第22話 『地図2』
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馬車の旅一日目は、予想外の『追っかけ』に出くわしたり、『ペーパーゴーレム』の使い道を新たに見つけたり、スキルの確認をしたりとなかなかに有意義なものとなった。
とはいえ、正直に言って馬車に揺られている状況というのは退屈極まる。
『僕』は完全に寝てしまっているくらいだ。
昼食前までは、馬車の窓にしがみついて外の景色を眺めていたんだがな。
昼を食べてお腹が膨れたら、あっという間に寝てしまっていた。
『追っかけ』連中が無駄に世話を焼いたせいでもあるだろうけど。
ちょっと食べ過ぎたようなのだ。
屋敷から離れたせいで『追っかけ』共もクアルトも、気が抜けているのかもしれない。
本当なら『オレ』も寝るべきなのかもしれないとは思う。
頭の中には実質50歳手前の『オレ』がいるとはいえ、クアルトの身体は紛れもなく7歳なのだ。
木製でクッション性皆無。
そんな乗り物に一日中揺られるというのは、負担がでかすぎる。
眠れやしないがね。
「あれ?」
妙なことに気が付いて、声が漏れた。
「どうかしましたか?」
アーネストが『オレ』の手元を覗き込んでくる。
彼から借りた地図を眺めているところだったのだ。
「ここ」
気になった部分を指さした。
今まさに移動している地域の地図なのだが、なぜか『村』の表記があったのだ。
「こんなところに村があるなんて聞いたことないよ?」
「そんなはずは・・・この地図はパーヴェル子爵家の書斎にもある正確な地図なのですよ?」
子爵家の書斎にある。
つまりは正規の調査をされ、正式に書物として認められたものということ。
それなのに間違いがある?
ありえない。
いや、そうだよ。
荷物を引き寄せて、メリマルゴール男爵家の書斎から持ち出した地図を開いてみた。
条件は同じはず。
もとより、こちらの領地のことなのだから、よその貴族が作らせたものより劣っていることはあるまい。
だが・・・。
「こっちには載っていないぞ?」
メリマルゴール男爵家の地図には記載がない。
ただの平野ばかりの地域となっている。
「どういうことでしょう?」
気になったのか、アンナも身を乗り出してきた。
・・・暇で舟を漕ぎかけていたからかもしれないけれど。
「どちらかが間違っている。それは確実なわけですが・・・」
アーネストの言葉にうなずく。
「問題は間違っているのがどっちなのか、だね」
正直、前者であるべきだ。
自分の領内の地図が間違っている。
そんなことになってはメリマルゴール男爵家の面目は丸つぶれである。
なのに・・・。
「心情としては、『村』があったほうが面白いと思ってしまうから、困ったものだ」
苦笑してしまった。
本音を言えば、あって欲しいのだ。
「幸いなことに、結論はすぐに出せますね」
「ああ」
その通りだ。
「確かめればいいだけだからね」
この『村』に行ってみればいい。
◇
「兄上」
二時間ごとの休憩時、兄を訪ねた。
「どうした?」
副官と話していた兄上が、少し驚いた様子で迎えてくれる。
クアルトの方から訪ねるというのはめったにないことだからな。
「実は、ご相談がありまして」
2割ほど演技を入れ、真剣に告げた。
「私は、席を外しましょう」
気を利かせたつもりなのか、副官が場を離れようとした。
「待て」
兄がそれを止めた。
その前にクアルトを一瞥して。
「ですが・・・」
クアルトを見て、なにやら口ごもる副官。
なぜに?
「気にするな。プライベートの話ではない」
ああ。兄弟での内輪の話だと思ったのか。
「え? そうなの・・・ですか?」
半信半疑、そんな顔でクアルトに視線を向けてくる。
「もし、プライベートな話であれば、お前が場を譲ろうとしたときに止めただろう。そこまで気にすることではないから大丈夫だと、笑ってな。だが止めなかった。なぜだと思う?」
「・・・わかりません」
数秒考えを巡らせたようだが、早々に諦めて首を振った。
自分の能力に一定の見切りをつけている人物なんだな。
たぶんだけど。
「お前がここにいていいかの判断を、俺に任せたのさ。つまり、まじめな話をしに来ている。そうだな?」
証明完了。
そんな顔で問うてくる。
その通りなので、思わず笑みが浮かんだ。
よく見ている。
「実は、そうなんです。まずは、これを見てください」
取り出したのは『メリマルゴール男爵家の地図』である。
「地図?」
「はい。僕たちは今、どこにいるでしょう?」
質問した。
右の人差し指を立てて。
なんか、すごく楽しい。
「それは・・・この辺りだな」
すっと、指を滑らせて兄上が応えた。
横で、ゴツイおじさんも頷いている。
『僕』の中のおっさんが予想した位置と変わりがない。
なんだ、わかるのか。
ついつい唇が尖りそうになるけど我慢した。
久しぶりに重要な役をもらえているんだから、ちゃんとしなきゃ!
『オレ』さんも言ってた。
『僕』が主役なんだって。
「では、こっちを見てください」
次に出すのは『アーネ』——アーネストから借りた地図。
「同じ地図だな」
兄上が首を傾げた。
「そうですか?」
「え?」
「僕たちはどこにいます?」
同じ質問をした。
「だから・・・」
さっきと同じ動きで、同じ位置を指さす。




