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『時代遅れスキル『ゴーレム制作』専門の男爵家四男が、転生者の知識でそこそこ頑張るはずが、なぜか王弟に目をつけられてしまう話』  作者: 葉月奈津・男
第一部、使用人が『王国の影』でした

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第18話『副ギルド長の思惑』

2/2

 


「失礼します」

 ラトアナの声に続いて扉が開いた。


 入ってきたのは報告通り、ちょっといい服を着た男の子。

 髪と瞳の色はメリマルゴール男爵の、顔立ちは奥方に似ている。

 確か、上の兄たちは逆だったはずだ。


 そういえば、先日の神託で『家系適性』とは違う適正になったという知らせを聞いていた。

 奥方の血が濃く出たのが理由かもしれない。



 『家系適性』というのは主に貴族や商家に存在する家や血筋に付随する適性のこと。

 表立っては言えないが、この領地で要職に就く者たちは少なからず安堵している。

 後継者争いが複雑にならずに済むからだ。

 四男の未来にとっていいことかは知らないが。



「どうぞ、おかけください」

 執務机から離れ、部屋の真ん中に向かい合って配置されているソファに移った。

 執務机に座ったまま話をするのは部下とだけだ、公式の客とは会議室が応接室を使う。ソファで話すのは非公式の客か、軽い商談の場合となる。

 今回は非公式で、間違ってもギルド全体を巻き込むような交渉にはならないだろうから、ここでいいはずだ。


「ありがとう」

 問題ない。そんな顔で頷いた『相手』が、軽く頭を下げてソファに腰かけた。

 やはり、『貴族』として話をするつもりはないのだと受け取った。

 一緒に入ってきた女性は、何も言わず『相手』の左斜め後ろに立っている。

 間違いなくメイドの立ち位置、身体の前で手を交差させているのもそうだ。

 明白に『主は貴族です』と示してくれている。


「あ。僕の名前はアルト、この領内ではそれなりの影響力を持つ家の末子となります」


 『相手』が思い出したように唐突に名乗りを上げた。

 『影響力を持つ家』と言いながら、ファミリーネームは明かさない。

 しかも、『アルト』。

 非公式にではあるが、メリマルゴール男爵家の四男の愛称が『アルト』であることは知っている。


 もう、疑いようがない。

 彼は間違いなくメリマルゴール男爵家四男『クアルト・デ・メリマルゴール』様だ。



「冒険者ギルド副ギルド長の『』です。早速ですが、ご用件をお伺いしても?」

 性急すぎるかもしれないが、『貴族』との非公式な話し合いで雑談をする気にはなれないし、必要も感じない。ここは単刀直入で問うていいだろうと思う。


「ゴミ置き場での仕事なのだけど、ひと手間増やしてもらえないかと思って訪ねさせてもらいました」

「ひと手間、ですか?」


 どういうことだろう?


「ゴミ置き場で一時保管するゴミの中から、再利用可能な物を分別してほしいのです」


 再利用・・・聞き馴染みのない言葉ではあるけれど意味はわかる。『再度利用する』ということだろう。

 ゴミを再度利用する。

 一般的ではないが、違和感はない。


 昔からゴミ置き場に運び込まれたものを持ち出して使う者はいた。

 もっとも頻度が高いのは家具だろう。

 まだ使えるのにデザインが古いとかで、部屋の模様替えついでに処分される家具というのがある。

 これを使えるんだからと持ち帰る者がいるのだ。

 処分するゴミがその分減るので、取り締まったことはない。

 むしろ推奨している。

 だけど・・・?


「『ぶんべつ』と言うのは?」

 これも、聞き馴染みのない言葉だ。

 貴族ならではの言い回しなのだろうか?


「んーと。分離して別のモノにする、かな。簡単に言うと」

 分離して別の・・・?


「あー、と。わかるような気がします」

 何となく言おうとしていることは分かったと思う。ゴミの山の中から使えるモノを分離して、元々のものとは異なる形にすることで利用できるものに変える・・・ということだ。


 概念は理解できる。

 概念だけは、だ。

 具体的にどういうことなのかはさっぱりわからない。


「具体的には?」

 いろいろと考えてはみるが時間がかかりそうだし、出した答えが正しいとは限らない。

 直球で問うた。


「『紙』と『布』を、ゴミから分離してほしい」


『紙』と『布』?

 微かな違和感。


 なんだろう?

 考え込みかけたところで、はたと気が付いた。


 目の前にいる人物の姿だ。

 当たり前だけれども服を着ている。

『服』だ。

『布』ではない。


 つまり。

「『素材』ということですか」

 小さく頷きつつ、確認するべく口にする。

 『本』や『服』ではないのだ。


「そうです」

 我が意を得たり。

 そんな様子で少年が破願した。

「より細かく言うと、15せん・・・んんっ、15メルテ角で揃えてもらいたい」


 15メルテ角で揃える。

 なにかに使いたいから規格を統一したいということだろう。


 それだけ?


「他に条件はないのですか?」

 ゴミから『分別』するのだ。

 分別の条件があるはずではないのか?


「書き物をするわけでもないし、縫製して着るわけでもない。だから、インクで真っ黒でもいいし、色褪せしててもいい。ただし、油とか泥で汚れ過ぎていたり、生ごみの臭いが付いていたりするのは避けたいな」

「完全に『素材』として使えればいいと、そういうことですか」

「そうなるね」


 『素材』か。

 それでいいのなら、もしかして。

 ある考えが浮かんだ。

 ・・・いや、今それを口にすると「そこまではしなくていい」となりかねない。

 ここはこのまま流しておいて、あとから承諾をもらうほうが得策か。


「『紙』と『布』をゴミから分離して15メルテ角で揃える。それが『ひと手間』ですか?」

「そういうことだ。『紙』は10枚束を銅貨五枚で、『布』は銅貨八枚で引き取ろう。どうかな?」

 10枚につき『紙』は5レノン、『布』は8レノンで買うということか。


 5レノンは主食になる根野菜一個と同じ値段だ。

 すごく安い。

 一般的な労働者のひと月の収入が14万レノンだから、ないに等しい金額だ。

 だけど、ゴミを整理するだけで金になるのなら悪くない。

 分離する分だけゴミも減らせる。

 微々たる量だが、意義は大きい。

 こちらには十分にメリットがある。

 デメリットは・・・。


「先払いしていただけますか?」

 あとになって「やっぱり払わない」とか言われても困る。

 先払い・・・・予算を決めて前渡ししてもらいたい。


「・・・なるほど」

 こちらの意図が伝わったのか、少年は「ごもっとも」というように頷いて、顎に指をあてている。


「わかりました。とりあえず一月分として金貨を10枚渡しておきましょう」

 10万レノン。

 ほぼほぼ一般市民の一月分の収入となる。

 安くはない。

 むしろかなり多い投資だ。


「たぶん余るでしょうから、随時次月へ繰り越すということで」

 いいのかと思ったら、そう言葉を追加してきた。

 ひと月で終わるのではなく、かなり長いスパンで続けるつもりがあるということだ。

 次月以降は様子を見ながら追加していくのだろうな。


「『分離』したものはどうすればよいでしょうか?」

 ゴミ置き場に置きっぱなしにはできない。

 邪魔になるからだ。

 かといって、家に届けるわけにもいかないだろう。

 見え見えではあるが、一応「わからない」ことになっているのだから。


「あー、そうか。そうなるよね・・・」

 堂々とした態度でいた少年が、初めて困った顔になった。

 こんな顔をすると、年相応の男の子に見える。


「どうでしょう? ゴミ置き場の近くに空き倉庫があります。いずれ、敷地を広げる可能性を見越して押えている物件なのですが、当面は使いません。ここへ溜めさせていただいてよろしいですか?」

「おお。それは願ってもないね!」

 問題が解決したっ! と嬉しそうだ。


「・・・っ」

 ちょっと胸が痛む。

 幼気な子供を大人げもなくだましている気持ちになる。

 まっとうな交渉なのだと、声高に自分を叱咤して営業スマイルを維持した。


「・・・」

 メイドの目が、少し細くなったようだが、口を挟むつもりはないようだ。

 こちらの思惑に気が付いているのかもしれない。

 何も言わないのは、あえて見逃してくれるということだろうか?



「僕は数日中に少し遠出をします。一月後くらいにまた来ますね」

 依頼ということで、きちんと依頼書を書いてもらうと、少年はそう告げた。


 一月か、それだけあれば・・・。


「わかりました。一月後にまたお会いしましょう」

 立ち上がって、頭を下げる。

 少年は、楽し気に帰っていった。



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