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『時代遅れスキル『ゴーレム制作』専門の男爵家四男が、転生者の知識でそこそこ頑張るはずが、なぜか王弟に目をつけられてしまう話』  作者: 葉月奈津・男
第三部 貴族

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第123話 『抽出』

 


 朝を待って、治療を行う。

 場所はセティの部屋だ。


「咳がばれた。治したいそうだ」

 起きたセティにイーアンが告げている。

 クアルトは扉の外で聞いていた。


「……医者を呼ぶの?」

 お金がかかる…とそんな心配をするセティ。

 彼女にとっての『迷惑』は、お金がかかるが大きいのだ。


 手間をとらせるとかなら、自分が他のなにかを手伝うことで穴埋めできる。

 でも、お金だけはどうしようもない。


 鉱山で不自由な暮らしをしていた子供らしいと言えばそうだ。

 だが、やはり痛々しい。


「いや。どうやらこの病気は医者じゃ治せないらしい」

「え?」

「ペクンの代官、あいつのせいなんだとさ」

 昔の人の知恵で回避されてきた病気が、それで広まっている。

 そんな説明がなされていった。


「だから、お医者さんも治し方がわからない?」

「そうだ。だけど、もしかしたらクアルトは治せるかもしれない」

「……それで、『治したい』なの?」


「そういうことだよ」

 理解できたタイミングで、クアルトが入っていく。

 連れているのはアンナだけだ。


 女の子の治療。

 男のレイモンドやアーネストは入れられない。


 クアルトは子供。

 イーアンは保護者。

 アンナは同性の監督者。

 そういう形で、ここに立つ。


「で、でも、迷惑――」

 拒絶しようとする。

 でも、そんなことはクアルトが許さない。


「その病気、たぶん、お母さんもだよ?」

 そして、王都にクアルトはいないよ?


「あ」

 セティがうつむいた。

 目から光が遠のく。


「迷惑なんてことはない。というか…こう言いかえればいいのかな?」

 彼女の気持ちを軽くするべく、『オレ』は少しきつい言葉を選択する。


「人体実験だ。君でやってみて、うまく行けばお母さんや他の人も治す」

 臨床試験なんて用語はわからないだろう。


 より確実に意味を理解できて、

 迷惑なんてことで遠慮もさせない。

 そのための言葉が、『人体実験』だ。


 あながち、嘘でもない。

 正直、クアルトの脇の下と背中は汗でびしょびしょだ。


「……そう……いう……こと?」

 意味がゆっくりと浸透していき、セティが顔を上げる。


 助けてあげる――

 だけではない。


 使わせろ――

 そんなニュアンスに縋りついた。


 そんな反応だ。

 我ながら最低な交渉だが、セティには一番気楽になれる話。


「なら、うん。いいよ?」

 しっかりとした目が、クアルトに向けられる。


 クアルトはセティの前に膝をついた。

 手を伸ばし、胸の前あたりにそっとかざす。


「……触らないよ。ただ、見るだけ」

 “見る”と言っても、目ではない。

 指先の奥で、何かがざらりと反応する。


 砂より細かい粒が、

 血の流れに乗って、

 ゆっくりと沈んでいくような感覚。

『オレ』は息を呑んだ。


「……やっぱり、ある。

 胸の奥と、肝臓のあたり……それから、足の神経にも」

 セティは不安そうに見つめてくる。

 クアルトは静かに頷いた。


「大丈夫。確認できた。

 これなら……抽出できる」

 クアルトは手をかざした。

 指先の奥で、ざらりとした反応が走る。


「……血の中にもある。

 でも、流れが速くて……掴みにくい」

 セティが息を呑む。


「大丈夫。血のは少ない。問題は――」

 胸の奥。

 肝臓のあたり。

 足の神経。

 そこだけ、砂が沈んだように重い。


「……こっちだ。

 深く沈んでる。

 これを……引き抜く」

 クアルトは息を整えた。


 皮膚も肉も、血管も関係ない。

 “砂毒”だけが、指先に反応する。


 ただし――

 タイミングは計った。


「?」

 セティが首を軽く傾ける。

 イーアンとアンナもちょっと不思議そうだ。


「いまっ」

『ここ』っていうタイミングでスキルを行使。


 血液中の砂毒が、沈殿しているものと重なる瞬間を狙った。

 可能な限り、砂毒の透過ルートを減らすためだ。

 同じ経路で、できるだけ多く通す。


 目を閉じ、視覚イメージを脳内でトレースする。

 ヒ素やカドミウムが『浮いて』くる様子が見えた。

 体組織が砂毒を避けるようにして道を作ってくれる。


 その道を通す。

 通れるように誘導する。

 皮膚も擦り抜けて、表面へ。


「出た」

 一番安全そうだった足からの『抽出』が終わった。

 少しだけ、黒ずんだ肌に、白い粉が浮く。

 毒とは見えない美しさだが、これが組織を破壊する原因だ。


「うん。できるね」

 頷きつつ、アンナに合図を送る。


 セティの足をイーアンにも手伝わせて持ち上げ、下には器。

 上からゆっくり水をかけて洗い流す。


 乾いた布では拭けない。

 空気中に拡散させてしまうからだ。


 濡れたタオルもよくはない。

 タオルをどう処理するかって問題になるからだ。

 なので、正しい処理方法は水に溶かし込んでビンなどに溜める、になる。


 ヒ素は特に水に溶けやすい。

 溶かしてしまってビンに入れ、水分を飛ばす。


「……これ、どうするの?」

 沈んだ白い泥を、

 アンナが静かに掬い上げた。


「乾かす。

 乾いたら、粘土で固めて……封じる」

 クアルトは答えた。


「昔は、そうしていたらしい。

 代官が、それをやめたんだ」

 イーアンがうなずいた。


 白い泥は、

 陽の当たらない場所でゆっくりと乾いていく。


「水に流せば、また毒になる。

 だから……閉じ込めるしかない」


 固めるのもゴーレム制作のスキルを使えば簡単だ。

 そこは何とでもなる。

 やれそうだ。



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