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『時代遅れスキル『ゴーレム制作』専門の男爵家四男が、転生者の知識でそこそこ頑張るはずが、なぜか王弟に目をつけられてしまう話』  作者: 葉月奈津・男
第三部 貴族

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第129話 『門前にて』

 


 コン!


 衝撃が来た。

 金属の胸当てが乾いた音を立てる。


「へ?」

 間の抜けた声が(右)の口から漏れた。

 胸に当たった『何か』が、カラランと回って止まる。


 シュー。

 奇妙な音を立てて、目の前の『アレ』がしぼんでいく。

 高さがなくなってゆく。


「あは、あは、はは、止まった、止まった」

 音の外れた笑い声をあげ、小さな人影が滑り降りてくる。


「ぎ、ギリギリでしたね」

 細身の騎士が、小さな影に寄り添った。


「早かったですな」

 落ち着いた様子の執事が、星を見上げている。

 早かったとは時間のことのようだ。


「あーっと、びっくりさせちゃったよね、ごめんね」

 近づいてきた子供が、丁寧に頭を下げた。


「……」

 門番たちは声も出なかった。


「なんだ?! なにがあった!」

 そこへ、別の者たちが駆けつけてくる。


 門の脇にある通用門から門兵たちが警戒の目を向けていた。

 そんな中、中級指揮官——十人隊長が前へ出てくる。


「騒がせてしまい、申し訳ない」

 即座に動いたのは騎士だった。

 完璧な礼法で頭を下げている。


「何者か?!」

 十人隊長が鋭く追及してくる。


「あー……」

 騎士は言葉に詰まっている。

 わずかに泳いだ目が、子供で止まる。


「僕たちはロマリスから来ました」

 騎士の視線を受けて、子供が話し出した。

 こんな状況なのに、高さも、大きさも『平時』の声で。


「職工組合から急ぎの注文を受け、届けにきました」

「職工組合か」

 そういうことかと十人隊長が息を吐く。

 慌ただしい出入りは珍しくない。

 夜も明けぬうちからというのは、本来許されないが。


「それはわかった。だが、なぜ、こんな騒ぎになった?」

 夜中。

 それも何やら奇妙なものでやってきた理由は何なのか?


「急ぎということで、僕のゴーレムできました」

 子供が、手を上げる。

 なるほど、あのへんなものはゴーレムだったのか。


「夜明けくらいにつくかなぁって思ってたら……なんか暴走しちゃって」

 後ろ頭を掻きながら、えへへと笑っている。


「早くつけたのはいいけど……こんなです」

 グチャグチャになった残骸を示される。


「ゴーレム、か」

 十人隊長が視線で一撫でして、頷く。


「制御できなかったわけだ」

 早く届けようと、何やら奇抜なものを作ったはいいが失敗した。

 そういうことなのだと理解する。


「いいだろう、実害もなかったことだし、不問にしてやる」

「ありがとうございます!」

 子供が深々と頭を下げた。


 執事らしい男が、そっと十人隊長に身を寄せて、手に何かを握らせている。

 かなり場慣れしているように見えた。

 どこぞの商会にでも所属しているのかもしれない。


「急ぐのだったな? 発注者は? 取り次いでやろうか?」

 握ったものを測るように手を振って、十人隊長が訊く。


「助かります! えっと、親方……あれ? 名前って何だったっけ?」

 子供が焦っている。


「『ドマス・フィオレン』でございます。組合長補佐の役職についているとか」

 主なのだろう子供の言葉を受けて、執事が答えた。

 なぜかその瞬間、十人隊長のポケットが膨らんだ——気がする。


 ともかく、騒ぎは収まった。

 門番二人が、いまさらながらに膝をついて震えている。


 呆然としていた。

 生き延びている事実に。


 ◇クアルト視点◇


「親方の名前なんて、よく知っていたね?」


 クアルトは聞いた覚えがない。

 なのに、レイモンドは当然のように答えた。

 面識があるはずもないのに。


「それが執事というものでございます」


 胸に手を置き、

 無駄に洗練された態度で一礼してみせる。


『オレ』なんかは、

 “絶対違うだろ”

 とツッコむところだが――


『僕』はしっかり騙されて感心している。


 無垢な子供をだます執事、アウトじゃね?

 まぁ、別にいいけどさ。


「お、おまえらか!?」


 門の横で待たされていると、

 息を切らした親方が走ってきた。

 門兵に連れてこられたらしい。


 最初は不審そうだった顔が、

 クアルトを見つけた瞬間、怪訝そうな顔へと変わる。


「夜明け頃につくはずが、夜のうちについちゃって、ごめんね」


 騒がせて悪いと頭を下げる。

 謝っているように見せかけて、

 状況説明を押し込む。


「あ? ……ああ、いや、早い分にはかまわねぇよ」


 困惑顔を経由して、

 いつもの職人顔になった。


「そうとなれば、さっさと働け」


 そう言って手を引かれる。

 さすが、機転が利く。

 門兵たちが、自然に道を開けてくれた。


 ゴーレムの残骸は、

 明日中に片付けることで話をつけた。


 ともかく――

 王都へは、たどり着いたのだった。



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