使用人が『王国の影』でした

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
50/131

第50話 『筋書』

2/2

 


『ああ、これはだめだ』

 胸の奥で、オレは静かに結論を下した。


 七歳の『僕』に任せてごまかそうとしたが、無理だ。

 王弟閣下の視線は揺るがない。


 あの目は、納得するまで逃がしてくれない。

「気のせい」なんて通じる相手じゃない。

 このまま質問攻めにされるより、いっそ自分から踏み込んだほうがまだマシだ。


『オレ』はコミュ障気味だが、そのぶん『人を見る目』だけは妙に鍛えられている。

 そして判断した。


 ——この人には隠し通せない。


 だから、先に『オレ』が出る。

 七歳の『僕』が一歩下がり、四十代の『オレ』が前に出る。

 呼吸が変わり、視線が変わり、言葉が変わる。


「ひねくれてるって、よく言われます」

 にっこり笑ってみせる。


「あと、ジジくさい、とも」

 王弟の眉がわずかに動いた。


「……覚悟を決めた顔だね」

 その一言で悟った。


 ——この人は、最初からこうなると分かっていた。


 ◇王弟◇


(……やはり、ただ者ではない)


 王弟は胸の奥でつぶやいた。

 目の前の少年の反応が、幼い頃に祖母から聞いた『語られない王家の歴史』を呼び起こす。


 王家の始祖と旅をした、名も残らぬ人物。

 歳にそぐわぬ冷静さと深い知識を持ち、数々の危機を切り抜け、時にはそれすら利用して王国の基礎を築いた者。


 祖母は言った。

「あの者は、まるで『別の人生』を知っているようだった」と。

 昔話だと思っていた。


 だが今——


 目の前の少年の『揺らぎ』または『揺るぎのなさ』は、その人物を思わせる。

 クアルトの視線は、二つの意思が交互に顔を出すように揺れている。


 だが怯えはない。

 緊張はしているが、王族への恐怖がない。

 普通の子供ではありえないことだが、魔力の異常も特別な気配もない。


 精神の成熟度だけが突出している。

 王弟は静かに息を吐いた。


「……興味深い。ほんとうに」

 それはクアルトに向けた言葉というより、自分の中の『確信に近い感触』を確認するような響きだった。


(……この子は、早熟という言葉では片付かない)


 七歳の子供が、王族の前で怯えず、無礼にもならず、状況を理解して『構え』を変えるなど、本来ありえない。


(知識は深いのに、ひけらかさない。落ち着いているのに、傲慢さがない。そして——自分を偽るのが下手だ)


 祖母が語った『名もなき人物』の特徴が、次々と重なっていく。

 王弟は目を細めた。


「……君は、実に面白い」

 柔らかな声だが、観察者としての鋭さが隠れていない。


「普通の子供は、私の前でそんな顔はしない。緊張で固まるか、虚勢を張るか、どちらかだ」

 クアルトがわずかに眉を上げる。


「だが君は違う。緊張しているのに怯えない。理解しているのに逃げない。……まるで、『覚悟』を知っている者のようだ」

 その言葉が、クアルトの胸に落ちる。

 王弟は身を少し乗り出した。


「君のような子供は滅多にいない。だからこそ——興味が尽きない」

 その目は、利用するためのものではない。

 観察し、理解しようとする者の目だった。




「……君は将来、何になりたい?」


 唐突な質問に、クアルトは拍子抜けした。


「えっと……大きな町の商家で働くか、王都の役所職員になるか……かな、と」


 七歳らしからぬ、堅実で現実的な答え。

 本人は気づいていない。

 だが王弟には十分すぎる材料だった。


『彼は、地位や名誉に興味を持たなかった』


 祖母の言葉がよみがえる。

 王弟の目が細くなる。


「……そうか」

 その声は穏やかだが、内側では別の感情が動いていた。

 ——やはり、この子は『あの系譜』だ。

 少なくとも『それに近い何か』だ。


 クアルトは気づかない。


「えっと……変でしたか?」

 七歳らしい不安げな声。


 だが答えは完全に『大人』のもの。

 王弟は視線を戻し、柔らかく笑った。


「いや。とても良い答えだよ。……実に興味深い」

 クアルトだけが、その言葉の意味を理解していなかった。


「……役所の職員か」

 王弟の笑みは、優しさではなく『確信』を帯びていた。


「なら、私のところで働くかい?」

 空気が止まる。


「えっ……?」

 クアルトは固まった。


 七歳に向ける言葉ではない。

 いや、そもそも『誘い』の次元が違う。


 アンナは息を呑み、アーネストは目を見開く。

 王弟は続ける。


「君のように堅実で、冷静で、欲に流されない者は貴重だ。特に、私の部署ではね」

 クアルトの思考は混乱の渦に飲まれる。


(なんで……? なんでいきなり……? 冗談じゃないよな……?)


 王弟はさらに踏み込む。


「もちろん、今すぐとは言わない。だが、君が望むなら——将来、私の直属として働く道もある」

「お、ぼ、僕が……?」

 王弟は穏やかに微笑む。


「君が望むなら、実家を子爵にすることもできるよ?」


 それは、王弟にしか言えない言葉だった。

 クアルトの思考が止まる。


「……え?」

 王弟は淡々と続ける。


「嫡男が手柄を立てている。すぐには難しいが……ここに『もう一つ』何かが起きれば、昇爵の道が開ける」

 その言葉に、クアルトは混乱を切り捨てた。


 王弟は『誘っている』。

 すでに何か『筋書き』を持っている。


 ——どこへ導こうとしている?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。