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『時代遅れスキル『ゴーレム制作』専門の男爵家四男が、転生者の知識でそこそこ頑張るはずが、なぜか王弟に目をつけられてしまう話』  作者: 葉月奈津・男
第三部 貴族

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第120話 『病状』

 


 オレは後悔していた。

『もっと気にかけるべきだった!』と。


 七歳のクアルトが気付かなかったのはしかたがない。

 だけど、40過ぎた大人が気付いてやれなかったのは恥以外ない。


 クアルトは子供だが貴族。

 自分より上の者がいないところでは当然に場の中心。

 部下や使用人を管理・統率する身分なのだ。


 ともに行動している間、セティの保護はクアルトの責任となる。

 たとえ、セティのほうが年上だとしても。


 だというのに、世話をイーアンに委ね……投げっぱなし。

 無責任の謗りは免れない。

 知りませんでしたで、済ませられるものではないのだ。


 ◇


 領主館へ戻ると、他は差し置いてセティの部屋を訪ねる。


「なにかあったのか?」

 部屋の前に立つや否や、隣の部屋からイーアンが出てきた。


 待っていたようなタイミングだ。

 クアルトが帰ってきたと気付いて備えていたのではないだろうか?


「セティは‥‥‥大丈夫?」

 どう言えばいいかと考えてみたが、こんな言葉しか出なかった。


「……なぜ、わかった?」

 軽く息を呑んで聞いてくる。

 外出先で気付いたことが不思議なようだ。


「出先で、ペクンで病流行の噂を聞いたんだ。で、セティの母上殿や、セティも咳をしていたなって思って」

 町全体が封鎖されているとかの情報は伏せた。

 不用意にパニックを引き起こすような言動は避けるべきだろう。


「……実は、かなり前から咳はしていた」

 観念したように、言葉を絞り出す。


「初めはただの風邪と軽く考えていたんだが……まったく収まる様子がない」

 拳を握り、苦渋の表情だ。


「むしろ、悪化していく。どうしたものかと思っていた。それが、ここ数日は咳の頻度も増えてきて、苦しんでいる」

「なんで言わないの!?」

 医者を呼ぶくらい、いくらでもするのに!


「本人が嫌がるんだ」

 イーアンは力なく首を振った。


「もともと、無理矢理ついてきている。これ以上は迷惑を掛けられないと言うんだ」

「なにをいまさら」

 密航に気づいた瞬間ならともかく、同行を許可したからには旅の仲間だぞ!

 具合が悪いなら言ってこい!


「まぁ、それはもういいよ」

 昨日までどうだったかを話していても何にもならない。


「とりあえず、一緒に来て。話を聞かせて」

 こんなところで立ち話を続けるわけにもいかない。

 クアルトの部屋へ呼んだ。


 セティの病状を聞いておきたい。

 本人を直接、見たいところではあるが、起こしてまですることでもない。

 明日以降にするにしても、負担はなるべくかけないようにしたい。

 今夜のうちに、ある程度の目途はつけておきたかった。


 ・

 ・

 ・


 部屋に入り、しっかりとソファに腰掛けて話を聞く。

 イーアンが気付いた症状のすべてを。


 イーアンが差し向いに座る。

 後ろにはレイモンドとアーネスト。

 扉のそばにはレーデルフィーヌという布陣だ。


 アンヌとは、部屋の外で別れた。

 なにか、やることがあるようだ。


 で、聞きだしたセティの症状。

 それが、これだ。


 1、乾いた咳。  

 一日に数十回。

 本人は喉が渇く、粉っぽいというが。

 水で潤した程度ではどうにもならない。


 2、軽い息切れ。

 階段を上るとき、ちょっと急いで走った時。

 胸が重く、息が吸いづらい。

 呼吸が浅くなる。

 本人は「なんか疲れやすくなった」としか言わない。


 3、手足の軽いしびれ。

 指先が『ジン』とする。

 足裏の感覚が薄布一枚分遠く感じる。

 長く歩くと足が重い。


「他にも、皮膚の色が濃くなった。日焼けかもしれないが……」


「食欲がない。吐き気もあるようだ」


「微熱があって、そのせいもあるのか時々ボーっとしていることがある」


 一見、『風邪?』、『疲れ?』、『栄養不足?』、そんな症状だ。

 重症というほどではない。


 でも、間違いなく、症状はある。

 そして、進行している。


 だけど――

「おかしいな」

 話を聞き終えた『オレ』は首を傾げた。


「なにがですかな?」

 レイモンドが聞いてくる。


「ペクンの状況からして、雰囲気的には伝染病だ」

 そうでなければ、町全体で病人が出たりはしない。

 封鎖されるような事態にはならないだろう。


「なのに、僕たち、とりわけイーアンが何でなんともないのか?」

『オレ』は、指先でテーブルを軽く叩いた。

 考えるときの癖だ。


 イーアンはセティと最も長く一緒にいた。

 寝起きも近い。

 食事も行動もほぼ同じ。


 それなのに――

 症状がまったく出ていない。

 これは、どう考えてもおかしい。


「……確かに」

 イーアンが眉を寄せた。


「俺は、まったく咳も出ていない」

「そうなんだよ」

『オレ』は静かに続けた。


「伝染病なら、まずイーアンが倒れてるはずだ。セティの母上殿も、セティも、同じ症状が出ているのに。これはおかしい」

 レイモンドが息を呑む。


「……つまり、クアルト様は」

『オレ』は頷いた。


「――これは“うつる病”じゃない……かもしれない」



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