第37話 『鉱山町』
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「ん—————っ!」
思い切り背伸びをした。
やはり、寝床が違うと睡眠レベルが違う。
よく眠れた。
よく眠れ過ぎて『僕』がまだ爆睡している。
昨日は大活躍だったからな。
疲れもする。
隠れ里内のほぼすべての『枯草』を処理するとか、無茶しすぎだ。
でも、その甲斐はあった。
まさか、『枯草』でこんなものを作るとはね。
枯草を『ゴーレム』にしてみるなんて、『オレ』では考えつきもしない。
子供の発想力は侮りがたいな。
朝食は変わらず、スープのみだ。
今朝は根野菜すらなく、葉物野菜が散らされただけのものとなっている。
閉じ込められているのだから仕方がないことではあるが、パンは手に入らないらしい。
「すみません。配給が遅れているそうで、こんなものしか手に入りませんでした」
配給!
滅多に聞かない単語が出たね。
前世世界では聞く機会がほとんどなかった言葉だ。
『戦後かよっ!』と、脳内でツッコんでしまった。
意味は通じるし、適切な言葉なんだけどね。
で、配給だとするならば主食が根野菜なのも道理だ。
保存が利くし、一度に大量に運べるから便利なのだろう。
で、葉野菜はと言えば、自給自足品なのだろうな。
なんとか開墾できた畑で育てている『食べられる雑草』のことだ。
「充分だよ」
贅沢は言わない。
ちゃんと食べられているんだから問題はない。
正直、最悪一日一食なんてこともあると考えていたからね。
そうでないだけ、ありがたい。
「さて、と」
朝食が終わったところで、姿勢を正した。
あれから三日が経った。
そろそろ、兄上の方でも動きがあっただろうと思う。
連絡を取る頃合いだろう。
「それ、行け—!」
『ペーパーゴーレム』の『鶴』を2羽放った。
隠れ里を上空から眺めながら、宿屋を目指させるつもりだ。
町全体の偵察も兼ねてのものとなる。
隠れ里を上から眺めた。
高く突き出した岩壁に囲まれた狭い土地だ。
でも・・・。
「こうなっていたのか・・・」
ちょっとびっくりした。
岩壁の向こう側には、同じような土地が存在している。
まるで・・・って!
「そうか! カルスト地形だ!」
石灰岩があるんだから、当然考えるべきだったよな。
確か『石灰岩などの水に溶解しやすい岩石で構成された大地が雨水、地表水、土壌水、地下水などによって侵食されてできた地形』だったか?
こんなにきれいに壁が残っているのは奇跡とも言える偶然だろうけど、それで考えれば岩山の中にこんな土地があるのも理解できる。
「アンナ、地図貸して」
お湯が沸くのを待っているらしいアンナに声をかけ、地図を出してもらった。
鉱山となっている山の全容を確かめるためだ。
『鶴』を上昇させて俯瞰させる。
地図と照らし合わせながら見ると・・・大きな町がすっぽり入るくらいの広さがありそうだ。
そんな空き地に、仕切り板のごとくピナクルが連なっている。
隠れ里なんてものじゃないな。
岩壁の向こうに、さらに同じような窪地が連なっている。
まるで巨大な蜂の巣のように、山の内部が空洞化していた。
この様子だと、地下には鍾乳洞もあるかもしれない。
坑道が縦横無尽に走り、鍾乳洞もあるわけか。
おもしろい。
「いやいや、今はそれじゃない」
地形の面白さに浸りかけた自分を、首を振って止める。
危うく目的を忘れるところだった。
町を目指して進ませる。
それほど遠くもない。
3キロか5キロくらいだろう。
町が近づいてくると、比較的整っていることが分かった。
三階建ての建物が多いようだが、その全ての建物が整然と並んでる。
碁盤上に通っている道の両脇に、同じ大きさで同じデザインの建物が並んでいるのだ。
おそらく、鉱山の発見で急激に作られた町だからだろう。
数人から数十人が、思い思いにちらほら家を建てたのとは違うのだ。
数百、数千人の人々が押し寄せ、一気に作られた。
効率よく進めるため、画一的な町づくりが行われたのだろうと思われる。
パーヴェル子爵・・・いや、侯爵家が先頭に立って作らせた町。
それがペクンの町なのだ。
また、鉱山だけが突出している町であるがゆえに、町中の商店なども変わり映えしないものが多かった。
鉱山に関係する人しか住んでいないからだ。
『銅』を受け取りに来た商人が、ついでとばかりに食料を運んできて売る体制なので、客のニーズに頓着していないのだろうと考えられる。
他の町と離れすぎているせいだ。
比較対象がないので、住人は商人が持ち込む物を商人が付けた値段で買うしかない。
完全な売り手市場。
自由経済なんて名ばかりだな。
大通りを進んでいくと、見覚えのある高給宿が見えてきた。
「おう、おう。これはまた・・・くくっ」
思わず笑いがこぼれた。
『露骨』という言葉の見本かと思うレベルの監視が置かれているのだ。
というか、『見張り所』って、あんな目立つものだっけ?
某有名な時代劇だと、街の風景に溶け込むものだったと思うのだが?
真向いと裏側、二か所に一目でわかる監視員がいて見張っている。
「確実に動きがあった後だね」
そうでなければ、これほどわかりやすく見張ったりはしないだろう。
「さて。兄上の部屋はっと」
建物に近づいて、窓から中を覗いてみる。
たぶん、部屋は当初の予定通りだろう。
窓越しに兄上が見え、『鶴』を送り込んだ。
何やら書付をしていたらしい兄上が顔を上げ、視線を向けてきた。
「来たか」
見事に目が合う。
向こうからは見えていないはずなんだけどな。
「元気かい?」
その声に、ほんのわずか安堵が混じっていた。
聞かれたので、縦移動。
決めてあった合図だ。
縦移動は肯定、横移動は否定。
単純でわかりやすい。
残念ながら、向こうの声は聞けるがこちらの声を送る手段が見つからなかった。
マイクはつけられるが、スピーカーはつけられないってこと。
どちらかというと逆のような気がしていたが、現実はこうなのだから受け入れるしかない。
「そうか」
安心したように小さく笑い、兄上は『代官』との交渉状況を話してくれた。
今やっているように、『鶴』を兄上に持たせることができていれば簡単だったのだが・・・。
貴族の家や町の重要施設内には、魔力に反応する警戒装置がある。
『ゴーレム』に限らず、魔力を発するものを持ち込めない。
なので、『鶴』を潜入させることも不可能。
盗聴不能だった。
兄上の話を要約すると。
『代官』への挨拶から宿に戻った瞬間に、脅迫は始まっていたらしい。
その時点で、クアルトをさらうことに成功していたからだろう。
もちろん、脅迫と言っても『弟君には別の場所でペクンの町を堪能していただいている。お互いがお互いの利益になるように振舞おうではないか』というものだったそうだ。
ようは、『代官』側に有利になるよう協力してくれないと、弟のことは保証しないってことだ。
具体的には『準男爵』を申請したときには、賛成票を取りまとめろってことだな。
脅している形にはならないよう苦心したともいえるが、正直底が浅すぎる。
『オレ』は思わず肩をすくめた。
前世でもいた。
自分の権力を過大評価して、脅しが通じると思い込んでいるタイプだ。
ただ、兄上はメリマルゴール男爵家の嫡男ではあるが、当主ではない。
決定権を持っていないので、父上・・・メリマルゴール男爵に「よろしく伝えてくれ」と言われたのだそうだ。
「というわけで、一両日中に帰れと迫られてな。渋々帰り支度を進めている・・・ってことになっている」
なるべく時間をかけて用意を進めているんだろうな。
つまり、何もしていないってこと。
いいタイミングだ。
状況確認に使っていた『鶴』とは別の『鶴』に意識を移す。
わざわざ『二羽』飛ばした理由。
それば・・・。
「スキル『自開』!」
『ペーパーゴーレム』のスキル。『自開』。
自壊ではない。
壊れるわけではなく、開く。
ペーパーゴーレムとは何か?
折り紙である。
つまり、展開が可能なのだ。
「ん?」
兄上の前まで飛んで、『自開』スキル発動。
鶴がふわりと震え、折り目がほどけていく。
紙が花のように開き、裏面が兄上の前に現れた。
紙の裏部分が表に現れる。
それが何になるかと言えば・・・。




