第42話 『開通』
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翌日の朝。
イーアンの言葉通りにすべての地下道が開通した。
避難場所とすべき空間も完成している。
あとは、避難させる労働者と人質、そして奴隷の代表者を集めての会談を開くのみだ。
全員を集めてから『話し合い』なんて言っても、うまく行くはずがない。
まずは、各集団の代表者と意見のすり合わせを行う必要があった。
全員を一度に動かすのは危険だ。
まずは代表者同士で意思統一をしておく必要がある。
いざ、坑道から連れ出そうって時点で騒ぎを起こされたりしたら困るからだ。
一応、拒絶されることが無いよう下準備はするし、したつもりではある。
それでも、いざとなると不安に苛まれて突飛な行動をとる人間がいないとは限らない。
誰もが冷静沈着に動けるわけではないし、知性だけで動けるものでもない。
人間は感情の生き物だ。
日々の重労働でヘタったメンタルでは、「脱出できます」という言葉を素直に受け入れられないかもしれない。
クアルトはと言えば・・・例によって『オレ』に丸投げしている。
『僕』は引っ込んでいながら、こちらの動きをドキドキワクワクしながら見物するつもりのようだ。
子供かと。
いや、子供なんだけど。
「——というわけだ」
「そ、そんなことできるの?」
まず話を通したのはセティだ。
ジンクパイプでがっしりと作られた我が城での会談である。
まずは何よりも、この隠れ里の長に話を通す必要があったからな。
「すでに通路は確保した。避難先もだ」
この隠れ里のような場所への道を造った。
『鶴』で上空から壁の隙間にある空間の位置を確認。
イーアンに確認しながら手近で広さもある空間と坑道を繋げたわけだ。
その先には、大理石の建物——五階建てのアパート群——を作ってある。
空いている土地は岩の蟹に耕させて畑も作った。
完全な隠れ里となっているはずである。
単純に五百世帯は暮らせるはずだ。
住居が足りなくなるとか、生活に必要な建物があるとなれば、建てる余地もある。
もし土地が足りなくなれば、似たような空間はまだあった。
そそり立つ壁にトンネルを掘るだけでいい。
そもそも、そこで一生暮らせというわけではない。
長くても二年とかだろう。
計画通りなら、10日前後で事は動く。
手続きや調査が行われるとして、数か月も暮せれば用は足りるのだ。
「事実です」
イーアンが横から口添えしてくれている。
「信じるの?」
「坑道の連結や通路の掘削は私がしましたので」
信じるとかいう以前の話だと告げた。
「そ、そうなんだ」
混乱した様子で、頭を振るセティ。
どうやったらそんなことができるのかと言いたいのだろう。
だが・・・。
「それはわかった。で? 何をすればいいの?」
「へ? あ、あれ? もっと疑われるかと思ったんだけど?」
信じられないと拒絶されるかと思いきや、サラッと受け入れられて拍子抜けだ。
「いまさら騙す理由がないでしょ?」
「そうかもだけど……」
あっさり返されて、逆に困る。
「騙されているとしても私たちには何の被害も出ないからね」
現状すでに軟禁されている。
このままでは未来なんてないに等しいこともわかっているのだ。
尻込みする理由がない。
「あー、そうなるか」
「で? 何をすればいいの?」
同じ質問が繰り返された。
「とりあえず、他の人質の代表者との会合に付き合ってくれ。たぶん、君の両親なんだろ? 話を円滑にできるよう仲介してくれ」
村長の孫という理由だけで代表を押し付けられていると言っていた。
ならば、両親もそうだろう。
「ああ、そういうこと? あなたを信用に値する人物として紹介させたいわけだ?」
「そうだけど・・・言い方が・・・」
なんか、信用が無い人間をあるように言えって感じになっている。
「いいわよ」
腑に落ちない感じはあるが、確約は貰えた。
これで、とりあえず関係各位の一つとは話しを進められる。
◇
「そんな風に思ったこともあったよね」
うんうんと頷いてみる。
結果を言えば、一度の会合で全代表の同意を得られたのだ。
セティの両親は奴隷の代表とすでに気脈を通じていて、奴隷の代表と鉱夫の代表も連絡を取り合う仲だった。
閉鎖された空間で、同じ仕事に従事する者同士。
なにかと話が合うのはわかるが・・・ちょっと意外だ。
「監視者がいるわけじゃねぇからな」
鉱夫の代表。
髭面のおっさんが鼻を鳴らした。
各坑道の中間地帯にある広めの空間で、代表会議が開かれている。
話をするぐらいのことは、どうとでもなるのだという。
言われてみればその通りだ。
長い閉鎖生活の中で、彼らは自然と横の繋がりを作っていたらしい。
「で? 避難先を用意した、避難経路もできている。奴隷の首輪については、今まで通り銅の採掘をしていれば問題ない。そこまで状況を整えておいてまだ何かあんのか?」
全て揃ってんじゃねぇの?
そう問い質される。
この会合の意義の話だ。
「一つは、あなた方の同意を得たいいという点」
無理に引っ張る気はなかった。
納得したうえで動いて欲しいのだ。
「自己責任ってことだね。無理強いしたんじゃなく、自分で判断して従ったよね。なんかあってもその責任は自分でねっと?」
セティの父親が、笑みを浮かべたままで確認してくる。
端的に言えばそうなので、こっちは二の句が継げなかった。
「二つ目は?」
奴隷代表の疲れ切った中年男性が、話の続きを催促した。
そわそわと手足を動かしているのは、不安感と奴隷の首輪の制約のせいだ。
銅を採掘しているべきなのに何もしていないから。
この会議そのものが、彼にとっては時間との勝負だった。
「避難に際して食糧と銅鉱石のすべてを盗み出す計画を立てている。段取りはつけたけど、できれば『盗まれた』ではなく『消えた』にしたい。なにか策がないかと思って」
「盗まれた」では代官が逆上する。
「消えた」なら、判断を誤らせられる。




