第38話 『手紙』
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「手紙か」
そう。
手紙だ。
配達人不要で相手に送れる、まさにダイレクトメールである。
今朝、朝食前に作戦計画案を書いていたのだ。
内容は。
『人質の居場所を特定できた』
「ほぉ。さらわれた甲斐があったな」
読みながら、兄上は呟きを洩らした。
聞いているクアルトへ、伝えてくれているのだ。
『無事に避難させる準備に入った』
「ほう?」
一瞬、訝し気に眉を寄せるのが見えた。
さすがに不審を買ったようだ。
戦闘を専門とする部下を一人も連れていないのに、そんなことが可能なのかと言いたいのだろう。
『近々、とある場所に匿う予定である』
「早いな。町に詳しい協力者でも見つけたのか?」
ある意味正しい。
イーアンは、この条件にあてはまるだろう。
『それと合わせて、物資格納庫から『銅』を盗み出す予定である』
「は? いったい、どうやって?」
とうとう、わけがわからないって顔になった。
なにしろ『銅』だ。
金属の塊である。
総重量の単位は数百『トン』を下ることはない。
人手をかけ、大規模に運び出すのでなければ不可能なことだ。
説明を求めてもできないから、とりあえず流すしかないけども。
ちなみに『銅』というのは鉱石のことだ。
精錬された『銅』のインゴットではない。
精製施設は商人の出資で他の場所にあるそうなのだ。
技術の秘匿他の理由によるものらしい。
以上。
とりあえずの現状報告。
そして。
今後の予測も記しておいた。
『人質が消え、同時に蓄えた『銅』も盗み出されたとなれば代官は慌てるであろう。』
「当然だな」
自然な流れだ。
『慌てた代官は『銅』を盗んだと思われる逃げた人質たちを炙り出すため、『村』を襲うことを考える。』
「『銅』と人質の行方を掴めないとなれば、そうなるだろうな」
捜索して何の手掛かりもないとなれば、最後の手段として打つしかなくなる手立てだ。
『領地の境界を越えての軍事作戦になる。』
「大事だな」
まさに!
だからこそ。
『迂闊な者には任せられない。』
「信頼できる。それこそ、自分の代理とも頼む部下がいればいいがな」
いるわけないだろうけどな、って言い方だな。
実際、いないだろうけど。
だから。
『自分で指揮をとろうとするだろう。』
「そうせざるを得ないだろうな」
他に選択肢はないのだ。
『メリマルゴール男爵家の領地に無断で、自ら軍を進めることになる。』
「見事に国内法を踏みにじるわけだな。言い訳のしようもない」
そのとおり。
『辺境の、存在が知られていない村への攻撃。メリマルゴール男爵家に対応はできないと代官は判断しているはずだ。』
「そうでなければ、こんな暴挙に出るはずもないか。だとしても、こちらが対応できなければどうにもならんぞ?」
他家の領地に進攻しようというのだ。
生半可な規模ではないだろう。
兄上が連れている中隊規模では手も足も出ない。
しかし。
『メリマルゴール男爵家の騎士団はすでに全部隊出撃済みである。』
「はあ?!」
寝耳に水と、兄上が目を剥いた。
周囲に人がいないせいで、ちょっと素が出てしまっているようだ。
クアルトが見ているってことも忘れかけているのではないかな?
まぁいい。
種は簡単だ。
『勝手についてきていた使用人たち。彼等に兄上の名による伝言を託して、帰してある。』
「ああ。彼等か。そういえば、街に入る直前くらいから見ていないな」
そう。町の手前での最後の野営時に兄上の名で、騎士団への救援要請を預けたのだ。
現在は当主である父上と次兄は王都に行っていて留守。
家に残っているのは三男だけだ。
この場合、騎士団に命令する権限は嫡男の長兄にある。
救援要請は確実に通るのだ。
あとあと、勝手に長兄の名を使ったことでクアルトが咎められる可能性はあるが、兄上が指摘しない限り表には出ないことなので問題ない。
『そんなわけで、メリマルゴール男爵家騎士団はすでに出撃済み。今頃は『村』を目指して進んでいるはずである。』
「用意周到だな。グレーゾーンをちょこちょこ踏み越えて、ギリギリアウトなことをしている気もしなくはないが・・・見逃してやる」
『成功したならば』でしょうけどね。
『失敗』の場合はすべてがクアルトの勇み足の結果と報告されるんだろうな。
まぁ。『オレ』自身もそう動くけど。
『兄上は、これと合流。
軍を率いての越境罪で代官の軍を包囲、捕縛する。
あとは、法に基づいて粛々と対応すればいい。』
「簡単に言ってくれるな」
苦いものでも含んだような顔で、兄上は笑みを浮かべた。
兄上の指が、紙を持つ手の中でわずかに震えた。
それが安堵なのか、緊張なのか、判断がつかなかった。
ああ。そういえば、これが兄上の初陣になるのか。
実戦経験がないのだ。
年齢的に出陣が可能な年齢に達していなかったからな。
さすがに初めての実戦がこれってのキツイか?
「メリマルゴール男爵家の嫡男として、恥ずかしくない働きをしてみせるさ」
おっと。
不安に気付かれたかな?
語気を強めて宣言された。
当然か。
一族の当主となるべき人物を、ちょいと舐めすぎたかもしれない。
頑張ってくれるものと信じよう。
で、だ。
最後。
『このメッセージは自動的に消滅する。』
「ん?」
意味が分からないって顔をされた。
うん。元ネタを知らないと、首を傾げるよな。
『ペーパーゴーレム』のスキルに『着火』というものがある。
元来が可燃性の紙をこすり合わせ、熱を生じさせる。
これによって着火したのち、燃焼を引き起こす。
そんな現象に起因するのだろうスキルだ。
つまり。
「うおっ! びっくりした!」
一気に燃え上がって消えるってことだ。
うん。うまくいった。
秘密のメッセージは読み終えたら即座に消えてくれることが望ましい。




