第20話『目標』
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旅立ちは、二日後だった。
急に決まったことだというのに、騎士団は当然のように支度を整えてくれたそうだ。
『常在戦場』。
いつでも動けるよう怠りなくやっているってことだろう。
移動指揮所的な扱いのものを筆頭にいわゆる箱馬車が二台、荷台だけの荷馬車が三台。
騎兵が6騎に歩兵が15人。
クアルトとアンナ、アーネストを含んで総勢30人での出発となった。
先頭は騎兵が三騎。
その次に歩兵五人が続き、御者台に馭者が一名、車内に長兄。
二台目の馬車も御者台に一名、車内にはクアルトとアンナ、アーネストが乗る。
この後方に歩兵五人と荷馬車三台が続き、最後に歩兵五人。
残りの騎兵は適宜周囲の警戒に当たる。
無難な態勢と言えるだろう。
「気を付けて行くのよ」
「がんばれー」
母と三男に見送られて出発だ。
父は『お披露目会』への参加申請やら何やらで、王都へ出かけた。
見聞を広めるためとの理由で、次兄をお供に連れて。
万一のために三男を家に残したうえで、息子全員に経験値を積ませるのが父の思惑だろうと思う。
「えーっと、休暇じゃなかったっけ?」
思わず疑問を口にした。
すさまじくジトっとした目になっている自覚があった。
町を出て二時間ほど馬車に揺られてきた先にある小さな村に到着したのだが、見知った顔が並んでいたのだ。
「もちろんですとも」
初老の男性が、白い顎髭をしごきながら「ほッほっほっ」と笑っている。
『レイモンド』。
クアルト付の執事長だ。
「皆、私服ですじゃろ?」
ほれほれと服を見せてくる。
確かに。
屋敷で会うときは隙のない執事服姿の彼が、だぼっとした締まりのない服装になっていた。
周りにいるのも普段メイド服なのにフリル付きの可愛らしい服装だったり、男装していたりしている。
全員が『クアルト付』の使用人で、本来なら『特別休暇中』のはずの全員が顔を揃えている。
「なんでこの村にいるの?」
ここはパーヴェル子爵領へ行く直線経路上で、それ以外に特徴のない村なのだ。
そして、通常のルートからは外れている。
なにしろ、クアルトが向かうのはパーヴェル子爵領にあって西のはずれにあるペクン町。
人の行き来のほぼない町なのだ。
子爵領へ行くのなら、もう少し南寄りに正規ルートがある。
駅馬車も存在しているから、帰省するのならそっちへ行くのが常道なのだ。
「せっかくの休暇ですからな。自然の中でキャンプでもしようかと」
「んなわけあるかーっ!」
思わず叫んだね。
こいつらにそんなアウトドア派の趣味なんてあるはずがない。
第一、この服装でキャンプとか!
自然、舐めんなっ!
どっからどう見ても、キャンプどころかハイキング・・・・いや。ピクニックすら無理な軽装なのだ。
ありえなかった。
「えっと。すまない。食糧は25人で一月分しか用意していないんだが?」
困ったように割って入ってきたのはプリム兄さんだ。
今回の遠征隊隊長である。
人の良すぎる柔らかな物腰で話しかけてきて、レイモンドに頭を下げている。
いやいやいや。
「頭下げなくていいですからっ!」
慌てて頭を上げさせた。
貴族の嫡男が弟の使用人に頭を下げるとかありえない。
「弟を心配してついてきてくれた人たちに失礼を働くわけにはいかない。屋敷の中ならともかく、遠征中ではね」
チラリと視線を動かして、周囲の状態を見ろと伝えてきた。
反射的に従うと——。
「・・・・・・」
ため息が出る。
村の住民が、何事かと顔をのぞかせている。
こんな状態で議論なんてできない。
するわけにいかない。
「なに。わしらは奇遇にも休暇中の過ごし方で意見が一致した者同士、誘い合って出てきただけですじゃ。貴族家の『遠征』とは何のかかわりもありませんので、お気遣いなきよう」
ほっほっほっと笑って、レイモンドは背を向けた。
自分たち用の馬車でも用意しているのだろう。
そう言えば、彼等には子爵家から出向してくるときに乗って来た馬車が三台ある。
たまに、馬だけ借りて遠乗りに出たりしていたから、それは間違いない。
そうか、あれを使って移動しているのか。
飾りもなにもない安めの馬車だったと記憶しているが、それだけに大きく頑丈そうだった。
あれなら、キャンピング馬車だと言われても納得できてしまう。
「何しに来たんだ? あいつらは」
まったくもう!
ぷくっ!
『僕』は頬を膨らませて腕を組んだ。
使用人がおかしなことをしていることにむくれている。
子供か!
ああ、子供か。
自分でツッコんで自爆してしまった。
声に出したりせず、胸の中だけであるのが救いだな。
「ムリはしないようにきちっと指導してくるようにっ!」
アーネストとアンナにきつく言いつけて送り出した。
レイモンドたちがキャンプなどと、似合いもしないことをやろうとしている本当の理由に気が付かない『オレ』ではない。
いくらコミュ障気味の引きこもりだったとはいえ、40年生きていたんだ。
クアルトを手伝おうということだろうってぐらいのことは察することができる。
一人になって手持ち無沙汰になったので、何気なく村の中を歩いてみた。
子供から年寄りまで、全員数えても100人いるかどうかの村だ。
これといって特別なものはなく、畑で野菜を育て、鶏を数羽飼っている。
そんな感じの『開拓村』だ。
『開拓村』。
大きな町や村で生まれた次男や三男が、自立するべく離れた土地に興す村のことだ。
農民にも貴族と同じか、それ以上に厳しい後継者問題があるのだ。
農地の広さには限界がある。
両親と長男一家が食べていくので精いっぱい、次男や三男にまで回す余裕はそう多くない。
ましてや、次男や三男が結婚して妻や子も養うなどと言い出せば破綻する。
一家全滅だ。
なので、ある程度大人になると自立せざるを得なくなる。
娘しかいない家に婿に入れればいいが、そんなうまい話そうあるものでもない。
結果、村を出るしかなくなる。
似たような境遇の者たちが集まって、農地にできそうな土地を開拓し始めるわけだ。
「川はないけど、湧き水があるんだな」
歩いてみて分かった。
村の北側に水の湧く岩場があったのだ。
地下水脈が通っているのだろう。
それに沿って掘ったのだろう井戸も、数個所に散見された。
平地があり、水があるなら、あとは地道な努力で畑は作れる。
今はまだ貧しくても、いずれは大きく発展できる余地があると思う。
「この辺りに穀倉地帯が出来たら、メリマルの町も安心なんだけどな」
領地の中心となるメリマルの町は、領主が住んでいることもあって発展している。
年々人口が増えているし、工業振興にも力を入れていた。
たそれだけに、だんだんと食料自給率が低下してきている印象がある。
正確な統計データなんて見たことはないが、人口の増加に農業地域の拡大が追いついていないだろうことは予想できるのだ。畑を作るって大変な労力だし、作ったからと言って即収穫があるものでもないからだ。
「畑、か」
ふむ、とあごをつまんだ。
ゴーレムで開拓ってできないかな?
土を掘り起こして、耕すくらいならできるのではないだろうか?
「・・・ゴーレムを作ってみてからの話だな」
じゃないと、捕らぬ狸の皮算用的な話になる。
まずは、巨大ゴーレムが作れるかどうかから始めなくてはならない。
「とりあえずの目標にしてみるか」
うまくゴーレムを使えたなら、この辺りの開拓を進める。
悪くない考えだと思う。
「それでいこう」
うんうんと頷きながら、『オレ』は地図を出す。
この村のある辺りから東が広範囲に渡って草原であることを再確認した。
起伏は少なく、平らな地面が広がっている。
林や森もない。
開拓の障害となるものがほぼない土地だ。
ただし、人もいない。
理由は、人の文化圏との接点が少なすぎるからだ。
北は山脈が聳え、北東には深い森。
西には領都『メリマル』の町があり、南に進めば王都まで続く道に出る。
東の子爵領に向かえば町もあるが、そこは子爵領から見ても辺境で僻地だ。
この村から東の東域は、いわば袋小路で閉塞感が漂う地形となっていた。
発展が著しく遅れている所以である。
人の往来がほぼほぼないのだから仕方がない。
「でも、穀倉地帯にできれば『』子爵家へ食糧を輸出して、かわりになんらかの商品や資源を輸入することが可能だ。物資の輸送が行われれば人の往来も増えるだろう。そうなれば・・・」
メリマルゴール男爵領東域の発展が望める。
ゴーレムで農地を開拓して、人を募集すればイケないだろうか?
やってみる価値はあるかも。
失敗したところで失うものはない。
「ゴーレムで農地開拓ができれば、だけどね」
ペロッと舌を出した。
子供の思い付きでしかないのだ。
いまはまだ。




