第26話 『村の秘密』
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「こ、鉱脈?」
何のことですかな?
そう言いたげな顔ですっとぼける村長だが、ムダなことだ。
掘削現場はもうわかっている。
例の建物の中に地下への入り口があるのだろうことは明白。
自供を待つまでもない。
これから現場を抑えに行けばいい。
「村の南西にある縦に細長い三角形の建物です」
副官に場所を伝えるだけのことだ。
「ま、待てっ!」
村長が慌てるが、騎士団で副官を務める者が相手では力不足。
すぐに撥ね飛ばされる。
「待ってくれぇえぇぇぇぇぇっ!!!」
魂の叫び。
村長の、年老いて枯れた体から出たとも思えぬ絶叫。
悲壮感漂う叫び声に、一つの可能性が思い浮かぶ。
「副官殿!」
今まさに外へ踏み出そうと言うところで制止した。
「何か?」
使命感に燃えた瞳に射すくめられそうになるが、耐える。
7歳の子供ならそのまま失神してもおかしくないが、こちらもそれどころではない。
「5分だけ時間をくれ」
気合を込めて申し入れる。
現状、『オレ』にもクアルトにも副官に指示命令を出す権限などないのだ。
副官が、チラリと上司である兄上を見る。
「任せてやれ」
兄上は認めてくれた。
時間がない。
「村長。聞いての通りだ。5分しかない。すべて話せ。さもなくば、手遅れになるぞ」
「す、すべて・・・はっ、て、手遅れとは?」
すべて話せという言葉に動揺した村長だが、それより気になるのは『手遅れ』の方だったようだ。
「この『村』に接近中の一団がある。この者たちが、我々のいるうちに到着すればどうなる?」
嘘ではない。
事実、一団はいた。
鉱脈があり、掘削が進んでいると知った時点で、『鶴』を周囲に放っていて発見した。
まだ一、二時間はかかる距離ではあるけれど。
「あ、あぁ」
ブルブルと震え出す村長。
答えてはくれないようだ。
ならば、しかたない。
『オレ』が懇切丁寧に解説してあげよう。
「まず間違いなく戦闘になるな?」
その一団は領内の人間ではない所属不明の一団で武装もしているからだ。
「人数では拮抗しているようだ。だけど、戦闘が専門の者は少ない。戦えばこちらが勝つ」
向こうは敵がいるとは思ってもいないが、こちらは敵が来ると知ったうえで用意ができる。
奇襲が確実に成功するだろう。
被害は出るかもしれないが勝利は確実だ。
「彼らが帰らなければ、どうなる?」
間違いなく、この一団は元居た場所には帰れない。
そうなったら何が起こるのか?
「や、やめてくれ。頼む。みんな、みんな殺されてしまうぅぅぅぅぅ」
慟哭。
まさにそんな声。
予想が当たっていたようだ。
「人質を取られているのですね?」
「そうじゃ! 息子夫婦と孫が『ペクン』の町で捕らわれておる。村の者たちはみなそうじゃ! 銅鉱石を渡さなければ、殺すと脅されておる! ノルマを果たさなければ痛めつけられる! 助けてくれぇぇぇ!」
「逃げてきたわけではないのですね?」
逃亡を図ったのなら家族を残すとは思えないし、家族を捕らえたのなら逃亡を許すはずもないのだ。
人質にして「戻れ」と命令すればいい。
それをしないということは、逃亡したのではなく——。
「わしらは山師じゃ。鉱脈を探して歩くのが仕事、わしらは逃げたのではない。人知れず鉱脈を探し出して鉱石を掘り出して来いと命じられたのだ。見つけてからは、掘り続けろと命じられ、働かされておる!」
「人質は間違いなく無事なのですか?」
すでにいない、または閉じ込められてボロボロなのでは?
「監視はついておるし自由はないが、それ以外は悪くない生活ができているそうじゃ。二か月に一度、数人だけ連れて来て会わせてくれる。それゆえ、わしらは奴らに逆らえぬのだ」
なるほど。
悪辣なやり方だが、効率のいい方法を使っているようだ。
人質が辛酸を舐めているのなら、いっそ一思いにと暴発もできる。
だが、安全に生活できているとなると反抗できない。
「兄上、ここは一度撤退を」
村を出ることを提案する。
「どこまでだ?」
開拓村まで戻るのかと聞いてくるが、首を振った。
「昨夜の宿営地まででいいでしょう。僕をそこへ置いて兄上たちだけが、ここへ様子を見に来たのです」
「ほう。そうなのか?」
「はい。で、先ほどの村長の説明を受けて興味をなくして帰ったのですよ。税の取り立てはしないでやるから、支援がなくともがんばれ、とね」
きっと、村長が思い描いていたのは、この展開だっただろう。
「そのあとは、予定通りに『ペクン』への『遠征』に戻るのです」
「ああ。なるほどな。『遠征』に戻るわけか」
「はい。あとは、向こうの出方次第ですね。たぶん、今頃は歓迎の準備に大忙しのはずですから」
こういうことになっていたとなると、相手は焦っているはずだった。
クアルトの『ペクン』町への出入りを許可するにあたって、疑心暗鬼にかられたことが予想できる。
もしかしたら、バレたのではないか?
その調査に来るのではないか? と。
完全な誤解なわけだが、場合によると向こうはすでに何らかの策謀を練っているかもしれない。
ならばどうするか?
なにも見なかったことにして領都に帰るか?
敢えて敵の懐に入ってみるか?
逃げる選択をする兄上ではない。
ならば、敵のテリトリーに飛び込むまで。
「どんな対応が考えられる?」
授業中の教師の口調で兄上が問いかけてきた。
可能性を挙げてみろということだ。
「この村で何も発見できずに立ち去ったことで、恐れるに値せずと放置するかもしれません。または、それも演技かもしれぬと思い、過激な手を打ってくるかも」
「過激な手とは?」
「一番ありそうなのは、僕を人質にすることではないですかね」
人間は成功体験を信じる。
ここまでうまくいっていた方法を、繰り返すことは充分に考えられることだ。
「ふっ、その覚悟もあるということか?」
「あはは。兄上の弟ですよ、僕は」
「わかった」
「村長!」
会話を打ち切り、村長を見据える兄上。
「は、はい」
「聞いての通りだ。うまく誤魔化すがいい。あとは今まで通りだ。我々は自分たちのことで手一杯だからな」
「わ、わかりました」
ちょっぴり失望の色を見せながら、のろのろと頷いている。
「まぁ、もっとも。相手の動きによっては、奴らは自滅するだろう。そしたら、お前たちも助かるかもしれん」
あくまでも、自分たちのために動くが、それがお前たちを助けるものになるかもしれない。
安易に助けてやるなどとは言えないので、ここはこれが精いっぱいの慈悲だ。
希望を残しているのだから。
さすが、男爵家の嫡男。
見事なものだ。
「さて。それでは、さっそく撤退しましょうか?」
「そうだな。バルト、用意を」
「ははっ」
こうして、我々は名もなき村を後にしたのだった。




