第25話 『村長』
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騎士と馬車の一団がゆっくりと進んでいく。
もう、村はしっかりと視界に入っていた。
家々の壁の汚れが判別できる距離だ。
なのに・・・。
「人がいませんね?」
アンナが首を傾げる。
「斥候の報告だと、畑は村を挟んだ反対側に集中しているらしい。農作業中なのだろう」
アーネストがもっともな答えを出した。
こんな小さな村では、農作業も総出で行わないといけないのかもしれない。
年寄りも子供も、労働力なのだ。
事実。
村人はほとんどが畑にいる。
『ペーパーゴーレム』の『鶴』が三羽、三方向から監視しているので『オレ』にはすべて丸見えだ。
「ん? 見つかるぞ」
「え?」
さっと動いて、アンナが窓から村の方を窺い見た。
「子供がこっちに飛び出してくる。きっと馬車が目に入るだろう」
「あら、かわいい」
見えたようで、小さく黄色い悲鳴を上げた。
飛び出してきたのは3歳くらいの男の子。
草を編んで丸めたボールを追いかけて、家の陰から飛び出してきたのだ。
ボールを抱えたまま、馬車や騎士を見つめている。
——と、ボールを落として走り去っていった。
親か祖父母、大人に知らせに走ったのだろう。
さて。
反応やいかに。
手に手に農具を持って押し寄せてくるのか、はたまた礼節をもって迎えてくれるのか。
乞うご期待。
「意外だったなぁ」
思わず呟いた。
騒ぎは起きなかったのだ。
村の長老だという爺さんが出てきて、丁重に村へと案内された。
武装集団に取り囲まれもせず、馬車を村の中央で止めることができた。
そこからは歩いて村長の家に向かう。
石を積み上げ、草で編んだ屋根をのせただけの家が見えていた。
おそらく、この中央の空間が広場であり、村の集会所も兼ねているのだろうと予想する。
村人を集められるような大きな建物はないのだ。
村長の家にある粗末な石のテーブルと石の椅子に座っている。
先ほどから兄上が主体となって村のこれまでのことについて聞いていた。
『オレ』はと言えば、末席に座って外の様子を『鶴』たちで観察しながら、話の要所だけを聞く。
この会談の主役は兄上であってクアルトではないのだ。
この村——名前はまだない。『外』と一切接触がないため名前を付ける意味がないのだ。
村人たちからすれば、この『村』が世界のすべてと言って差し支えないものだから。
——の成り立ちは事前に『オレ』たちが予想した通りのものだった。
パーヴェル侯爵家の圧政に嫌気がさして逃げ出した者たちが、勝手に村を作って住んでいたのである。
パーヴェル侯爵家が降爵して子爵となり、新たに興った『メリマルゴール男爵家』がこの辺りの領主となっていると知らせた時には驚きで目を丸くしていた。
そうかと思うと、顎が外れるほどの大口を開けて爆笑。
子爵家には恨み骨髄のようだ。
水源を見つけて住み着いたはいいが、何もない荒れ地だったため畑を作るだけでも一苦労。
最近になってようやく安定した収穫ができ始めたところだという。
確かに。
不格好な畑で作物が育ってはいる。
ただし、種類は少なく、量も多いとは言えない。
冬に餓死者を出さないで済むかどうかといったところだろう。
しかし。
・・・・・・・。
『オレ』は首を傾げた。
村の人数と時間に比して、少し遅すぎやしないか?
発展の速度が、だ。
もう少し整備されていていいと思うのだが・・・。
「諸君の努力には敬意を払う。だが、支援はできない。かわりに——」
税の免除を確約する。
そう言おうとした兄上を『オレ』は制した。
「兄上、少々お待ちを」
「っ! ——と、なんだ?」
一瞬、怖い顔で睨まれたが、クアルトの顔を見た兄上は、少し驚いた顔をしたあと平静を取り戻して問いかけてくる。
それには答えず。
じっと村長に視線を注ぐ。
「うまく誤魔化せると思ったのですか? 我々を年若だからと舐めすぎてやしませんか?」
我々、とりわけ兄上のことだ。
兄上に無言のまま了解を取った『オレ』は、村長を睨みつけてザラついた声を出した。
7歳の子供に似つかわしくない声だが、この場合は仕方がない。
ある意味、恫喝が必要そうだからだ。
「何のことかね?」
わからないって顔をしているが、明らかに顔色が変わった。
表情も引き攣っている。
感情を完全に隠したつもりなんだろうけど、全然隠せていない。
何年も閉鎖された村にいるので、感情や表情を隠すのが下手になっている。
「・・・」
「・・・」
そうと気が付いた兄上と副官の眉がわずかに上がったのだが、村長はそれにも気が付いていないようだ。
「この村の人数とだいたいの構成はすでに確認しています。村の規模もね」
構成というのは年齢と性別のことだ。
これで大体の労働力が分かる。
「この村ができてからの年数も、確認できました」
たった今、村長が話したばかりだ。
「労働力と年数に比して、あまりにも畑がおざなりです」
指摘してあげる。
「そ、それは・・・それは我々が農民出身ではないからで・・・」
「ええ。そうですね。僕もそのことを忘れてました。危うく騙されかけた理由です」
騙されかけたと言ったところで副官の目がギラリと光った。
長老の顔を睨みつけている。
兄上は何も言わず、ポーカーフェイスで村長を見ていた。
『すべて分かっているが、ここは弟に任せる』という態度だ。
慌てたりすると体面が悪いからな。
「村の端にある放棄されたかのようにも見える建物。あれは何ですか?」
「ああ、あれか。あれは単なる農具入れ——」
なんてことはないと笑い飛ばそうとしているが、そうはいかない。
「へぇー。農具入れねぇ?」
確かに、見た目からはそんな風にも感じられる。
打ち捨てられた感が半端ない小さな建物なのだ。
「ずいぶんと大きいんですね?」
「は? イヤイヤ、かなり小さくて大して物も入らんですよ」
そんなことはないのだと、再び笑い飛ばそうとしているが、ムダだ。
「人間が十数人も入って、数時間作業ができるのに?」
「っ?!」
びくって身を震わせた。
やっぱり、まったく感情を制御できていない。
「侮っては困ります。僕はこんな姿だし、兄も成人はしていない。でもね、貴族なのですよ?」
爵位を持つというのは伊達ではない。
幼い頃から徹底した教育を受けさせられるのだ。
知識、教養、礼儀作法。
しっかりと叩き込まれる。
例外はいくらでもあるけど、メリマルゴール男爵家ではそうしている。
「さっきから僕が黙っていたのは、その建物が何なのかまではわからなかったからです。でも、今はわかる」
実際は、最後まで口を出す気などなかった。
だけど、『鶴』からの映像を観察していて新事実に気が付いたので黙っていられなくなったのだ。
建物からは『土』が運び出されていた。
どういうことか?
考えて出た答えは『掘っている』だ。
穴を掘っている以外に土が出る理由はない。
そして、穴を掘っている理由と言えば——彼らはもともと何者だったのか?
「この下、鉱脈があるんですね?」
「クッ!」
「なっ!」
村長が顔をしかめ、副官が腰を浮かせた。




