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『時代遅れスキル『ゴーレム制作』専門の男爵家四男が、転生者の知識でそこそこ頑張るはずが、なぜか王弟に目をつけられてしまう話』  作者: 葉月奈津・男
第一部、使用人が『王国の影』でした

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第14話『旅の準備』

2/2

 


 外出許可をもらうのと着替えのためにアンナが部屋を出ていった。

 さっそく、床で山となっている『クロスゴーレム』の残骸を使ってレベル2の『クロスゴーレム』を5体作り直した。

 レベル2になった代表一体を部屋に待機させて、残りの8体を連れて部屋を出る。


 10体目については『重ね着』で代表の経験値にした。

 掃除もさせずにいたので、経験値の残が0なのだ。


 予想通り、100の経験値が上乗せさるのを確認。

 あらためて、レベル2で作り直してある。


 身繕いをパパっと終わらせて、部屋を出た。

 向かう先は、もちろんマチルダ婆のところだ。


 目的は経験値稼ぎ。

 厨房に案内してもらい、『クロスゴーレム』たちに自室の要領で天井掃除を命じた。


 これで、買い物から帰ってくるまでにまた経験値を積める。

 もしかするとさらにレベルが上がるかもしれない。


 レベル1の『クロスゴーレム』は間違いなく『戦闘不能』になって、待機中の一体に経験値を積み上げてくれるだろう。

 5000まで行くかは、何とも言えないけれど。


 ◇


「久々だな―」

 街を見渡して、思わず笑顔になった。


 いい傾向だとは思う。

 前世のこともあって、引きこもり体質だからな。

 外へ出ることを『楽しい』と思えるなら、今度の人生はうまくいっている。


「お屋敷もいいですが、やはり街での買い物は心が躍りますねっ!」

 アンナも飛び切りの笑顔だ。

 後ろに護衛の騎士が二人、前のほうに一人いるが、治安のいい町でもあるので気にかける者はいない。

 ごく普通の喧騒があった。


「あ!」

『僕』が声を上げて駆け出した。


 なにかと思えば、『串焼きの屋台』だ。

 そういえばいつだったか食べていたな。

 アンナを急かして、買わせる。


 嬉しそうに口に入れた。

 そして・・・。


『あれ?』

『オレ』は内心で首を傾げた。

 噛むたびに、微かな鉄臭さが舌に残る。


「……うん、まぁ、食べられなくはないけど」

 クアルトは口の中の違和感を噛みしめながら、そっと紅茶で流し込んだ。


「どうかされましたか?」と、屋台の主が不安げに覗き込む。

「いや、ちょっと口の中が…」

 とっさにごまかした。


『オレ』が内心で呟く。


 ——そうだよな。


 貴族家のコックは、肉一つ焼くにも数日かけて下処理する。

 血抜き、臭み取り、熟成、火入れの温度管理……。


 今買ったものを今焼いて出すと、こうなる。

 それが『普通』なんだ。


『僕』が「おいしい」と言っていたのは、あの贅沢な手間暇の味だったのだ。

 手間をかけていない、この世界の食べ物の、それが現実。


「あっちにも何かある!」

 ビシッと指差して、クアルト――『僕』――が駆けだす。


 現状、『肉体』の制御は『僕』がしている。

 当然だ。

 本来は『僕』が、『クアルト』なのだ。

『オレ』みたいな、元人生の落後者がでしゃばるべきじゃない。


『僕』の感覚を共有しつつ、町の様子を観察する。

 体は一つだが、意識は二つ。

 便利というべきか、どうなのか。


 それにしても――


 確かに人は多い。

 とはいえ、日本の人口密度を知っているとどうにも少なく思えてしまう。


 古めかしいレンガ造り建物は趣があっていいが、取り立てて騒ぐほどの事でもない。

 残念ながら、獣人やエルフといった他種族っぽい人も見当たらないし……っておい、『僕』、慌てすぎだ。


 流れと言うほどでもない人流に、クアルトがさらわれていく。

 こういう街を歩くのに慣れてないのが丸分かりだ。

 危なっかしいが、だからと言って体の制御に割り込むのもいかがなものか。


「アルト様、こっちです」

 悩んでいると、アンナが捕まえてくれた。

 人の流れを器用に避けて。


「あ、ありがと。すごい人だね。ぶつかっちゃいそう」


 何か興味があるものを見つけたら、子供ってのは変な所で止まるんだよな……そんな世間知らずっぷりを隠す事なく披露しているから、……だろうな。


 前方からクアルトの左肩にぶつかる軌道で歩いてくる女が1人。

 アンナがクアルトの腕を引いてその女とぶつからせないようにする。


「危ないですよ」

「っと……クソ……」


 女はぶつからなかったクアルトと、腕を引き寄せたアンナをチラリと見た。

 あからさまな舌打ちを一つ残して立ち去った。


 当たり屋狙いだったのだろう。

 わざとぶつかって、ケガしたとか服が傷ついたとかわめいて金をせびる。

 この町は王国内ではそこそこに治安がいいと聞いているが、それでも、こんなことがまかり通る。


「あ! あれは何だろう?」

 また……走りだそうとする先の路地に1人。

 不審人物がいる。

 子供の注意力では気づかないだろうが、四十のおっさんには怪しすぎる。


 と、腕が伸びてきた。

 細くて白い、アンナの腕。

 クアルトを路地に着く前にがっちり捕まえ、抱えるように引き寄せる。


「飛び出すと危ないです」

「えっ!?」

「うおっ!?」


 アンナがクアルトを引き寄せたせいで、路地から出るタイミングを外した男が転がり出てきた。


「路地から出てくる人が居ますからね。気をつけて下さいよ」

「あ、うん……」


 クアルトに一声かけて、アンナは男の方に寄って声をかける。


「大丈夫ですか……? お怪我はありませんね……?」

「なんだこのア……!?」


 男は声をかけたアンナの襟首を左手で掴もうとしていたが、アンナはその手を右手で軽く跳ね上げると同時に掴む。

 同時に左手を相手の肘裏に掛け、自分の体でクアルトに見えないようにした上で相手の腕をひねり、相手の体勢を崩した。


『僕』には何が起きているかよくわからないくらいに自然な動き。

 ・・・護身術のマニュアル通りの動きだ。

 攻撃の動きではないから、剣術を習っているクアルトには理解しきれていない。


 転びそうになって動揺する相手の言葉が止まる。

 アンナは完全に転ぶ前に支え、視線を合わせてもう一度声をかけた。


「お怪我は、ありませんね?」

「お、おう……すまねぇな、あんがとよ……」


「お気を付けて」


 アンナの冷笑が怖い。

 さすがすぎる。


「さて…お買い物に行きましょう」

「あ、うん」



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