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『時代遅れスキル『ゴーレム制作』専門の男爵家四男が、転生者の知識でそこそこ頑張るはずが、なぜか王弟に目をつけられてしまう話』  作者: 葉月奈津・男
第一部、使用人が『王国の影』でした

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第23話 『地図3』

1/2

 


「え?」

 指が止まった。

 指そうとした位置の北側、はっきりとした印がある。


「村の表記ですな」

 ごついおっさんが、唸る。


「どういうことだ?」

 兄上が目を鋭くした。


「どちらの地図が正しいのでしょう?」


 もんだいていき。

 むずかしい表現だけど、なんとなくはわかる。


「この、地図はどうしたのだ?」

 兄上が聞いたことの無いような低い声を出した。

 ちょっと怖い。


「アーネスト。僕の使用人が持ってた。パーヴェル子爵家所有の地図」

「パーヴェル子爵家の? あ・・・、そうか」

 アンナやアーネストがパーヴェル子爵家から出向してきていることを思い出したようだ。


「まさか」

 青い顔でゴツイおっさんが声を落とした。


「なんだ? バルド。なにか思い当たるのか?」

「ええ。少し、お借りしても?」

 地図を指されたので、頷いて差し出した。


 でも、ゴツイおじさんが見たのは地図の中身ではなく、地図の裏だった。

 熱心に見つめている。

 そして・・・。



「はぁ」

 ため息をついた。


「どうした?」

「おそらくですが、正しいのはこちらだと思います」

 もっているパーヴェル子爵家の地図を示して見せる。


「なぜ、そう思う?」

「地図の作図された日付ですよ。ある事件の半年前になっているんです」


 ある事件?


 なんだかわからず、首を傾げてしまう。

 だけど、兄上は思い当たったようだ。


「もしや、『例の』事件か? パーヴェルが侯爵から子爵に降爵されたという」

「そうです。降爵により領地の一部が召し上げられ、当時活躍した騎士爵から男爵に昇爵したメリマルゴール男爵に下賜されました。あるいは、王家も知らない村が存在していたのでは?」


 んー?

 むずかしそう。

 交代っ!


 『僕』が引っ込んでしまった。

 もう少し頑張ってほしいものだけど。

 仕方ないな、7歳だし。


 話の内容は理解できた。

 引っ込んではいたが、聞いていたからな。

 ようはパーヴェル侯爵家が領地を奪われて子爵となり、その土地を拝領したのがメリマルゴール男爵家。

 この所領変更の際に故意か不慮の偶然か、メリマルゴール男爵家に伝えられないままで放置された村があったのではないかってことだ。


 なるほど。


 それなら確かに、二つの地図が存在する理由は説明できる。


 説明『は』できるけど。


「なんで、こんな場所に?」

 再びの問題提起。


 パーヴェル子爵家の領地から離れすぎているのだ。

 現在の西のはずれの町から川を挟んで、さらに遠く離れた場所にある。

 なぜこんなところに村が作られたのか?


「むっ・・・そう、だよな。バルド、わかるか?」

 副官を見る兄上。

 知恵袋として信頼が厚いようだ。


「・・・この辺りは当時『西端地(さいたんち)』と呼ばれていて、不毛の地として放置されていました。何をするにも不便だったからです」

「それは、今もだな」


 まっさらな土地過ぎで、なにをするにも初期費用がでかすぎるのだ。

 掛けるだけの見返りを見込めないと、手を出しにくい。


「ですが、一度だけ注目を集めたことがあります。今にして思えば、この地図が作られた前年から3年前ぐらいの話ですね」

「・・・どう考えても、それだな。なにがあったんだ?」


「事の発端はパーヴェル子爵家・・・いえ、当時は侯爵ですか。鉱山労働者に過度の労働をさせて暴動が起きたことでした」


 鉱山。

 銅鉱山のことだ。


 まさに今、『オレ』たちが向かっているペクンの町がその鉱山町だ。

 だからこそ、子爵家の領地から見ても辺境なのに存在できている。

 子爵家が裕福なのはここの『銅』のおかげだからな。


「暴動か、よほどひどい扱いをしたのだろうな」

「はい。奴隷どころか、牛馬にも劣る扱いで働かせたと聞きます。これをパーヴェル侯爵家は力で弾圧。労働者たちのまとめ役数十人を処刑したとも言われました」


 ん?

 なんか引っかかる言い方だな。


「言われた?」

 そう。それ。

 おかしい。


「侯爵家が非公式にそれを認めたのですが、不思議なことに処刑した形跡は見つからなかったのです」

「数十人もの処刑なら、地元の住民たちが目にしただろう。知られずにはできないはずだ」

 遺体の処理だけでも大変な手間がかかる。

 埋めるにしろ、焼くにしろ、だ。

 人目につかずにはできない。


「そうです。ですので別の噂が立ちました」

「噂、か。流れからして『処刑したと言っているが、実は逃げられて追跡できていない。逃げられたなどとは言いたくないので処刑したと言っている』ってとこか?」


「ご賢察です。まさにその通りですよ。で、世間はこちらの噂の方を信じました。なにしろ、処刑なんてするはずがないからです」

「当たり前だな。労働させていたのだ。一人や二人、首謀者を見せしめに殺すことはあり得るが数十名はない。奴隷落ちさせた方が都合もいいしな」


 この世界にも奴隷制度がある。

 ただし、認められるのは法を犯した犯罪者に対してのみだ。

 犯罪者を収容する施設に金をかけるより、奴隷の首輪を作る方が安上がりで、労働力として利用できるからである。


 ちなみに、借金の場合は人の嫌がる公共事業・・・ありていに言えば糞尿処理や埋葬作業などに当たらせることで返済を促すことになっている。


 この話の場合。

 暴動を起こした理由はともかく、起こしたという事実からして犯罪奴隷落ちは免れない。

 誰にも文句を言わせずに奴隷にしてしまえたはずなのだ。

 熟達した鉱夫を奴隷にして働かせられる好機だったはずである。

 それを『全員処刑しました』はおかしすぎだ。


「で、逃げた先とされたのが・・・」

「この辺り、か」

 逃げやすかっただろうからな。

 だけど・・・。


「それだと、村の表記が地図にあるのがおかしくなるね?」

 子爵家が認めるはずがない。

 突然口を挟んだクアルトに、兄上と副官がハッとしたように振り返った。


「確かに」

「おかしいですね」


「というわけで、見に行きませんか?」

 すっ、と北西を指さす。

 地図が正しいなら、この先に『村』はあるはずだった。


「・・・ふっ。『遠征』らしくなってきたな」

 ニヤリと兄上が笑う。


「面白くなってきました」

 同じように副官も笑った。


 なんだ。

 意外といい主従関係を築いているじゃないか。

 男爵家嫡男という立場にふさわしい将器を持っているようで、安心した。



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