第5話 『夕食』
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食卓へと向かうと、父と母、兄たちがすでに席についていた。
ホテルのラウンジくらいの広さに、大きなテーブル。真ん中奥に父、その左側面に母、右側面に長男、次男、三男と並んでいる。当然四男であるクアルトは三男の右隣に座ることになる。
なんだろう?
何となく違和感を持ちつつも席へ向かった。
「今夜はクアルトの『神託』祝いの席だからな。豪華だぞ」
上座の父、メリマルゴール男爵が朗らかに言葉を発した。
祝いの席だと強調したいのだろう。
だからだ。
違和感の正体に気が付いて得心した。
全員が正装だったのだ。
単なる家族同士の夕食だから、そんな必要ないのにだ。
なんのことはない。
祝いの席だからだったのだ。
ただ、なぜか母と長男の顔色が優れない。
なんというか、こちらの顔色を窺っているような?
どことなく心配されている雰囲気がある。
なんだろう?
考えてみてもわからなかったので、まずは席について食事にかかった。
メニューは。
前菜は焼き牡蠣とフォアグラのテリーヌ、
スープはロブスターのビスクとコンソメ。
メインはビーフ・ウェリントンとローストダック。
デザートはクレームブリュレとタルトタタン。
・・・・・に、似ているもの、だ。
パーティーへの参加時に戸惑うことの無いよう、練習のため質感などは似せてあるが別ものが使われている。
ようは『代用料理』だ。
前世世界であった『おからハンバーグ』とかあの系統のものである。
味はマズくないが、取り立ててうまくもない。
いや、もちろんうまいのだ。
ただ、前世の食事を思うと「うまい」と言えないだけで。
それでも、不満なく食べ進めてはいける。
些細な会話を挟みながら食事を楽しんだ。
それで、わかった。
疑問の答えが。
母と長男に、実は部屋で泣いていたのではないかと疑われているのだ。
四時間も部屋に閉じこもったもんで、変な誤解が生じている。
ただ単に『適性』の検証をしていただけなのだが・・・。
どうしたものか。
言葉で説明しても納得してもらえるかわからないし、うーん。
「あっ」
悩んでいると、不意に母が声を上げた。
なにかに驚いたような声だ。
何事かと目を向けると、スプーンが一本落ちかけいる。
一度使用した後、一時的に脇へ寄せていたものが何かのはずみでテーブルの端まで移動してしまったらしい。
おそらく、下に敷かれていたランチョンマットに袖が引っかかりでもしたのだろう。
我が家ではパーティーや正式にゲストを招いての晩餐でもない限り、フォークやスプーンは食事中同じものを使いまわす。
一品ごとに片付けるような煩雑なことは行わないのだ。
なので、こういうことは割と起こる。
家族での祝いの席限定ではあった。
服装は正式なドレスなのに、家族だけの夕食で気が抜けているせいだ。
ゲストがいる晩餐や正式なパーティーであれば、こんなことは起こらない。
そんなことを考えている間に、スプーンが落ちる。
メイドの一人がすかさず拾いに行き、別のメイドが代わりを・・・。
「アンナ、待って」
代わりを持っていこうとしたメイドを呼び止めた。
予備の食器は下手、つまりはこちら側にあるのだ。
「は、はい?」
驚いて足を止めたアンナを手招き、手にしているスプーンを受け取った。
銀製ではあるけれど・・・。
このくらいなら運べるだろう。
ポケットから取り出すのは『鶴』だ。
せっかく作ったので部屋に置いておく気にならず、持ってきていたのである。
受け取ったスプーンは普段使いのモノなので重量軽減と、たぶん材料費削減を兼ねて持ち手には穴が開いていた。
滑り止めのような実用性もあるだろう。
ともかく、いい感じに穴が開いているので『鶴』の首にかけやすい。
「それ、行けっ」
スプーンを首にかけた『鶴』に命じる。
ふわりと浮いて飛び去って行った。
やはり、この程度の重さなら支障なく飛べる。
「まあっ!」
目の前まで飛んできたスプーンと、それを運んだ『謎の物体』に驚く母。
「なんだ?」
「?」
「すげー、なんか飛んだっ!」
「・・・まさか?」
疑問の声を上げる父と兄たち。
その場にいる者たちの視線が『鶴』に釘付けになった。
「先ほど作ってみた『ゴーレム』ですっ」
えっへん、と胸を張って紹介した。
実は落ち込んでいるのを必死にごまかしているのではないか?
そんなことを考えているらしき母や長兄に、違うとアピールするのが狙いだ。
「ゴーレムだと‥‥これがか?」
目を丸くした父が慌てたように席を立って、母の前に浮いている『鶴』に駈け寄った。
それを見て兄たちも大急ぎで駈け寄っていく。
貴族のテーブルマナーはどうした?
ツッコみたくなるが、そこは我慢した。
自分も立って、後を追ったからね。
「これは・・・紙、か?」
観察していた父が、こちらを見た。
見た感じそうだけどってことで確認したいらしい。
「そうですよ。ペーパーゴーレムです!」
鼻息荒く自慢して見せる。
ともかく喜んでいるってことを納得させなくてはならない。
「ほえー」
「紙でこんなもん作れんのかっ、すっげーなっ!」
「・・・・・」
三男がよくわかっていない顔で見つめてきて、次男は豪快に肩を叩いてきた。
長男は・・・まじまじとゴーレムを見つめて無言だ。
これは、とりあえず部屋で落ち込んでいた説は払しょくできたかな。
ゴーレムを作っていたんですよー。っと、そだ。
思いついて、他のも全部出して見せた。
亀や魚が目の前を泳ぎ回り、足元を小さな動物が駆けまわる。
「キャッ、かわいっ!」
「こんなに作っていたのか」
「うわー、うわー」
「すっげーじゃんかよっ、おっもしれーっ!」
「器用だとは知っていたけど・・・こんなものを作り出すなんて・・・」
みんな、リアクションの参考書のような驚き方をしてくれた。
ちょっと楽しい。
その後はすっかり誤解が解け、和やかに食事が進んだ。
閉じこもっていたのは『ゴーレム制作』に夢中になっていたからなのだと納得してもらえたのだ。
よかった、よかった。




