第29話 『少女』
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「あ。メリマルゴール男爵家の四男、クアルト・メリマルゴールだ。よろしく」
貴族の子女として完璧な挨拶を送らせていただいた。
「っ?! こ、この状況でよく挨拶なんてできるわね——っていうか、男爵家? え? 貴族?」
「はい。貴族ですよ。四男なんで家督とは関係ないですけど」
「ああ、四人目・・・え? 四人目?」
どうしたのか、目がまん丸くなった。
アンバーの瞳が奇麗だなとか考えてみる。
周囲ではアンナとアーネストも袋から出て身繕いをしていた。
よかった。
ケガはないらしい。
あとは・・・鉄格子があるね。
うん。やはり、閉じ込められている。
「ま、まさかと思うけど」
目の前の少女が震えながら、クアルトを凝視してくる。
異世界らしく整ったイケメン顔に惚れでもしたのだろうか?
七歳だけど。
どちらかというと『お人形みたい』に見えてるかな?
「川向うにある『村』に行ったことがあるなんて言わないわよね?」
「隠し鉱山のある村だね? 君たちはその村の家族なのかな? やっぱり?」
「くっ。なんで知ってんのよ」
えっと。その顔は驚いているときではなく、怒っているときの顔ですよー?
怖いのでやめてほしいです。
「はぁ、まぁいいわ」
軽く微笑んだままで様子を見ていると、少女はため息をついて胸を押さえた。
少し落ち着く必要があったらしい。
「私は『セティ』。その村で村長をしている者の孫。で、ここの一応は代表者。よろしくね」
手を差し出されたので、反射的に握手を交わした。
だけど。
「村長の孫ってのはいいとして、代表者? 君が?」
ここがどんな場所かはわからないが、彼女はどう見ても10代前半。
一団の代表者を務めるには無理がある気がする。
「村長の孫だからって理由だけで押し付けられたのよ。まぁ、こんなところに閉じ込められていてやることなんてないから、私みたいなのでも務まっちゃうのが問題よね」
軽く肩をすくめてみせる。
だけど――
『オレ』は彼女の背後からの『気配』に気づいていた。
ここにいる『村人』たちは、彼女を大切にしている。
潰れないように、「あえて責任を押し付けている」のだ。
「銅鉱山にある坑道の一つよ。鉱石が枯渇して放置されているところに無理やり居住空間作ってある・・・収容所? そんな感じのところよ」
「鉱石が枯渇・・・え? 廃坑?」
そんな話は聞いていない。
今もじゃんじゃん銅鉱石を王家に売りつけているはずだ。
「坑道の一つって言ったでしょ? 他ではちゃんと稼働しているのもあるわよ。まぁ、全体的に採掘量の減少が見られるらしいけど」
ふむ。
減ってはいるのね。
まぁ、掘れば減るよね。
鉱石だって無限じゃないんだから。
「とりあえず、居住区へ案内するわ。こんな穴の中じゃ、気が滅入っちゃうもの」
「?」
思わず首を傾げた。
坑道に閉じ込められていたら、『穴の中』以外ないのでは?
「こっちよ」
不思議に思っていると、先に立って歩かれたので慌ててついていく。
「なるほど」
案内された先を見て、納得した。
確かに、穴の中以外があった。
坑道の途中が崩落しているのだが、その向こうに開けた土地があったのだ。
切り立った岩山に囲まれた狭い土地だ。
崩落した坑道の向こうは、妙に静かだった。
風がない。
空気が淀んでいる。
それなのに、日の光だけがやけに眩しい。
空を飛べない限り脱出は無理な感じだが、日の光は当たる。
それに狭いとは言っても、見た感じ50人ぐらいいる人々が暮らすには充分な広さがあった。
石を積んで作ったらしい家の周囲には、畑のようなものもある。
鉄格子で閉じ込められているのを見ていなければ、隠れ里に来たとでも思うかもしれない。
「最初に閉じ込められた人たち——ま、私の両親も含むんだけど——彼らが放り込まれたときにはここはなかったらしいわ。閉じ込められて、しかも数日どころか年単位で閉じ込めておくつもりだと気が付いて必死に逃げ道を探して・・・ここにたどり着いたんですって」
「逃げ道はなかったけど、なんとか暮らせる環境は得られたと?」
「そういうこと。そこからはこの『村』? の発展にまい進したらしいわ」
「逃げるのは諦めたんだ?」
「ええ」
「なぜ?」
監視もいないようだし、逃亡を考えないなんてないと思うけど?
「あのねぇ」
はぁ、とあからさまにため息をつかれた。
「ここにいるのが全員だと思う?」
「あっ・・・そうか。別のところにもいるのか」
ここで問題が起きれば、そっち。
そっちで問題が起きればこっち。
人質になにかされるわけだ。
「そうよ。私がここにいて、両親はそっちにいるわ。川向うの『村』にはおじいちゃんね。しかも、自分たちだけならともかく、村の人たちがみんなバラバラになっている。何もできないわよ」
「あー。そうなるか」
悪辣だ。
最悪に悪辣だ。
質の悪いことに効率重視で、無駄な残虐性はない。
これは確かに、「何もできない」な。
「えーっと。逃亡はできないとして、あとは何ができないのかな?」
「できないこと?」
首を傾げられた。
曖昧過ぎるか。
「そうだな・・・坑道の中の探索とかはしても大丈夫かな?」
いま、『オレ』がしたいことはそれだ。
それが禁止されていなければ、とりあえずそれをする。
他の禁止事項についてはその都度確認すればいい。
「ああ。それならいくらでもしていいわ。掘ってもいいわよ。ここを見つけられたあと徹底的に調査が入ったそうなの。ここ以外に外へ繋がる場所はないと確認できているんですって」
安全は確認済みか。
まぁ当然そうなるわな。
なので、下手に騒がない限りは放置と。
「食料なんかは?」
「定期的に補充されるわ。さっきのあなたたちみたく、前触れもなく入り口に放り出されるの。服とか薬とかの必要なものは申請書いて鉄格子のとこに置いておくと、忘れた頃に届くわ」
『制限はあるが悪くない生活』、か。
「なるほどね。なら、僕はちょっと坑道の探検に行ってくるよ」
セティと、そばで話を聞いていたアンナ、アーネストに告げた。
「は?」
セティに睨まれた。
「他にすることある?」
食料は届けられるようだ。
当然だろう。
大切な人質に餓死なんてされては困るんだから。
つまり、畑を作っているのは必要に迫られてではなく暇つぶしのはずだ。
衣食住に不満はあっても困窮はしていない。
それなら、遊んでいても問題はないだろう。
クアルトは『ゴーレムマスター』だし。
「・・・ないわね」
「だよね?」
・・・・・・。
・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「・・・わかった。坑道に詳しい人を案内に付ける。それが条件よ、いい?」
かなり長い沈黙の後で、許可が出た。
何をそんなに考えていたのか。
まぁいい。
こちらとしては文句のない条件だ。
案内と言いつつ監視なんだろうけど、そんなことは気にしない。
「ありがとう」




