第30話 『坑道』
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ランタンの光が、湿った壁に鈍く反射する。
空気は冷たく、重い。
足音が、やけに遠くまで響いた。
「ずいぶんきれいだね」
坑道を歩きながら、ふと思ったので言ってみた。
手元でれるましっくアイテムのランタンの明かりに照らし出される坑道は、予想外にきれいだったのだ。
幅はおよそ3メートル。
高さは2メートル。
クアルトでは届かないが、成人男性なら楽に手が届く高さだ。
案内人として紹介されたのは、『イーアン』。
ガタイのいい中年男性だ。
ただ、左手の手首から先がなかった。
元鉱夫の彼は事故で手首から先を失い、路頭に迷っていたのだそうだ。
それを、受け入れたってことらしい。
隠れ里の発展に寄与した労働力だそうだ。
『代官』側としても、無駄に殺すのも放り出してどっかで犯罪に走られるのも面倒だったのだろうと思う。
面倒なのは一つ所へ閉じ込めておこうってことだ。
「少しでも銅が残っている鉱石はないかと、欠片も残さず集めたからですよ」
素っ気ない答えが返ってきた。
「根こそぎってことか・・・だから壁も滑らかなんだね」
突起一つなく、滑らかな・・・まるでトンネルみたいな坑道が続いている。
「この壁の中には鉱石ってないの?」
そこまでして集めたのなら、この壁も崩しそうだけど?
「ありませんよ。実際はこの壁の表面より手前に結構な厚みを残して掘り尽くしていたんです。それでもまだあるのではないかと、掘ってみて見つからなかったので諦めた。その結果がこの奇麗な坑道です」
イーアンの声は淡々としていたが、その奥に“疲れ”が滲んでいた。
ああ。ギリギリを越えて探してみたんだね。
メロンの皮を本当に表面だけ残して削り取るようなことをしたわけだ。
「まぁ、まったくないのかと言えば、そんなわけはないわけですけど」
「そうなの?」
「そんなにきれいに『ある』場所と『ない』場所が分かれるなんてこと、あるわけないじゃないですか」
そりゃそうだ。
自然の山なんだからな。
「ただ、これ以上掘ると坑道の安全が担保できなくなりますし、コスト的にも無駄がでる。なので、現場の人間が『さらに掘ったが何も出なかった。時間の無駄だった』と報告したわけです。それが通ったので、それ以降は必要な耐久度を維持できるかなり手前で一度『掘り尽くした』と報告。そこから維持限界まで掘って見せて放棄しているわけです」
現場作業者の知恵だな。
見事だ。
っていうか、『代官』はあまり頭がよくないな。
「今、この鉱山で採掘されてる坑道は何本あるの?」
かなり大規模な鉱山で、いくつもの坑道があるとは聞いているけど正確なことはさすがに公表されていない。
「4本ですね。掘り尽くされて放棄されている坑道は・・・7本だったと思います」
「そんなにあるの?!」
「横にも縦にも広いので」
かなり広範囲に渡って鉱脈が存在しているようだ。
そのうえ、さらに鉱脈を探させていたとは。
どんだけ貪欲なのか。
「こちらが、最奥となります」
いくつもの分岐を無視しながら真っ直ぐ突き進んだのに、2時間もかかった先で告げられた。
相当に深いらしい。
なんとしても、銅を手に入れなければならない!
そんな執念を感じる。
「どれどれ」
辺りを見渡す。
確かに。
銅鉱石は見つからなかった。
少なくとも表面にはない。
欠片も残さずに集められたようだ。
ただし。
「・・・金があるんですけど」
呆然と呟いた。
『ゴーレムマスター』のスキル『材質鑑定』をかけたところ、ゴーレム制作に使える材料として『金、ゴールド』の表示があったのである。
銅にばかり目が行って、見逃されたのだろうか?
正直、『カッパー(銅)ゴーレム』を作れるかもとしか考えていなかったから、この発見は驚きだ。
とはいえ、考えてみれば不思議なことではない。
ここは鉱山の中。
銅鉱石だけの鉱脈なんてあるわけもなく、他の金属があることもそれはあるだろう。
だけど、まさか金があるとは思わなかった。
「金があるんですけどっ?!」
おもわず、叫んだ。
もちろん、量は少ない。
メチャクチャ微量だ。
だけど、この世界でも貴重な存在として知られる金である。
集めない手はない。
「えーと。不純物を取り除く・・・っつうか、不純物から金を取り出す感じかな」
なんというか、コーヒー豆からコーヒー成分だけを取り出すようなものかもしれない。
「あー。なんかの本でこんな表現があったな。『岩から水を絞るように』。これがまさに、それだね」
そんなことを呟きながら、スキル『ゴーレム制作』を実行した。
最も『金』の濃度が高い場所に手を当て、周囲の広範囲から『金』成分を引き寄せながら一つ所に集める。
集まった金を岩の中から引き出して、形を与え、文字を書き込みゴーレムとする。
初めて作るのだから、レベルは1。
使える文字は5文字となる。
『如是汝従者』と彫り込んだ。
基本である、『指示に従え』をより複雑かつ簡潔に命じる言葉として考えたものだ。
『如是』とは「そうであれ」という意味の仏教用語である。
馬車での移動中に、前世で読み漁った本を反芻して引き出すことに成功した言葉だ。
つまり、『お前は従いし者、そうであれ』ということ。
『誰に?』が入っていないが、そこは当然に制作者であるクアルトのということになるので省いても大丈夫だ。
【『ゴールド(金Au)ゴーレム』の制作に成功しました。】
「で、できた」
手のひらの上に、小さな小さな『亀』が乗っている。
純金製の『銭亀』だ。
大きさは2センチもないだろう。
それでも、ちゃんと手足を動かして動いている。
「くっ! 可愛すぎるっ!」
目出度い。
そして、愛でたい!
「と、アブナイ、アブナイ」
首を振って自分の暴走に『待った』をかける。
そんなことをしている場合ではないのだ。
まず、『ゴールドゴーレム』には初めから『スキル』があった。
『節制』。
なにかを、制限する能力。
そう思える。
もうひとつが、別ゴーレムの候補だ。
微量だった『金』とは別に、大量に存在するものがある。
『亜鉛』だ。
金の所在を確認したときから、わかっていた。
なにやら、鉱石の種類とか含有量とかのいろいろな情報が入ってくるが、その一つでこの辺りにはまだ亜鉛を含む鉱石が大量に存在しているってことがわかる。
『オレ』には亜鉛と言うと牡蠣に多く含まれるとか、トタンに使われている程度の知識しかない。
だけど、『材質鑑定』のおかげで特徴を知ることができるようだ。
基本的な知識は教えてもらえるらしい。
まず、かなり大量に存在することが分かった。
主な特徴としては融点と沸点が他の金属と比較して低く加工しやすいということ、そして錆に強く、他の金属が酸化した際には還元剤になるということが示されている。
「今のところ、重要なのは結構な量が放置されているってところかな?」
加工しやすいとか言っても、そんな設備はない。
現状だと、たくさんあって作り放題ってこと以外には意味がないのだ。
「よし。人型で作ろう!」
これまでは『紙』と『布』。
形を与えるにしても制限があった。
だけど、金属なのだ。
しかも、量もある。
ならば、使い勝手のいい大きさ、形で作るべきだろう。
「全身鎧の騎士をモチーフにして作ればいいな」
それなら、金属製ゴーレムでもあまり違和感なく連れて歩ける。
「面覆いをフルフェイスのヘルメットにしてしまおう」
どこで見て、呼吸しているのかってことになるが、そんなものは無視だ。
ヘタに切れ込みとか作って中を覗かれて「実は中身がありません」よりいいはず!
というわけで・・・。
亜鉛が、音もなく集まっていく。
まるで金属が“意志”を持っているかのように。
クアルトの指先が震えた。
——これが、金属のゴーレム。
『ジンク(亜鉛Zn)ゴーレム』を制作しました。
「完成だ!」
うれしい。
かっこいい。
身長二メートル。
ガタイのいい全身鎧の騎士が立つ。
足を踏み出した瞬間、金属の重い響きが坑道に反響した。
「す、すごいですね」
イーアンさんが驚いている。
スタイリッシュ過ぎたか?
「早いうえに精緻だ」
あー。速度とディティールのことか。
これはたぶんだけど、『オレ』の想像力の強さとそれに付随するデザインの多さが影響していると思う。
ゲームのキャラクターやアニメのキャラクターのデザインが知識として存在している。その中から選べばいいから楽に作れるのだ。
0から設計しなくていいし、それが動く様子をイメージしやすい。
だから早い、そして細部にまでこだわって作れる。
あと、『僕』が子供で物事を柔軟に受け止められるからというのもある。
『オレ』の持つ知識や概念に抵抗感がないからできることだ。
それだけではない。
当然に、ゴーレム制作の副産物。
体力と魔力の上乗せがある。
基礎ステータスが上がっていた。
力と耐久力だ。
ゴーレム単体にしても、強い。
レベルはまだ1だけど、耐久力は高いし攻撃力もありそうだ。
これが10体いれば、たいていの敵とは戦える気がする。
勝てるかと聞かれると苦しいけど、状況を整えさえすれば五分には持っていけると思う。




