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『時代遅れスキル『ゴーレム制作』専門の男爵家四男が、転生者の知識でそこそこ頑張るはずが、なぜか王弟に目をつけられてしまう話』  作者: 葉月奈津・男
第一部、使用人が『王国の影』でした

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第47話 『王城の影(静かなる報せ)』

1/2

 


 王城の執務室に、ひとつの『書簡』による報告が届いた。

 羊皮紙に刻まれた一見時候のあいさつでしかない手紙。


 ただし、どうやって届けられたかはわからない。

 気づいたら執務机の上に置いてあった。


 黙って置いていくとは何事か、思わず近侍の者を呼びつけそうになって、寸でのところで声を呑んだ。


 書簡の表面に、自然なシミが不自然につけられている。

『彼ら』の手による偽装だった。


 七年前に廃止されたはずの、王家直属情報部の『印』。

 王弟は最初、目を疑った。


「……まさか、これは……」

 だが、間違いようがない。


「なぜ、いまさら? 何があった?」

 彼は羊皮紙を手に取り、懐かしむように指でなぞった。

 慌てそうになる自分を抑え込み、内容を確認していく。


「・・・こんなことで?」

 内容は、彼らが動くには小さすぎる地方トラブルだった。

 本来なら、王家が動くまでもない。


 地方担当官の仕事でしかない。

 役所の中級役人で片付くようなものだ。



「では、なぜ……?」


 王弟は心底不思議そうに首を傾げた。

 十年以上、出ていなかった癖だった。

 二十代ならともかく、四十路でやるのはどうかとやめていたものだ。


「七年間、彼らは一度も力を使わなかった。王家を動かすことも、国を揺らすこともできたのに・・・」

 『彼ら』は王家の秘密の任務にも従事していた。

 その気がありさえすれば、王家の権威を失墜させることすら可能な存在。


 それが『動いた』という事実。

 何があったか、どんな理由があるかは知らないが、『何とかしろ』ということだ。


 拒否はありえなかった。

 そもそも、知らされれば結論は一つの案件。

 悩むまでもない。


 王弟はそのまま、公的な書類用の紙を引き寄せ、羽ペンを走らせた。

 通常なら、こんなことで使う書類ではない。

 代官への裁定を定め、担当部署に通知する。


「これを、届けてくれ」

 近侍の者に、書類を手渡した。


「・・・・はい」

 近侍の者は、あまりにも下の役所宛のそれを、一瞬だけ眉をひそめて受け取った。


 王家は彼らを従えない。

 彼らの意思に介入することもできない。

 だが——


 彼らが一度動けば、王家は動かざるを得ない。


 それが、かつて『影』と呼ばれた者たちの力だった。


 ◇


「やれやれ、なまっとるわい」


 白いひげの老人が、肩をぐるりと回した。

 着ているのは、最近の若者がピクニックに行くような軽装。

 どこかの隠居が、孫と散歩に出かけた帰り道——

 そう言われれば誰も疑わないだろう。


 ここが王城の中庭でなければ、の話だ。


「……そのようですわね。下っ端の小娘ですら気づいていましたよ」


 孫娘が、呆れたように言う。

 王弟の執務室に“潜入”したことを指している。


「そうじゃろう。うむ。なまっとる」


 老人は困ったものだとつぶやくが、その目はまったく困っていない。

 気づかせたのも、ここでのんびりしているのも、すべて“わざと”だ。


「おじいさま、また動き出すおつもりですか?」


 歳を考えてください、と孫娘——現王のメイド長が目を細める。


「なに、『仕事』はせぬよ。老後の趣味の運動にすぎん。少なくとも、現王のメイド長様の手を煩わせたりはせぬ」


「なら、いいですけど……」


 何をしているのか追及する気はない。

 ただ、余計なことをしないでほしい——

 そんな気配を残して、メイド長は肩をすくめた。


 そして、ふっと——『消えた』。


「……少し、腕を上げたようだの」


 老人は満足げに頷き、

 次の瞬間、自身もまた掻き消えた。


 風だけが、何事もなかったように中庭を吹き抜けていく。



 ——クアルトを、二年間も僻地にいさせたくない。



 ただ、それだけの理由で動いた『王国の影』。

 それが、彼らの意図とはかけ離れて事態を動かし始める。


「わし自身、またこんなことをするとは思っとらんかった」

 完全に引退し、『影』だったことすら忘れて『一介の年寄』となったはずだった。


 事実、クアルトが四歳になるまでは子守をするだけの『おじいさん執事』だったのだ。

 それが、『あの日』変わった。


 ずっと、感情を出さないことを気にかけていたクアルトが、突然、感情的になって、必死な様子を見せた『あの日』。


 あの騒動以来、クアルトは『ある人物』と同じ気配を放ち始めた。

 老人が幼い日に会った『あの人』。


 『影』の道を進むきっかけとなった、『あの人』と。

 それからは、クアルトの成長に全力で向き合ってきた。


「あの子の生末を見届ける。それが、わしの人生最後の役目だ」



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