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『時代遅れスキル『ゴーレム制作』専門の男爵家四男が、転生者の知識でそこそこ頑張るはずが、なぜか王弟に目をつけられてしまう話』  作者: 葉月奈津・男
第三部 貴族

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第122話 『治療法』

 


 原因は分かった。

 だが――。


「クッソ!」

 救いは見いだせなかった。


 鉱山由来の毒。

 この世界には概念すらない。

 当然、治療法もない。


『オレ』の知識でも、

 こういう毒は 対処療法 しかなかったはずだ。

 症状を和らげるだけで、根本はどうにもならない。


 この世界の魔法なら……?

 そう思ったが、すぐに否定した。

 ――魔法で治るなら、封鎖なんてされていない。


「クソ!」

 魔法も薬も頼れない。

 つまり、救えない。

 何もできない自分に、怒りが湧いた。


「クアルト様が悪いわけではありません。御自分を責めてはなりませぬぞ」

 レイモンドが静かに声をかけてくれる。

 慰めのつもりなのだろう。

 だが、胸の奥の苛立ちは消えなかった。


「原因物質を取り除ければ……」

『オレ』は呟いた。


 体を蝕む“それ”さえ取り除ければ、

 魔法で再生できる可能性はある。

 毒が残っているから治らないだけだ。


「それこそ……それこそ?」

 言葉が喉で止まった。


 今、自分が言おうとした言葉が、

 閃きとなって頭の中で点滅している。


「……それこそ……『抽出』できれば……助けられる、かも?」

 ゆっくりと、確かめるように口にする。


 体の中から、物質を取り出す。

 それを『抽出』と表現した。


 抽出なら――

 できる。

『ゴーレム制作』のスキルにある。

『オレ』は息を呑んだ。


「……抽出なら、できるよな?」

 クアルトの能力については、ある程度みんな知っている。

 坑道の壁から『亜鉛』や『金』だけを取り出す能力。


『浄化』は魔力による汚染や呪いのたぐいにしか効果がない。


『解毒』は毒物質の『毒性』を解除するが、毒そのものは取り除けない。


『排出』の魔法は、出したい物質だけでなく周囲の体組織をも巻き込む。

 負担が大きすぎて、体力が持たない。


『抽出』なら、体組織はそのままで、特定物質だけを取り出せる――かもしれない。


 アーネストが目を見開く。

 レーデルフィーヌが息を呑む。

 イーアンは理解が追いつかず固まっている。

 レイモンドだけが、

 静かに、しかし確信を持って言った。


「……クアルト様。それは、貴方様にしかできぬ方法でございますな」

『オレ』は頷いた。


 そうだ。

 この世界には存在しない概念。

 存在しない治療法。


 だが――

 クアルトだけが持つ“抽出”という力なら、

 体内の毒を取り除けるかもしれない。


 希望が、

 ほんのわずかに灯った。


「銅鉱山・・・なら、問題物質はたぶん――」

『オレ』の知識では二つ。

 主な症状が『咳』であれば、ほぼ確実に『アレ』だろう。


 もう一つの方は…

「そうか、病気の症状とは思われていない可能性があるな」

 普通の病気ではありえないものが多く含まれるから。


 どちらにせよ――

「いや、どちらも、か」

 どっちか一つだけなんてことはないだろう。


「とにかく、体から毒――『砂毒』を取り除くことが肝要だ」

 毒の名前を言っても理解できないだろう。


 この世界にはそんな名前はないからだ。

 だから――『砂よりも小さい毒』で『砂毒』と呼ぶことにした。


「……この毒はね、病じゃない」

 みんなにどう話すか考えながら口を開く。


『僕』にも知っておいてほしい。

 だから、“知識”を感覚に落とし込む必要があった。


「生き物が作る“毒”じゃなくて……もっと小さい、“物”なんだ」

 視線が集まる。

『オレ』は指先で机を軽く叩きながら続けた。


「粉より細かい。砂よりも、もっと細かい。

 目にも見えないくらいの“粒”だよ」


 イーアンが眉を寄せる。


「そんなものが……水に混じるのか?」

『オレ』は頷いた。


「混じるんだよ。鉱山には、普通じゃない“砂”が眠ってる。

 それが粉になって、水に溶けて……体に入る」


 レーデルフィーヌが息を呑む。


「それが……セティを?」

「うん。その“砂”はね、体の中に入ると、出ていかない。

 少しずつ、少しずつ……体を削っていく」


 アーネストが拳を握る。


「じゃあ……どうすれば」

『オレ』は静かに言った。


「取り除くしかない。でも、魔法じゃ無理だ。

 浄化も、解毒も、排出も……全部、違う」

 沈黙が落ちる。


「だから、これ――“砂毒”。

 砂より細かい毒。これは、治せない」

 だからペクンは封鎖された。

 理由も知られないまま、ただ恐怖だけで。


 レイモンドだけが深く頷いた。


「……ゆえに、抽出でございますな」

『オレ』は息を吸い、ゆっくりと吐いた。


「そう。“砂毒”を体から抜けるのは……僕だけだ。たぶんね」



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