第16話『ゴミ置き場』
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「何か用があるって?」
周囲を見渡して、どんな仕事をしているのだろうと考えていると声をかけられた。
年齢は長兄くらい。
部分鎧を付けて帯剣もしている。
胸元には『銅』のプレートが貼りつけられていた。
冒険者だ。
『銅』のプレートは三級冒険者、ランクで言うと最下位のGからEの間を表している。
ちなみにだが、ランクCとDが二級で『銀』プレート。ランクAとBが一級で『金』プレートとなる。その上に君臨するSとかSSが『プラチナ(白金)』、神話級の存在であるSSSは極級で『ブラック(黒曜石)』のプレートになるそうだ。
数年前までは『鉄』、『銅』、『銀』、『金』、『白金』、『黒曜石』。
この六段階で分けていたのだが、突然アルファベットのランク分けが生まれている。
理由は・・・怖いので考えない。
「管理は冒険者ギルドがしているのですか?」
行政担当者がいるはずだけど?
冒険者がいるとは思わなかったので戸惑った。
「ああ。下請けだな。担当部署から依頼を受ける形で低ランク冒険者に仕事を斡旋してくれるんだ」
雇用対策ってことかな?
公共事業だ。
予算を付けて金を町に下ろし、経済の循環を促すようなことなのだと思う。
クアルトの服に目を止めた彼は、少し目を細めつつも説明してくれた。
商人の子供が好奇心で入り込んだ、そんな感じにみられている気がする。
服を見れば、そこいらの庶民でないことは知れるからな。
「えーっと」
どう言えばいいのかな?
「ゴミ置き場の管理をしているのはわかりました。そこへさらに仕事を増やすことは可能でしょうか?」
「は? なにを言いたいかわからないぞ?」
やっぱり伝わらないか。
「今している仕事にやることを追加してもらえないかと思いまして」
「・・・おまえが?」
だよね。
ちょっと身なりがいいだけの子供が何言ってんの?
そんな顔をされてしまった。
当然である。
説明するべきか?
迷った。
実質的には何の権利もない四男だと、いろいろと気を遣わなくてはならない。
「・・・・・・」
横で、アンナがちょっと動き出しそうになるのを反射的に止める。
クアルトが暴走するのでさえも問題があるのに、その使用人が騒ぐのはダメだ。
「あー、いや、そうじゃねーや」
どうしたものかと思っていたら、先に冒険者のほうが頭をガシガシ掻いて首を振った。
「俺は依頼を請け負っただけだ。仕事の依頼に関してはギルドの受付を通せ。とくに、ゴミ処理関連は副ギルド長の管轄になっている。仕事内容に言いたいことがあるなら、そっちに行きな」
副ギルド長・・・サブマスの管轄なのか。
考えてみれば、現場の作業者に直接言ったところで無駄だよな。
「わかりました。冒険者ギルドを訪ねてみます。教えてくれてありがとう」
丁寧に頭を下げて、踵を返した。
大通りに戻って家へ向かう。
冒険者ギルドは・・・というか、この町の主要な施設はここから家の間に集中して存在しているのだ。
「ここですね」
歩いて数分。
アンナが立ち止まった。
レンガ造りで二階建ての建物が右側に立っている。
盾と籠手と剣を意匠にした看板。
冒険者ギルドだ。
生まれて七年。
一度も訪れたことはない。
馬車で二回ほど通り過ぎたくらいだろうか。
いや、四歳より前だと記憶があやふやだから、もう少し頻度が高い可能性はある。
大きく開け放たれた入り口にドア枠の真ん中だけにある扉・・・確かスイングドア? が付いている。
見た目の割に出入りが難しい扉を押して中へ入った。
日本語では『自在扉』とかいうもののはずだけど、全然自在じゃないな。
中は石の床にレンガの壁、ささくれ立った粗末な——それでいて頑丈そうな——テーブルや椅子があり、待機中なのか屈強な冒険者がちらほら見受けられた。
微かにアルコールの匂いがするところを見ると、昼を過ぎたばかりなのに酒を飲んでいるようだ。
厚い革鎧の擦れる音と、剣の鞘が椅子に当たる金属音が混ざっていた。
なんというか、今にもテンプレが始まりそうな空気である。
その中を、クアルトは平然と横切った。
真っ直ぐ受付に向かって歩く。
テンプレが起きる可能性を否定できたからだ。
フィクションの世界では当たり前のように乱闘が起こる冒険者ギルドだが、リアルでは絶対にありえない。
冒険者ギルドの受付に来るのは冒険者だけではないからだ。
依頼人も来る。
考えてみてほしい。
依頼人が持ち込む依頼には特定の植物や鉱物の採集はもちろん、隣町までの護衛なんてものもある。
酔って騒ぎ、暴力沙汰にまでなる様を見せられたら『護衛』してほしいと思えるだろうか?
絶対に嫌なはずだ。
そもそも信用できないだろう。
冒険者ギルドとて立派な客商売。
お客さんも訪れる受付前での騒ぎなど、ギルドが許すはずがない。
騒ぎが起きそうだと見た瞬間、不埒な冒険者は速攻で退場させられる。
もし、テンプレが起きるとすれば『明らかに駆け出しの冒険者』が相手で、『地下に訓練場がある冒険者ギルド』での『手合わせ』や『稽古』という名の『かわいがり』くらいのものだ。
クアルトは冒険者の格好をしていない。
むしろ、そこそこ裕福な商人の息子に見える。
ギルドからすれば、上客かもしれない相手。
テンプレの起きる要素など皆無だ。




