第40話 『家系スキル』
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「普通じゃないんだな、やっぱり」
そんな簡単にできるものではないだろう。
「もちろんです。というか、坑道同士を地下道で繋ぐというのも、相当にムチャな話なんですけどね」
シレっと言って、肩をすくめて見せられた。
できるって言うからやらせていたのに、実は超難関事業をさせていたようだ。
言っといてよー!
「ネックだったのは、地中に居ながら目的とする地点あるいは地上にある建物の位置をピンポイントで把握、掘り進めることができなければならないってところです。二点で・・・地中と地上で連携しながら繋ぐ必要があるのですよ。通常は」
「あー、そっか。そうだよね」
大量の土を間に挟んでのことだ。
位置情報を俯瞰で確認できるものがないと、まず無理。
坑道同士をつなぐ場合はさらに深度も合わせなくてはならない。
三次元測定が必須になる。
地上と地下で確認しながら地道に進めるしかない。
地下道だけに!
「でも。それが可能ってことだよね?」
それが理由で『普通』はできないということは、『普通』じゃない要素があるってことになる。
「私には『家系スキル』がありましてね」
『家系スキル』。
その名の通り、特定の血筋の者にのみ受け継がれる産まれ付いてのスキルのことだ。
メルマルゴール家の難題にも続く『剣統士』は、環境によって「そうなるべくしてなる」スキルなのとの大きな違いになる。
有名なところでは隣国である『帝国』の皇帝が代々持つ『支配スキル』だろう。
自分より弱い者に問答無用で命令を実行させることができるスキルだと言われている。
本当かどうかは確証がないが、そんな噂がまことしやかに伝えられるほどの強力なスキルであることは事実だ。
内容はその『スキル』によっていろいろあるが、どれも強力なものとして知られている。
この国でも、『家系スキル』持ちは確認が取れたなら即刻、VIP待遇での士官が約束されている。
「そ、そんな人が、なんでこんなところに?」
どんなスキルかは知らないが、申請して事実と認められれば王都で何不自由なく暮らせるはずだ。
「もちろん隠しているからですよ」
「なんでっ!?」
叫んでしまった。
おかしいだろ!
「権力者が欲しがる人材っていうのは、なにかと物騒な環境に置かれるものなのですよ」
諦念の滲む顔で、イーアンは小さく笑った。
ちっとも面白くないって笑い方だ。
「祖父は『帝国』に住んでいました。あの国は特に『家系スキル』に執着していますからね。そりゃもう、下にも置かない待遇で皇帝の直属となったそうです」
ただし、その直後から引き抜きと暗殺の対象となり、平穏な暮らしとは無縁になったという。
当時、皇帝の座を巡って皇帝とその弟が血を血で洗う抗争を繰り広げていたのも運が悪かった。
皇帝の弟からすれば皇帝直属の部下は自分の配下にしたい、部下にできないならいない方がいい。
両親、イーアンの曾祖父母は人質に取られた挙句、従っていた皇帝の雇った暗殺者に殺された。
皇帝としては、部下が裏切る可能性をなくすためだったのだろう。
もちろん、自分の命令によるものとは知られないようにしたかったのだろうが、そんな醜聞を皇帝と争う弟が逃すはずもなし。
大々的に公表した。
皇帝とは、必要とあれば部下の家族をも殺させる非道な存在だと、命がけで仕えるに足る存在ではないのだと、世間に知らしめる好機となったのだ。
イーアンの祖父は、その事実を皇帝に確かめ、皇帝は事実を認めたという。
皇帝を信じられなくなった祖父は、自分は皇帝の元に残りつつも息子、『』の父を他国に逃がすことにした。
それは成功し、父は安全になった・・・りはしなかった。
『他国』、この国に来ても結局は『家系スキル』持ちだとの噂を消すことはできず、追いかけまわされた末、旅先で非業の死を迎えることになる。
「で、次は俺の番だってことで、一芝居打ったわけですよ」
あははっと乾いた笑い声をあげ、イーアンは左腕を上げた。
手首から先のない腕を。
「俺の家に伝わる『家系スキル』は『探知』。周辺のあらゆる状況、ものを察知して確認できる能力です。坑道内では絶対無敵の人間なんですよ。本当はね」
ま、まさか・・・。
「それ、わざとなのか?!」
周囲のあらゆる状況を察知できる。
当然、落盤になんか遭うわけがない。
「そうです。『探知』のスキル持ちが落盤で腕を失くすはずないですからね。『俺はそんなスキルを持ってない』という言い訳を、他人に信じさせるには充分な効果があるわけです。事実、事故があった後は周囲から友人や遠縁だと名乗るおじさんおばさんが大量に消えましたからね」
「それは・・・」
なんてあからさまな。
「おかげで今は自由の身ってわけでしてね。くくっ」
今度は楽し気な笑いが聞こえた。
手首から先を失くしていても、自由を得るための代償としては安いと、本気で思っているってことだ。
「父や母の死に様を知っているとね、これぐらいどうってことないんですよ。親父が知ったら『そんな手があったかっ』て快哉を叫ぶでしょうて」
そこまでひどかったのか。
「って、そこまでして手に入れた自由なのに、僕に知られていいの?」
他人に知らせてしまっては意味がないだろうに。
「そうですね。そうなんですよ。なんでなんでしょうね?」
いや。『オレ』に聞かれても。
「人質や奴隷、労働者を助けようとしているから、ですかね。直接的なメリットはないでしょうに」
メリットは全部兄上に行くようにしているからな。
クアルトには何の得もないのは事実だ。
「家のメリットにはなるし、僕は貴族だよ?」
貴族とは権力者だ。
さらなる高みを目指して暗躍し、足の引っ張り合いをする生き物である。
「それでも、ですよ」
なぜか、信用を勝ち得ているらしい。
『オレ』何かしたっけ?
それとも『僕』か?
わからないな。




