第44話 『盗掘』
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作戦決行日になった。
そんなはずはないのだろうが、どこか、空気が静かに感じた。
まず行うのは食料品の運び出しだ。
坑道からの最後の掘削はプロの職人である鉱夫の方々にやっていただく。
食糧倉庫の床に穴を開け、そこから食料を根こそぎ運び出すのだ。
「こ、こんな簡単に掘れるものなの?」
なんか、すごく簡単だったのだ。
チーズを切るかのような滑らかさで岩が固まりで剝がされる。
その固まりを横において、次を剥ぐ。
彼らにとって岩は“固いもの”ではなく、“割る対象”なのだ
何度か同じことが行われたと思ったら、空洞に出ていて、食糧の山が少し崩れ落ちてきていた。
「土じゃなく石だからだな。しかも鉱石を掘るんじゃなく割るだけだ。鉱山夫って言うより石切職人の技だが、俺らにもこれくらいやれるさ」
鉱夫代表に鼻で笑われた
そういうものなのか?!
違う気がする。
とはいえ、現実は変わらない。
いろんな疑問は脇へ置いて、することをする。
「荷車を用意。全部積んで!」
積むというか、実際は『落とす』だ。
ジンク製荷車を、掘った穴の下に停車。
荷台に食料を滑り落とし、落ちない程度まで積み重ねる。
あとはストーンゴーレムとロックゴーレムの蟹に引かせて運ぶだけだ。
「簡単にできるもんだな」
目を点にした鉱夫代表が、目をぱちくりさせている。
たいした手間もかからず、食料庫を空にできたのだ。
「なら、撤収です」
「おお。穴を埋め戻すんだったな?」
「地下に坑道があるとは知られたくないです」
地下に逃げたと知られたら、当然探索されるからな。
蒸発したかのように密室で消すことで、地上で盗まれたと思わせる。
そうであれば、『目』は地上に向いて地下は安全圏となる道理だ。
そもそも、イーアンも言っていたように、地下からのアプローチだけではピンポイントで通路を繋げることなど不可能という常識がある。
鉱山の町なのだから、町住民の大多数に街頭インタビューをしても「あり得ない」が多数を占めるはずだ。
結果、『地下に消えた』よりも『何らかの方法で地上を運び出された』と考える。
なんだったら、『空を飛んだ』の方がまだ信憑性があると考えるかもしれない。
どちらにせよ、地下は安全だ。
「スライスしたものを逆手順で戻すだけだ。難しいものでもねぇよ」
軽く言い放って、言ったとおりに戻していくのを見守った。
地上から見た時にどう見えるかはともかく、下から見る分には継ぎ目もわからないほどきれいに戻っていた。
ちなみに、ちゃんと地上からの見た目も確認してある。
『鶴』を一羽残したのだ。
『視点共有』で見たのだが、埋め戻すところを見て位置を覚えていたつもりなのに継ぎ目を見つけられなかった。
これなら、地下に目が向くことはないだろう。
「……これ、本当に人間の技術なのか?」
思わずそんな言葉が漏れた。
魔法だろ!
ツッコみたかったが、さすがに自嘲した。
続いては銅鉱石だ。
これについては、少しばかり楽をさせてもらった。
「『ゴーレム作成』」
山積みされた銅鉱石に手を向けて、銅を抽出。
【『カッパー・ゴーレム』を制作しました。】
ゴーレムを作る。
形状は、できるだけ大量の銅で一体を作りたいという思いから『百足』を採用した。
長く伸びる重い身体を、無数の足で支えて移動する。
『百足』以上に適した形状が他にあるだろうか?
銅鉱石から抽出された金属が、魔力に応じてうねるように形を変えていく。
まず一本の『胴』が伸び、そこから左右に細い脚が次々と生えていく。
金属光沢のある赤褐色。
光を受けるたびに、炎のようなオレンジと深い赤銅色が交互にきらめく。
「……おお、かっこいい」
百足の体は、節ごとにわずかに色が違う。
新しい銅の部分は明るく、古い銅の部分は少し落ち着いた色合い。
その『色の揺らぎ』が、逆に生き物らしさを強調していた。
背中には銅製の籠や箱がいくつも固定されている。
金属同士が触れ合うたび、カン、カンと澄んだ音が響いた。
百足は、その重い体を無数の脚でしなやかに支え、地面を滑るように進む。
その巨体は、まるで地面を滑る影のように静かだった。
たくさんある足で、きっちりと支えられていてる。
……これ、運搬能力めちゃくちゃ高いな。
『オレ』が冷静に評価し、『僕』はただテンションが上がっている。
もちろん、それだけではつまらないので『百足』の背中にはいくつもの籠や箱を乗せて、鉱石の運び出しを手伝わせた。
この籠と箱も、銅製である。
それでも足りない分は『ジンクゴーレム』たちにも背負わせたし、ジンク製荷馬車の残りも使って運び出した。
藍銅鉱と赤銅鉱はゴーレムにしていない。
『還元』があっても、魔力が足りなくなりそうだったのだ。
百足の背中に乗せて運びだしただけにしてある。
藍銅鉱は、深い青色が美しい。
光を当てると、まるで夜空の欠片のように輝く。
赤銅鉱は、赤みの強い褐色で、ところどころに金属光沢が走る。
どちらも魅力的だが——
「……これ、ゴーレムにしたら魔力が死ぬな」
『オレ』が即座に判断した。
『僕』はちょっと残念そうにしていた。
還元スキルがあっても、素材の魔力負荷が高すぎる。
だから、百足の背中にそっと積み込むだけにした。
百足は、青と赤の鉱石を揺らしながら、静かに坑道を進んでいく。
もちろん、運び出しに手が足りなそうだったら造るつもりはあった。
その必要はなかったけどね。
何とか足りたらしいから。
見る見るうちに倉庫が空になっていく。
実際には空ではなく、『銅』を抽出したあとの石の欠片が散乱しているのだが、それはもうどうでもいい。
『銅』がなくなったことは事実なのだから。
代官がどんな顔をするのか。
想像するだけで、口元が勝手に吊り上がった。




