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『時代遅れスキル『ゴーレム制作』専門の男爵家四男が、転生者の知識でそこそこ頑張るはずが、なぜか王弟に目をつけられてしまう話』  作者: 葉月奈津・男
第一部、使用人が『王国の影』でした

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第46話 『そこにある影』

2/2

 


「なんか…うまく行きすぎだな」


 地下通路を抜けた先、地下と空以外には外界と接点のない閉鎖された空間。


 静かすぎる。

 風の音すら、どこか遠い。


 高く突き出した岩壁に囲まれた狭い土地だ。

  カルスト地形の中に開けた場所。


 そこにゴーレム制作の要領で作り上げた町がある。

 ゴーレム制作で、土や石の形状を『コンテナハウス』にする。


 ただし、形が定まったところで魔力供給を停止。

 完成させずに終了。


 これを何度も繰り返して作った――仮設村、だ。

 岩壁に囲まれた狭い土地に、石と土で作られた“コンテナハウス”が整然と並んでいる。

 まるで巨大な積み木の街だ。


 食料は地下の坑道に保管している。

 ネズミには気を付けないといけないが、気温も湿気も問題ない。

 町全体に供給するためのものを根こそぎ盗んだのだから、避難してきた鉱夫と人質、そして奴隷たちを養うぐらいのことには無理もない。


 もちろん、銅鉱石と精錬された銅もだ。


「ここでどれくらい暮らす予定ですか?」

 周囲を見渡しながら、アンナが聞いてくる。


「最長で二年。最短で・・・十日かな」

「ず、ずいぶん幅がありますね」

「『外』の動き次第だからな」

 クアルトは肩をすくめて見せた。


 こればかりは、『僕』はもちろん『オレ』でもどうにもならない。

 外の『お偉いさん』の判断にお任せだ。


「なるほど」

 それはそうだ、とアンナが頷いた。


 視線が、ほんのわずか鋭さを増した。

 横で、アーネストがそっと身をひるがえす。

 気配が、ふっと消えた。


 ほんの数秒、彼は『そこ』からいなくなっていた。


 ◇男爵家騎士団◇


 クアルトの兄は、馬上で風を受けながら、遠くに見える山影を見据えていた。

 その背後には、朝日を浴びてきらめく槍と旗の列。

 領都から進発した五百名の騎士団、各地の巡視の兵たちが集まり六百になろうというところだった。

 それが、今や八百を超えていた。


「また増えましたね」

 副官が馬を寄せてくる。


「そうだな。北の町から二十、東村から三十。皆、志願兵だ」

 兄は頷いた。


 クアルトが、使用人たちに託したという『お願い』が結果を出していた。


 志願兵は無給だ。

 食料すら持参が基本。

 それでもやってくる。


「兄上の名を借りて、領内の者たちに声をかけてもらってます」、そう言っていた。

 あの子は、自分の手では何も命じなかった。


 その権限がないからだが、ただ、『お願い』したのだ。

 そして今、その『お願い』に応じた者たちが、馬を駆って集まってきている。


 自分の名で呼びかけられた——そう言われていたが兄は信じていない。

 いや、もちろんウソではないだろう。

 クアルトの名での呼びかけなどしていないはずだ。


 だが――


「皆、何かを感じ取っているのだろうな」

 クアルトに。


「それは・・・危険な発言ですよ?」

「いや——」


 兄は静かに言った。


「危険ではない。真実だ」

 今の自分に、こんなに人を集めるような『力』はない。


 ◇


 代官は『名もなき村』にたどり着くことはなかった。

 男爵家の軍が、すでに接近していると聞いたところで、残っていた兵も逃げ出したからだ。

 ただ一人、馬に乗っていた代官を千人以上が取り囲んで取り押さえることになる。


 千を超える兵に取り囲まれ、代官はようやく馬を降ろされた。

 剣を抜くことも、命乞いをすることもできず、ただ震えるだけだった。


 クアルトの兄は、馬上から静かに告げた。


「——王都まで送る」


 それだけだった。

 彼には裁く権限がない。

 他家の代官を断罪するのは、領主でもなく、ましてや代理である自分でもない。

 王国政府の裁きに委ねるしかなかった。


 代官は口を開いたが、声にならなかった。


 代官は縄で縛られ、護送の列に組み込まれた。

 その背中は、もはや権力者のそれではなかった。


 ◇


 王家の裁きは、驚くほど早かった。

 代官が王都へ入るより先に、判決は下されていたのだ。


 領地の責任者である『パーヴェル子爵』からの報告よりも早く、代官の部下たちが王城へ駆け込み、救済を求めたのである。


 ——このままでは家に帰れない。

 ——代官の暴走に巻き込まれたくない。

 ——どうか、我らを守ってほしい。


 その訴えは、代官の暴政と越権行為を裏付ける決定的な証言となった。


 こうして、代官の罪は『本人が到着する前』に確定した。


 ◇影◇


「・・・いいんですか?」

「なにがじゃ?」


「怒られますよ?」

「誰にじゃ?」


「わかっているでしょうに」

「ふん。なら、わかっていることをいちいち聞くな」


「・・・しりませんよ」

「老い先短い年寄りの、唯一の楽しみなんじゃ。放っておけ」


「短くはなさそうですし、がっつり巻き込まれてますが?」

「気のせいじゃ、どっちもな」


「『深淵』と呼ばれたお人が、ずいぶんこだわりますね」

「こだわり、か。いいや、ただの郷愁にすぎんよ。たぶん、な」


 そう言って、老人は似合っていないキャンプウェアの襟を、指でなぞった。



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